AI時代のデータセンターが「巨大蓄電所」に変わる──NTTデータらが挑むUPS・EVリユース電池活用の需給調整と、インフラとしての新たな役割

1. リード

現代社会のデジタル基盤であるデータセンター(DC)が、今、劇的なパラダイムシフトを迎えている。その契機が、生成AIの爆発的普及だ。大規模言語モデル(LLM)の学習や常時稼働するAIエージェントの処理のため、超高密度なGPUサーバーが急速に導入されている。しかしこの「AI革命」は、電力グリッド(送配電網)の逼迫と周波数の不安定化という深刻な副作用をもたらしている。

GPUサーバーは従来のCPUサーバーと比して桁違いに消費電力が大きく、急激な負荷変動を伴う。このような「電力消費の怪物」の急増は送配電網に過大な負荷を与え、周波数維持を困難にする。脱炭素化に伴う変動性再生可能エネルギーの増加も相まって、グリッドの安定化は今や国家的な最優先課題である。

こうした中、DCを単なる電力消費地から「グリッドを能動的に安定化させるインフラ(巨大蓄電所)」へと転換する画期的な取り組みが始まった。2026年6月25日、ITサービス大手のNTTデータ、EV(電気自動車)リユースバッテリー事業を手がけるフォーアールエナジー(日産自動車と住友商事の合弁会社)、および日産トレーディングの3社は、データセンターのUPS(無停電電源装置)とEVリユースバッテリーを協調させ、電力系統の需給調整に貢献する実証実験および実用化に向けた共同アプローチを発表した。

DCは停電に備え膨大なUPS用蓄電池を抱えているが、これらは通常「休眠資産」である。このアセットをEVの二次利用バッテリーと組み合わせ、分散型エネルギーリソース(DER)として再構築する。これにより周波数を秒単位で制御する「需給調整市場」への参入が可能となり、DCが送配電網のクッション(緩衝材)として機能することになる。

本稿では、この共同発表の技術的・制度的意義を深く掘り下げるとともに、AI需要がグリッドに与える影響、需給調整市場のメカニズム、およびこの取り組みを実用化へ導く決定的なブレイクスルーとなる 2027 年度の制度改正「高圧サブメータリング(機器個別計測)制度」について詳解する。電力の「お荷物」と懸念されたデータセンターが、系統の安定化を担う「巨大蓄電所」として再生する道筋を明らかにする。


2. 背景と課題

2.1 なぜAI需要がグリッドを圧迫するのか

生成AIの普及は、データセンターの電力設計を激変させた。従来のクラウドサービス等におけるラック電力は平均4kW〜8kW程度だったが、最新のGPUサーバーではラックあたり40kW〜80kW、最先端の液冷設計では100kWを超える。この電力密度の激増がグリッドを圧迫する要因は、「定常的な高負荷」と「急激な負荷変動」の二面性にある。

第一に、自律型AIエージェントの常時稼働である。人間が操作するWebシステムとは異なり、自動最適化やデータ処理を裏で実行し続けるAIエージェント群は、昼夜を問わず24時間稼働する。これによりベースロード需要が極めて高い水準で固定され、電力系統の調整マージンを構造的に圧迫する。

第二に、大規模モデルの学習開始時やバッチ処理の実行に伴う「急激な負荷変動(ステップロード)」だ。数万個のGPUが一斉に計算を開始・終了する際、数メガワットから数十メガワット規模の負荷が数秒〜ミリ秒単位で急変する。この極端な変動は送配電網の電圧や周波数を揺さぶり、近隣設備に影響を及ぼす「周波数偏差」を誘発する。

送配電網は「発電量と消費量の完全な一致(同時同量)」を前提とする。これが崩れると系統の周波数が基準値から逸脱し、最悪の場合は広域停電(ブラックアウト)に至る。AI需要は、この同時同量の維持における最大の不確実性因子となっている。

2.2 需給調整市場と周波数維持の仕組み

周波数を一定(50Hz/60Hz)に維持するため、系統運用者(一般送配電事業者)は需給バランスを調整する「調整力」を市場経由で調達している。この調整力は応答速度や継続時間に基づき、以下のように区分される。

  1. 一次調整力: 周波数偏差を感知し、自動的かつ極めて迅速(10秒以内、動作開始は数秒以内)に出力を調整する。主に発電機のガバナフリー運転や蓄電池が担う。最も応答速度が求められるため、希少価値が高く高単価である。
  2. 二次調整力: 系統運用者からの自動信号(AGC)に基づき、5分以内に応答する。一次調整力で食い止めた偏差を基準値付近まで戻す役割を持ち、専用回線によるオンライン制御を要する。
  3. 三次調整力: 指令から15〜30分以内に応答する予備力であり、他の大容量発電機が立ち上がるまでの繋ぎとなる。

リチウムイオン電池を用いるDC of UPSは、化学的エネルギーを瞬時に電気に変換できるため、超高速応答が必要な「一次調整力」や「二次調整力」に最適である。しかし、UPSは商用電源の瞬時停電等からIT機器を保護する「最後の砦」であり、その蓄電池を系統に放電することはDC本来の信頼性リスクと直結する。

そこで、NTTデータらが提示した「EVリユース電池との協調」が活きる。常時は安価なEVリユース電池を系統調整の主役として充放電させつつ、非常時にはUPSアセットと協調制御する。これにより、IT機器の安全性を保ったまま、需給調整に貢献する分散型エネルギーシステムが実現する。

2.3 2027年度制度改正「高圧サブメータリング制度」の決定的な意義

実用化への決定的な鍵となるのが、2027年度に導入予定の「高圧サブメータリング(機器個別計測)制度」である。

現行制度下での電力取引・決済は「本館の受電点(メインメーター)」の計測が基準である。そのため、内部の特定UPSを制御して電力を系統に供給しても、DC全体の空調負荷変動等と相殺されてしまい、純粋な調整実績として評価・精算されない課題があった。これには、実績評価の歪み、安全制御の困難さ、VPP事業を束ねるアグリゲーターの参入障壁という3つの壁が存在した。

2027年度の制度改正は、これらを根底から解決する。新制度では、受電点メーターだけでなく、建物内部の特定アセット(UPSや個別蓄電池)の直近に設置した「個別子メーター(サブメーター)」の計測値を、正式な取引証跡として認める。

この最大のブレイクスルーは「アセットの完全な切り出しと仮想化(VPP化)」だ。DC事業者は、サーバー等のIT負荷と完全に分離し、系統安定化に特化した蓄電池アセットのみを単独で市場登録できる。アグリゲーターは個別メーターのリアルタイムデータを基に「蓄電池がいつ、どれだけ充放電したか」のみを精算でき、テナントに対しても「IT機器の電源品質に影響を与えず、独立したアセットで系統に貢献している」ことを証明できる。

さらに、第三者のエネルギー事業者がDC内に蓄電池を設置してVPP事業を行うなど、マルチテナント型アグリゲーションへの道も開かれる。2027年度の制度改正は、DCを「分散型系統ハブ」へと変貌させ、巨大蓄電所化を社会実装する真のトリガーとなるのだ。


3. 技術と仕組み

データセンター(以下、DC)を「巨大蓄電所」として機能させ、電力系統の需給調整に貢献するためには、従来の停電対策設備としての設計思想を根本から覆し、グリッド(電力系統)と双方向に協調する高度なパワーエレクトロニクス制御技術およびエネルギーマネジメントが必要となる。本節では、DCの無停電電源装置(UPS)を需給調整資源化する手法、既存アセットの循環利用、EVリユースバッテリー蓄電システムの構築、および瞬時応答を実現する「一次調整力」と「自端制御」の技術的要件について詳述する。

3.1 DC用UPSを需給調整リソースへ変換する制御技術

従来のDC用UPSは、商用電源の停電時にサーバーなどの重要負荷へ一時的に電力を供給し、自家発電機が起動・同期するまでの数分間をブリッジする「非常用バックアップ装置」として単方向の動作を前提に設計されていた。しかし、DCを需給調整所化するためには、UPSを電力系統の変動を吸収・緩和する「双方向アクティブ資源」へと変革しなければならない。

双方向パワーコンディショナ(PCS)技術とグリッドフレンドリーUPS

UPSを需給調整リソースとして活用する核心は、充電(系統からUPS内蓄電池へ)と放電(UPS内蓄電池から系統へ、またはサーバー負荷へ)をリアルタイムに制御する双方向インバータ/コンバータ(PCS)技術である。

具体的には、以下の3つの給電トポロジーおよび制御方式が適用される。

  1. 負荷移行(ロードディスパッチ)制御

系統が電力不足(周波数低下など)に陥った際、UPSがバックアップ蓄電池から直接サーバー負荷へ給電する比率を高める。これにより、DCが系統から受電する電力(負荷)を実質的に瞬時削減(ネガワット化)し、系統側の負荷を緩和する。この方式は、系統への「逆潮流(逆送電)」を行わないため、系統保護協調上の手続きが比較的シンプルであるという利点がある。

  1. 双方向インバータによる逆潮流制御

系統の周波数維持や電圧調整のために、UPS蓄電池の余剰電力を商用グリッド側へ逆潮流(アクティブ逆送電)する。これには、電力系統の電圧・位相に完全に同期する「系統連系インバータ」の制御が必要であり、系統インピーダンスの変動に追従しつつ高調波歪みを抑制する「グリッドフォーミング(GFM)制御」や「グリッドフォロイング(GFL)制御」が組み込まれる。

  1. 高速充電制御(系統余剰電力の吸収)

太陽光発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)が過剰に出力され、系統電圧が上昇する局面では、UPS蓄電池への受電量を意図的に高め、系統の余剰電力を急速吸収する。これにより、再エネの出力抑制(出力制御)を回避する「下げ調整力」として貢献する。

サーバー信頼性と需給調整の最適両立アルゴリズム

DCの最優先使命は「サーバーの無停電運転(99.999%以上の可用性)」である。需給調整のための充放電動作が、万が一の停電時のバックアップ容量を脅かすことは許されない。

これを解決するため、最新の制御システム(EMS: Energy Management System)には、以下の「スマート・ヘッドルーム制御アルゴリズム」が実装されている。

  • SOC(残容量)の動的セグメンテーション

UPS蓄電池の全容量のうち、「非常時バックアップ領域(例: 最低10分間の稼働を保証するSOC 40〜50%)」と、「需給調整可能領域(例: SOC 50〜90%の範囲)」を論理的に分離する。

  • サーバー負荷予測連動

IT負荷のリアルタイムな消費電力予測と連動し、夜間などの低負荷時間帯にはバックアップに必要な絶対容量が減るため、需給調整に回せるバッファ容量(ヘッドルーム)を動的に拡大する。

  • 熱・劣化マネジメント

頻繁な充放電サイクルによるリチウムイオン電池の劣化(SOH劣化)や発熱を防ぐため、充放電レート(Cレート)を抑制しつつ、セルバランス制御を最適化する熱管理システム(BTMS)と連携する。

3.2 更新期UPSシステムの有効再利用(アセットの循環利用)

DCの運用ライフサイクルにおいて、UPS装置そのものや蓄電池モジュールは、法定耐用年数や信頼性維持の観点から、IT機器の更新サイクル(3〜5年)や建物のライフサイクル(15〜20年)とは異なるタイミング(一般に蓄電池は5〜10年、UPS筐体は10〜15年)で更新・撤去される。これらの「更新期アセット」の廃棄は、多大なコストと環境負荷をもたらす。NTTデータらが推進するアプローチでは、これを単なる廃棄物とせず、循環型経済(サーキュラーエコノミー)のスキームへと統合している。

筐体およびパワーエレクトロニクスの長寿命化とリファービッシュ

UPSの筐体や大容量トランス、バスバーなどの金属構造物は、電気的・物理的な経年劣化が比較的緩やかである。そのため、以下の手順でアセットの再利用(リファービッシュ)が行われる。

  1. コンポーネントごとの寿命評価と部分交換

電解コンデンサや冷却ファン、各種ゲートドライブ基板などの「有寿命部品」を新品に交換し、筐体や主回路コンポーネントはそのまま再利用する。

  1. ソフトウェア・アップデートによる高機能化

古い単方向動作のUPS制御基板を、最新のデジタル信号処理プロセッサ(DSP)を搭載した双方向制御基板へ換装する。これにより、ハードウェアアセットを最小限の追加投資で「グリッド対応型UPS」へとアップグレードする。

退役バッテリーの第二の人生(セカンドライフ・アプリケーション)

DCでの瞬時停電補償という極限の信頼性を求められる用途からは退役した鉛蓄電池やリチウムイオン電池であっても、依然として定格容量の70〜80%以上の容量を維持している場合が多い。これらは、以下のような比較的要求水準がマイルドな用途へ転用(セカンドライフ利用)される。

  • ピークカット・ピークシフト用の産業用蓄電池

一般工場や商業ビルにおける、時間帯別の電力料金平準化のための蓄電システム。

  • 再エネ発電所併設型の緩やかな系統用蓄電システム

メガソーラーや風力発電所に併設し、日中の発電電力を数時間単位でシフトするための緩慢な充放電用途。

3.3 EVリユースバッテリーを活用した蓄電池システムの構築と連携の意義

DCが「巨大蓄電所」として自立するためには、UPSのバックアップ蓄電池だけに頼るのではなく、DC敷地内に「系統用蓄電システム(BESS: Battery Energy Storage System)」を大規模に併設することが極めて有効である。ここで注目されているのが、電気自動車(EV)から回収されたリユースリチウムイオンバッテリーの活用である。

4Rエナジーおよび日産トレーディングとのアライアンスの意義

EVの普及に伴い、数年後には大量の車載用リチウムイオン電池が寿命(車両としての実用限界)を迎える。これらを効率的に回収・再製品化するため、日産自動車と住友商事の合弁会社である「4Rエナジー」、および日産グループの総合商社「日産トレーディング」との強固な連携が、サプライチェーンの観点から決定的な意味を持つ。

【EVリユースバッテリー循環サプライチェーン】
[日産EV(リーフ等)]
│ (市場回収・物流:日産トレーディング)
▼
[4Rエナジー(再生工場)]
│ ・高度SOH診断(わずか数分でセル単位の劣化を測定)
│ ・モジュールの再グループ化と安全性確認
▼
[DC併設型大規模蓄電システム(BESS)]
│ ・系統安定化(一次〜三次調整力)
│ ・再エネ自家消費の最大化

  • 4Rエナジーの技術的役割:高度SOH診断と再生処理

EV用バッテリーは多種多様な環境(急速充電の頻度、気候、走行パターン)で使用されるため、個々のモジュールの劣化状態(SOH)は一様ではない。4Rエナジーは、バッテリーモジュールを分解することなく、セルやモジュール単位の残存容量や内部抵抗を数分間で超高速かつ精密に測定・診断する特許技術を有する。この技術により、同一特性を持つモジュール同士を厳選して再パッケージ(リグループ)し、新品と同等の安全性と信頼性を担保した産業用蓄電システムへと再生する。

  • 日産トレーディングの技術的役割:ロジスティクスとトレーサビリティ管理

使用済みバッテリーの回収から輸送にわたるグローバルな物流網の構築と、バッテリーの固体識別情報(ID)に基づくトレーサビリティの確保を担当する。これにより、各モジュールが「いつ、どの車両で使われ、どのように再生されたか」の履歴がデジタルに管理され、欧州バッテリー規則などの国際的な環境規制やレギュレーションへの適合が保証される。

EVリユースバッテリー活用のメリットと環境性

  1. 製造時CO2フットプリントの極小化

リチウムイオン電池の新規製造には、リチウム、コバルト、ニッケルなどの希少金属の採掘や、セルの極板製造・エージング工程において莫大なエネルギー(ひいてはCO2排出)を消費する。リユースバッテリーを採用することで、バッテリー製造に伴うScope 3(間接排出)のCO2排出量を新規製造時の数分の一(最大で約70〜80%削減)に抑えることができる。

  1. 優れた耐久性と安全設計の継承

車載用リチウムイオンバッテリー(例:日産「リーフ」のバッテリー)は、激しい振動、過酷な温度変化、衝突事故時の耐衝撃性など、極めて厳しい車載規格をクリアして設計されている。この堅牢な物理的ハウジングと、セルごとの異常発熱を防止する高度な車載用BMS(Battery Management System)回路をそのまま定置型蓄電池システムに流用するため、定置専用に設計された低コストな民生用蓄電池よりも、本質的な安全性が極めて高い。

3.4 一次調整力(Primary Regulation)と自端制御(オフライン自端制御)の技術要件

電力系統の安定化において最も難易度が高く、価値の高いリソースとされるのが「一次調整力(周波数制御予備力)」である。DCがこの一次調整力を提供するためには、外部の司令塔(アグリゲーターのサーバーや電力広域的運営推進機関の指令)からの指示を待っていては間に合わない。周波数の異常をローカルの設備自身が瞬時に検知し、自律的にミリ秒オーダーで動作する「自端制御(オフライン自端制御)」の確立が必須条件となる。

一次調整力の厳しい技術要件

一次調整力公募や需給調整市場における一次調整力の技術要件は、極めて厳格である。

項目 技術要件
応答開始時間 周波数偏差を検知してから数秒以内(可能な限り瞬時)
全出力到達時間 偏差検知から10秒以内に指令値(最大出力)に到達すること
継続確保時間 要求された出力を30分間にわたって継続維持できること
測定頻度 周波数を定常的に高精度(ミリヘルツオーダー)で計測していること

火力発電所のタービンにおける「ガバナフリー運転(回転速度の変化に応じて自動的に蒸気弁を開閉する機械的・電気的フィードバック制御)」と同等の応答性能が、DCのUPSやBESSに対しても求められる。

オフライン自端制御(自律分散型周波数応答制御)のメカニズム

自端制御とは、中央のクラウドサーバーや外部通信網(WAN)を経由せず、UPS/BESSを制御するローカルコントローラ(エッジデバイス)の内部処理のみで完結する閉ループ制御である。通信ネットワークの遅延(一般に数秒〜数十秒)や、災害等による通信遮断リスクを完全に排除するため、以下のアーキテクチャが実装されている。

【オフライン自端制御のシステム構成】
[電力系統(グリッド)] ── (AC電圧ライン) ──┐
│                                   │
▼ (変成器 PT)                       ▼ (受電・充放電)
[超高速周波数演算器 (PLL回路)]            [双方向インバータ (PCS)]
│                                   ▲
▼ (実測周波数 f)                    │ (ゲートパルス信号)
[自端制御コントローラ (PI/PID)] ──────────┘
・基準周波数 (50Hz / 60Hz) との偏差 Δf 算出
・ドループ特性に基づく瞬時目標出力 P* の決定

  1. フェーズド・ロック・ループ(PLL)による超高速周波数計測

系統の交流電圧波形を計器用変成器(PT)を介してローカルコントローラに取り込み、PLL(Phased Locked Loop:位相同期ループ)アルゴリズムを用いて、ミリ秒(ms)単位で系統周波数を常時演算する。測定分解能は `±0.001 Hz` 以下の極めて高い精度が要求される。

  1. ドループ制御(周波数・有効電力特性)アルゴリズム

コントローラは、検出した周波数 $f$ と基準周波数 $f_{ref}$(東日本では50.00Hz、西日本では60.00Hz)との偏差 $\Delta f = f - f_{ref}$ を算出する。

以下のドループ特性式に基づき、瞬時に目標出力 $P^*$ を演算する。

$$P* = - \frac{1}{K} \Delta f$$

ここで、$K$ はドループ率(周波数変化に対する出力感度を規定する定数)である。

  • 周波数低下時($\Delta f < 0$):系統の電力が不足していると判断し、UPS/BESSから系統(またはIT負荷)へ瞬時に電力を供給(放電)する(LFC:負荷周波数制御)。
  • 周波数上昇時($\Delta f > 0$):系統の電力が過剰であると判断し、系統からUPS/BESSへ瞬時に電力を吸収(充電)する。
  1. ミリ秒オーダーのパワーエレクトロニクス制御

決定された目標出力 $P^*$ をもとに、双方向PCSのIGBT/SiCパワー半導体のゲート駆動信号(PWM制御)をデューティ比制御レベルで補正する。これにより、周波数偏差検知から蓄電池の実際の充放電応答までを100ミリ秒〜数百ミリ秒以内で完了させ、系統変動に完全に追従する。

このオフライン自端制御により、通信インフラの切断時であっても、DCはグリッドのローカルな周波数変動を感知する「自己防衛的かつ自己完結的な防波堤(系統安定化グリッド)」として機能することが可能となり、真の意味で信頼性の高い「社会インフラとしてのデータセンター」が具現化する。


4. 国内の動向と他社比較

4.1. データセンターのエネルギーリソース化を巡る国内の潮流と市場背景

2020年代後半、生成AIの爆発的普及に伴うデータ処理量の指数関数的な急増は、データセンター(DC)の電力需要を劇的に押し上げている。この未曾有の消費電力増加に対し、DCは単なる電力消費の「ブラックホール」としてではなく、系統安定化に寄与する「エネルギーの制御拠点(蓄電所)」へと進化することが強く求められている。日本の電力システムにおいては、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの導入拡大に伴う系統周波数や電圧の不安定化が顕在化しており、一般送配電事業者が系統全体の需給バランスを維持するための「調整力」の確保が急務となっている。こうした中、DCがバックアップ電源として常設している非常用発電機や無停電電源装置(UPS)の蓄電池といった莫大なエネルギーアセットを、バーチャルパワープラント(VPP)や需給調整市場へ供出する動きが急速に進展している。

4.2. IIJと関西電力:白井DCにおけるBCP蓄電池を活用した先駆的VPP・デマンドレスポンス

データセンターのエネルギーソース化における国内最古にして最も洗練された先駆的事例の一つが、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)が運営する「白井データセンターキャンパス」(千葉県白井市)における取り組みである。IIJは関西電力株式会社と共同で、同DCに配備されたBCP(事業継続計画)用の蓄電池および非常用発電機を統合制御し、系統電力の需給調整に活用する実証・商用運用を行っている。

白井データセンターキャンパスには、テスラ社製の大型産業用蓄電池「Megapack」が導入されている。このメガパックとDC既存のUPS用蓄電池は、通常時はDCの瞬時電圧低下や停電に対するバックアップとして機能するが、系統電力を管理するアグリゲーター(関西電力)からの指令に応じて、電力需要が逼迫する時間帯に放電(逆潮流含む)を行う、または系統電力を吸収(充電)するデマンドレスポンス(DR)に対応している。

IIJのシステムの優位性は、データセンターの主目的である「IT機器の無停止稼働(BCP)」の信頼性を損なうことなく、蓄電池のSOC(State of Charge:充電状態)を安全マージン内に維持しつつ、余剰な充放電容量を切り出して需給調整市場(主に三次調整力②など)に供出する制御アルゴリズムを構築した点にある。これにより、DC側は蓄電池の遊休容量から新たな収益(調整力報酬)を生み出すと同時に、地域系統の安定化に寄与するビジネスモデルを確立している。

4.3. 東芝:高信頼性UPSとSCiB™による調整力市場参入へのアプローチと技術検証

重電・電機大手の東芝グループ(東芝インフラシステムズ株式会社など)は、データセンターに不可欠な高信頼性UPS(無停電電源装置)の制御技術と、自社製のリチウムイオン二次電池「SCiB™」を最適に組み合わせることで、需給調整市場への参入に向けた技術検証を進めてきた。

東芝のアプローチの核となるのは、負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用した「SCiB™」の極めて優れた物理的特性である。SCiB™は、一般的な三元系(NMC)やリン酸鉄(LFP)リチウムイオン電池と比較して、2万回以上の充放電サイクルに耐える驚異的な寿命性能を有し、かつ急速な充放電(高Cレート)が可能で、内部短絡時の熱暴走リスクが極めて低いという特徴を持つ。

東芝は、このSCiB™の特性を活かし、UPSがデータセンター電源保護の待機状態にありながら、系統からの周波数制御信号や需給調整要求(主に三次調整力①・②などの時間単位の需給バランス調整)に対して、高頻度かつ俊敏に充放電を繰り返す制御システムを検証した。通常のリチウムイオン電池では、このような頻繁な充放電は電池寿命の急激な劣化を招き、UPSとしての信頼性を損なう懸念があるが、東芝はSCiB™の長寿命特性と、UPS内部の双方向コンバータを細密に制御するゲートドライブ技術によってこの懸念を払拭し、既存設備を改修して需給調整市場へとシームレスに適合させる技術的妥当性を証明した。

4.4. NTTデータらの取り組みにおける独自性と競合優位性

これら先行事例と比較した際、NTTデータが主導するプロジェクト(NTTアノードエナジー等との連携)は、次の2つの極めて先進的なアプローチによって、日本のデータセンター・エネルギーマネジメントにおける絶対的な優位性を確立している。

① 日本初となるデータセンターUPSを用いた「一次調整力」への適合と超高速制御

日本の需給調整市場において、「一次調整力」は最も技術的障壁が高い区分である。一次調整力は、系統の周波数変動(50Hz/60Hzのズレ)をリアルタイムに検知し、指令の受信(または周波数偏差の自己検知)から「10秒以内」に応答を開始し、かつその応答を持続させる必要がある。IIJなどの既存事例の多くは、応答時間に数分から数十分の猶予がある「三次調整力」をターゲットとしていたが、NTTデータはデータセンターのUPSを用いて、日本で初めて一次調整力の適合試験(一般送配電事業者による実証試験)に公式にパスした。

これを実現するため、NTTデータは系統周波数をミリ秒オーダーで常時監視し、系統変動に対してUPSのインバータ出力を逆追従させる「周波数応答(FCR:Frequency Containment Reserve)制御システム」を自社開発した。サーバー側の刻々と変化するIT負荷と、系統側から求められる充放電要求の「動的差分」を瞬時に演算し、UPSの出力ゲートをナノ秒〜ミリ秒単位で制御することで、IT機器への供給電圧を寸分も揺らがせることなく、系統へ超高速に電力を供出するブレイクスルーを達成した。

② EVリユースバッテリーとUPSを最適統合する「マルチユース型ハイブリッド蓄電システム」

もう一つの決定的な独自性は、電気自動車(EV)から回収された使用済みリユースバッテリーをデータセンターの本格的なUPS・蓄電アセットとして実用化した点である。

EVリユースバッテリーの活用は、原材料の新規採掘を抑制し、データセンターの建設・運用に伴うライフサイクルCO2(Scope 3)を大幅に削減するサーキュラーエコノミーの要である。しかし、リユース電池は個体ごとに初期の使用環境が異なるため、最大容量や内部抵抗などの劣化状態(SOH:State of Health)が不均一であり、これが高出力を瞬時に要求されるデータセンターUPSの安全性・信頼性において大きなボトルネックとなっていた。

NTTデータは、AIと高精度なセンサーを用いた「バッテリーマネジメントシステム(BMS)」および「エネルギーマネジメントシステム(EMS)」を構築した。各EVバッテリーモジュールのSOHをリアルタイムで精密診断し、劣化度に応じた最適な充放電電流の配分(アクティブ・バランシング)を行う技術を実装した。万が一、特定のモジュールが異常発熱や急激な電圧降下を起こした際には、それをミリ秒単位で系統から切り離し(ホットスワップ)、残された健全なモジュールだけで無瞬断の給電を維持する多重冗長システムを完成させた。これにより、新品電池に比べて調達コストを劇的に抑えつつ、世界最高水準の信頼性と環境性を両立した「マルチユース型蓄電システム」を具現化している。

国内主要3社の取り組み比較

項目 IIJ × 関西電力 東芝グループ NTTデータ(本取り組み)
主な対象市場 三次調整力②、デマンドレスポンス 三次調整力①・② 一次調整力(周波数制御)、三次調整力等
応答速度要件 15分〜45分程度 15分程度 10秒以内(ミリ秒単位の超高速応答)
採用蓄電池種別 テスラMegapack(新品LFP/NMC)、UPS鉛電池 自社製SCiB™(新品LTO:チタン酸リチウム) EV使用済みリユースバッテリー(ハイブリッド)
技術的特徴 空調・発電機との統合制御、余剰SOCの切り出し LTO電池の超長寿命・安全性特性の活用 高速周波数追従制御、リユース電池個別BMS制御
環境価値 系統安定化による再エネ抑制回避 排出削減、高効率変換によるロス低減 製造時CO2の大幅削減(サーキュラーエコノミー)


5. 未来の展望

5.1. GPUサーバー搭載のコンテナ型データセンターへの適用:高密度かつ機動的な分散型エネルギーリソース(DER)

生成AIの進化スピードは指数関数的であり、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングや高度な推論処理を行うGPUクラスターの集積度が増加している。NVIDIAの最新GPUを搭載したサーバーラックは、1ラックあたり50kW〜100kWを超える超高密度電力を要求し、従来の空冷式データセンターのスペックを遥かに凌駕する。このため、必要最小限の冷却設備(液冷・水冷システム)と受配電設備をコンテナモジュール内に高密度にパッケージングした「コンテナ型データセンター(Containerized Datacenter)」の導入が世界的に急増している。

NTTデータらが確立した「UPS・EVリユース電池制御技術」は、このコンテナ型データセンターの機動性を極限まで高め、次世代の「動的・高密度な分散型エネルギーリソース(DER)」へと進化させる可能性を秘めている。

具体的には、GPUコンテナに対して、同規格のEVリユース蓄電池コンテナをダイレクトにパッケージングし、送配電網の物理的空き容量が逼迫している系統(例えば、再生可能エネルギーの発電ポテンシャルは高いが送電容量が不十分な北海道の風力発電地帯や九州の太陽光発電地帯など)の直近にトラックや船舶で迅速に輸送・配置する。

昼間、太陽光や風力による過剰な発電が発生し、系統側での「出力制御(発電抑制)」が懸念される時間帯には、この蓄電池コンテナが余剰電力を超急速で吸収し、同時にGPUコンテナがフル稼働してAIの事前学習や科学計算などの非リアルタイムジョブを処理する。そして夕方から夜間の電力需要ピーク期には、蓄電池から系統へ電力を逆潮流・放電しつつ、GPUの計算負荷を低遅延ネットワークを通じて他の余裕があるデータセンターへとシームレスにマイグレーション(動的移転)する。このように、コンテナ型データセンターは、定置型の巨大設備という固定観念を脱し、系統の需給ギャップを物理的・計算論的に埋める「移動可能なデジタル蓄電プラットフォーム」として機能することになる。

5.2. AI for Science・分散AIとGXデータセンターの高度融合による持続可能なAIインフラの確立

バイオテクノロジー、新材料開発、気象・気候変動シミュレーションなどを劇的に加速させる「AI for Science」や、物理的に離れた複数の中小規模データセンターを高速通信で連携させて単一の超巨大AIモデルを協調学習させる「分散AI(Distributed AI)」の潮流は、次世代のグリーントランスフォーメーション・データセンター(GX DC)構想と幸福な交差を見せている。その代表例が、理化学研究所(理研)などが推進する、次世代の超多階層・省電力計算インフラ(例えば、次世代計算環境コンセプト「RIKYU」等)との技術的融合である。

従来のスーパーコンピュータやハイパースケールDCは、系統から安定した電力を「常時一定」に引き抜くこと(ベースロード消費)を前提に設計されていた。しかし、持続可能なAIインフラにおいては、「計算需要が電力供給(特に変動性再エネの発電状況)に追従する」という「コンピューティング・フォロイング・パワー(Computing Following Power)」の概念が中核となる。

未来のGXデータセンターでは、AI for Scienceの計算スケジュール管理システム(ジョブスケジューラ)と、DCが内包するUPS・EVリユース蓄電池のEMS(エネルギーマネジメントシステム)、さらには気象予測APIや系統のリアルタイムスポット価格情報が、自律的なAPI連携によって完全に統合される。

例えば、明日の午後に台風が接近し風力発電量が激増する予測が出た場合、システムは「AIの学習ジョブ」の実行タイミングをその時間帯に自動的に集中(スライディング)させ、同時に蓄電池を最大容量まで充電する。逆に、系統の電力供給が逼迫し一次調整力の発動が要請された場合には、ミリ秒単位で蓄電池からグリッドへ放電を開始し、それと同期して優先度の低いバッチ処理計算(分子構造 of シミュレーション等)のクロック数を自動的に低下させる、または計算を一次サスペンドしてストレージへ状態を退避する。

この「エネルギーの需給状況と計算ジョブの自律的コ・デザイン(共同制御)」が実現することにより、AIテクノロジーの進化が地球環境に負荷を与えるというジレンマは完全に解消され、真の意味で持続可能な科学技術基盤が確立される。


6. まとめ・参考ソース

6.1. まとめ:データセンターの役割におけるコペルニクス的転回

AIおよびビッグデータ時代の本格的な到来は、膨大な演算処理を支えるデータセンター(DC)に対して、エネルギー消費の非効率性と地球温暖化への悪影響という「インフラとしての原罪」を突きつけてきた。しかし、本稿で詳述したNTTデータやIIJ、東芝らが挑む「UPSおよびEVリユース電池を活用した需給調整技術」は、DCの位置づけを「エネルギーを貪り食う施設」から「電力系統を安定化し再エネ導入を促進する巨大蓄電所(グリーン・グリッドの守護神)」へとコペルニクス的転回を遂げさせるものである。

既存のBCP資産であるUPSや非常用電源をマルチユース化し、最も要求が厳しい「一次調整力」へと適合させ、さらに車載後の劣化バラつきを高度にマネジメントされたEVリユース電池とハイブリッド化するアプローチは、デジタルインフラとエネルギーインフラ、およびサーキュラーエコノミーが三位一体となった究極の持続可能モデルを示している。

今後は、GPUの高集積化に対応するコンテナ型データセンターとの連動による機動的な分散エネルギーリソース(DER)化や、次世代計算インフラ「RIKYU」に代表される分散AI・AI for Scienceとの緊密な連携により、デジタル社会の発展とカーボンニュートラルの達成が真に両立する未来の実現が期待される。

6.2. 参考ソース・文献

  1. 株式会社NTTデータ、NTTアノードエナジー株式会社 共同プレスリリース「データセンターのUPSを活用した日本初の需給調整市場『一次調整力』適合およびEVリユース蓄電池のマルチユース実証について」
  2. 株式会社インターネットイニシアティブ 技術レポート「白井データセンターキャンパスにおけるテスラ製産業用蓄電池Megapackを用いた需給調整市場(三次調整力)参入およびVPP制御技術」
  3. 東芝インフラシステムズ株式会社 技術論文「リチウムイオン二次電池SCiB™を活用したデータセンター用無停電電源装置(UPS)による系統側需給調整機能の検証」
  4. 国立研究開発法人理化学研究所 計算科学研究センター(R-CCS)「次世代超多階層・分散型計算環境(RIKYUプロジェクト)におけるエネルギー・ジョブコデザイン技術の展望」
  5. 経済産業省 資源エネルギー庁「需給調整市場の制度設計および調整力(一次調整力・二次調整力・三次調整力)に関する技術要件ガイドライン」

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