赤い羽根共同募金の使途不明金2.5億円――募金再開前に知る仕組みと再発防止策

北海道共同募金会で使途不明金が約2億5000万円に拡大。元事務局長が通帳・印鑑・経理を一人で握り、発覚のきっかけは国税局の査察だった。10月1日の全国一斉運動を前に、経緯・仕組み・再発防止策を整理する。

要点

  • 北海道共同募金会(札幌市)の使途不明金は、当初公表の約1億8000万円から、2026年9月16日に約7000万円が追加で判明し、計約2億5000万円に拡大した。
  • 会計責任者だった元事務局長(58)が通帳・印鑑・経理を一人で管理し、2020年ごろから着服を続けていた疑いがある。発覚のきっかけは内部のチェックではなく、2026年2月の札幌国税局の査察だった。
  • 道内の福祉活動への助成は予定の5割弱に減り、中央共同募金会が緊急支援に乗り出した。厚生労働省も全国の共同募金会に会計処理の複数人確認を求める通知を出した。
  • 赤い羽根共同募金の全国一斉運動は10月1日に始まる。2026年度は80回目の節目にあたるが、寄付を見送る町内会も出ている。

何が起きたのか――「善意の募金」から約2.5億円が消えた

秋になると駅前の募金箱や町内会の回覧で目にする「赤い羽根共同募金」。その北海道の運営主体である社会福祉法人・北海道共同募金会で、多額の寄付金が行方不明になっている。

同会は2026年6月14日、約1億8000万円の使途不明金があると公表した。9月16日の記者会見では、2025年度決算をまとめる過程で支払先の分からない伝票などが見つかり、さらに約7000万円が使途不明だと明らかにした。合計は約2億5000万円にのぼる。FNNの報道によると、同会に集まった2024年度の寄付金は約6億6000万円で、その4割近くに相当する規模だ。

会長は「お預かりした浄財を職員の不適切な行為によって失ってしまった」と謝罪し、元事務局長への刑事告訴や損害賠償請求も含めて措置を講じるとしている。一方で、共同募金活動そのものは「予定通り10月1日から開始したい」との考えを示した。

背景――共同募金はどういう仕組みなのか

事件の重さを理解するには、共同募金の仕組みを押さえておく必要がある。

赤い羽根共同募金は1947年、戦後の民間福祉施設の資金不足を補う「国民たすけあい運動」として始まった。現在は社会福祉法に位置づけられ、各都道府県に設立された社会福祉法人の共同募金会が実施主体となっている。全国組織の社会福祉法人・中央共同募金会は、各都道府県共同募金会の連合会として連絡調整を担う。

厚生労働省の資料が示す主な特徴は次のとおりだ。

  • 期間:毎年10月1日から12月31日まで、全都道府県で一斉に行われる。
  • 配分の公正性:各共同募金会に「配分委員会」が置かれ、その承認なしには目標額や配分計画を決められず、寄付金を配分することもできない。
  • 地域で使う:集まった寄付金は、災害等の準備金を除き、原則としてその都道府県内の社会福祉協議会、NPO、福祉施設などに配分される。
  • 戸別募金中心:募金の多くは、自治会・町内会の協力を得て世帯ごとに集める「戸別募金」が占める(2007年の厚労省資料では全体の7割以上)。

福祉新聞によると、2024年度の全国の募金額は165億2189万円で、全国4万4326件の地域福祉活動に助成された。北海道でも、FNNの報道では2024年度の約6億6000万円のうち半分以上の約3億6000万円が戸別募金だった。北海道共同募金会は、毎年全道で2000を超える事業に助成しているという。

つまり共同募金は、町内会という身近なつながりを通じて集めたお金を、地元の福祉に還元する仕組みだ。今回の事件は、この「顔の見える信頼」の上に成り立つ制度の足元を揺るがした。

手口と発覚の経緯――なぜ6年近く見抜けなかったのか

報道や関係資料から、主な経緯は次のように整理できる。

時期 出来事
2020年ごろ 元事務局長が着服を始めた疑い
2025年 偽造した理事会議事録などを使い、2つの金融機関から計約1億9000万円を借り入れ
2026年2月17日 札幌国税局が元事務局長個人の所得税法違反の嫌疑で査察。これが端緒となる
2026年6月14日 約1億8000万円の使途不明金を公表
2026年7月 札幌市が社会福祉法に基づく特別監査。7月13日付で元事務局長を懲戒解雇
2026年9月11日 弁護士・公認会計士6人による第三者委員会が発足
2026年9月16日 使途不明金が約2億5000万円に拡大したと公表

読売新聞によると、元事務局長は会長の署名が本人のものではない議事録を示して9000万円を借り入れ、別の金融機関からも理事会の承認なしに1億円を借りていた。同会は、借入金で穴埋めをして発覚を逃れようとしたとみている。報道では、年度末に取引業者から一時的に借り入れて決算後に返すことで、帳簿上の残高を合わせていたとされる。帳簿の数字が合っていれば、外部のチェックでも異常は見つけにくい。

見逃しの根本にあるのは「属人化」だ。元事務局長は通帳、印鑑、出金、記帳をほぼ一人で握っていた。札幌市の文書指導は、経理規程に反して長期間一人の職員に経理を任せていたことを直接の原因に挙げ、会長や常務理事が実態を把握せず、監事も調査しなかったとして「理事、監事、理事会が機能不全に陥っていることは明らか」と指摘した。規程がなかったのではなく、定められたルールが守られていなかったのである。

そして最も重い事実は、発覚のきっかけが組織内部ではなく国税局の査察だったことだ。第三者委員会も、使途不明金が「令和8年2月の国税局調査まで判明しなかった原因」を調査事項の一つに掲げている。

関係者の反応と再発防止策

事件を受け、組織の内外で対応が進んでいる。

北海道共同募金会は8月17日付で、会計責任者・出納職員・公印の保管責任者を別々の人に分ける「職務分掌」を実施した。8月24日には再発防止策を公表し、会長・副会長・監事は辞任の意向を示し、常務理事は8月31日に辞任した。第三者委員会は、日本弁護士連合会のガイドラインに準拠し、2027年1月末をめどに調査報告書を出す予定だ。

厚生労働省は9月4日、都道府県などに通知を出し、次のような体制整備を求めた。

  • 会計処理を特定の職員に依存させず、通帳・印鑑・ネットバンキング権限を適切に管理する
  • 複数の役職員で確認し、預貯金残高と会計帳簿を定期的に照合する
  • 公認会計士などによる外部監査の導入、職員の定期的なジョブローテーション
  • 寄付金の配分に関する積極的な情報公開

中央共同募金会も同日、再発防止検討会の中間まとめを公表し、内部通報窓口の新設や定期的な一斉点検を盛り込んだ。6〜7月に北海道を除く46都府県で実施した緊急一斉点検では、同様の使途不明金につながる事案は確認されなかったという。ただし全国公益支援財団の分析によると、口座残高との照合を直近で行ったのが常務理事や事務局長本人だった共同募金会が25(54%)、ネットバンキング利用者が1人だけの会が8(17%)あった。「トップ自身がチェック役も兼ねる」構造は、北海道だけの問題とは言い切れない。

寄付をする側にも動揺が広がる。帯広市のある町内会は会員アンケートを行い、「改善策が明らかになるまで」今年は募金に応じないと決めた。札幌市の町内会長からは「どうなっているのかと聞かれたら答えようがない」との声も出ている。

影響と今後――福祉の現場と寄付文化への波及

最も大きな影響を受けているのは、寄付を受け取るはずだった地域の福祉活動だ。北海道共同募金会は例年4月、前年度の寄付を道内193の共同募金委員会を通じて助成しているが、今年は支給が遅れた。北海道新聞によると、7月に始まった助成は当初予定の5割弱の1億6000万円にとどまり、事業を見直す団体も出ている。中央共同募金会は8月、道内の福祉団体に対する「緊急支援助成」を行うと発表した。

今後の焦点は次の3点だ。

  1. 第三者委員会の報告(2027年1月末めど):資金の流れ、役員の責任、なぜ長年気づけなかったのかがどこまで明らかになるか。
  2. 刑事・民事の責任追及:同会は刑事告訴や損害賠償請求を含めて対応するとしているが、資料の多くが差し押さえられており、解明には時間がかかる見通しだ。
  3. 10月1日からの募金の行方:2026年度は赤い羽根共同募金の80回目にあたる。戸別募金は町内会の信頼に支えられているだけに、北海道での寄付離れがどこまで広がるか、全国の運動にも影響するかが注目される。

全国の募金額は1995年度の265.8億円をピークに長期的には減少してきた。信頼の回復が遅れれば、民間の地域福祉を支える財源がさらに細るおそれがある。問われているのは一人の不正だけではなく、「善意に甘えない仕組み」を寄付の現場にどう組み込むかである。

よくある質問

赤い羽根共同募金の使途不明金はいくらですか?

北海道共同募金会の使途不明金は約2億5000万円です。2026年6月に約1億8000万円と公表され、9月16日に約7000万円が新たに判明しました。現時点で問題が公表されているのは北海道共同募金会です。

なぜ長年発覚しなかったのですか?

元事務局長が通帳・印鑑・経理を一人で管理し、定められた経理規程が守られていなかったためです。札幌市は理事・監事・理事会が機能不全だったと指摘しています。発覚のきっかけは2026年2月の札幌国税局による査察でした。

今年の赤い羽根共同募金はいつから始まりますか?

全国一斉運動は例年どおり10月1日から12月31日まで行われます。北海道共同募金会も、再発防止策を進めたうえで予定通り10月1日から開始するとしています。2026年度は赤い羽根共同募金の80回目にあたります。

他の都府県の共同募金会は大丈夫なのですか?

中央共同募金会が北海道を除く46都府県で緊急一斉点検を行い、同様の使途不明金につながる事案は確認されなかったとしています。ただし、残高照合を事務トップ本人が担っていた会が半数以上あるなど、チェック体制の課題も指摘されています。厚生労働省は全国の共同募金会に複数人での確認や外部監査の導入を求めています。

募金した寄付金は何に使われるのですか?

共同募金の寄付金は、配分委員会の承認を経て、原則として集めた都道府県内の社会福祉協議会、NPO、福祉施設などの活動に助成されます。2024年度は全国で約165億円が集まり、4万件以上の地域福祉活動に使われました。

まとめ

北海道共同募金会の使途不明金問題は、約2億5000万円という金額以上に、「善意の寄付を扱う組織で、一人の職員に通帳から承認までを任せていた」という統治の欠陥を浮き彫りにした。しかも異常を見つけたのは組織の内側ではなく国税局だった。

国と全国組織は、複数人での確認、残高照合、外部監査、情報公開といった基本の徹底を打ち出した。10月1日から始まる第80回の赤い羽根共同募金は、その仕組みが実際に機能しているかを寄付者が見極める場にもなる。寄付を続けるか見送るかにかかわらず、配分先の公開情報や再発防止策の進み具合に目を向けることが、地域の福祉を支える善意を守る第一歩になるだろう。

参考ソース

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