DeepSeek V4のテストが始動——中国AI独立の試金石となるか、1兆パラメータモデルの全貌

テスト画面が映す「Visionモード」——リリース秒読みの予兆

2026年4月8日、中国のAIスタートアップDeepSeekがウェブ版とモバイルアプリに静かだが重大なアップデートを施した。入力欄の上部に「ファストモード(Fast Mode)」と「エキスパートモード(Expert Mode)」という2つの新オプションが追加されたのだ。さらに、中国SNSの微博(Weibo)ではテスト画面のスクリーンショットが拡散し、そこには第3のモード「ビジョン(Vision)」の文字まで確認された。

これらの動きは、AIウォッチャーたちの間で一つの答えとして受け取られている。数ヶ月にわたって遅延を繰り返してきた次世代フラッグシップモデル「DeepSeek V4」のリリースが、ついに秒読み段階に入ったということだ。

テストが4月中に本格化し、リリースは今月下旬になるとの見方が業界アナリストの間で広まっている。今この瞬間も、世界中の開発者やAI研究者が固唾を飲んで待ち構えている。

なぜここまで注目されるのか——V4の主な仕様と野心

DeepSeekが2024年末にリリースしたV3と、2025年初頭に公開したR1は、中国発のAIモデルが米国の大手プロプライエタリモデルに真正面から張り合えることを世界に証明した。R1の登場は一時的にNVIDIAの株価を急落させるほどの衝撃を与え、「中国AIショック」として世界的に報じられた。

そのDeepSeekが2026年最大の切り札として準備しているのがV4だ。現時点でリークされている主なスペックは以下の通りである。

パラメータ数と推論効率:総パラメータ数は約1兆(1T)とされるが、採用しているのはMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャであるため、実際に1回の推論で起動するパラメータは約320億〜370億にとどまる。これは、1兆パラメータの知識ベースを持ちながら、370億パラメータ規模の速度で動作することを意味する。圧倒的な効率性だ。

コンテキストウィンドウ:100万トークンという長大なコンテキストウィンドウをネイティブでサポートする。大規模なコードベースを丸ごと読み込んだり、数百ページに及ぶ法律文書を一度に処理したりすることが可能になる。

マルチモーダル対応:テキストだけでなく、画像・動画・音声の入力をネイティブにサポートする予定とされている。テスト画面で確認された「Visionモード」は、まさにこの機能への伏線と見られている。

オープンソース:V3やR1と同様、Apache 2.0ライセンスでの公開が見込まれている。商用利用も自由なこのライセンスは、世界中の開発者がDeepSeekのモデルを自社製品に組み込む際の大きな障壁を取り除く。

価格:API利用料は入力1Mトークンあたり約0.28ドル、出力1Mトークンあたり約1.10ドルと予測されている。OpenAIのGPT-5.4(入力10ドル)やAnthropicのClaude Opus 4.6(入力15ドル)と比較すると、桁が異なる価格競争力だ。

2度の延期と「V4 Lite」先行登場

V4の公開が注目を集めるようになったのは2025年末ごろだ。しかしその道のりは決して平坦ではなかった。

2026年1月末に最初のリリース期待があったが、何の発表もなく過ぎ去った。2月末にも旧正月に合わせたリリースが噂されたが、これも不発に終わった。3月9日、DeepSeekのウェブサイトに「V4 Lite」というラベルが突如出現。総パラメータ約2000億とされるこの軽量版は、V4ファミリーのアーキテクチャを先行検証する役割を果たし、「本命リリースが近い」というシグナルとして受け取られた。

4月8日に実装されたファストモード/エキスパートモードの切り替え機能は、製品の階層化(ティアリング)という意味でも重要だ。推論コストが高いエキスパートモードをピーク時に分散させることで、サーバー負荷を管理しながら本番リリースに備える、という読みがアナリストたちの間で共有されている。また、将来的な有料プランへの布石とも受け取られている。

最も重要な「裏話」——HuaweiのAscendチップで完全稼働

しかし、DeepSeek V4を巡る最大のニュースは、スペックでも価格でもない。どのチップでV4が動くか、という問題だ。

英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)や米テックメディア「The Information」の報道によれば、DeepSeek V4はNVIDIAのGPUを一切使用せず、中国Huaweiが開発した「Ascend 950PR」チップのみで稼働する予定だという。

DeepSeekは数ヶ月にわたってHuawei、そして中国半導体設計企業Cambricon(寒武紀)と協力し、モデルのコアコードコンポーネントをこれら国産チップに最適化してきた。Huaweiの説明によれば、Ascend 950PRはNVIDIAのH20と比較して約2.8倍の演算性能を持つという(ただし最高性能のH200には及ばない)。

この動きは投資家たちにとっても無視できない。Alibaba、ByteDance、Tencentはすでに数十万個規模でAscend 950PRを発注し、DeepSeek V4をクラウドサービスで提供する準備を進めているとされる。この大量需要はチップ価格を20%押し上げたとも報じられている。

この情報の意味するところは大きい。米国が輸出規制でNVIDIAの先端チップを中国に届かないようにしている中で、DeepSeek V4が国産チップで世界水準の性能を達成したとすれば、それは「AI自給自足」の現実的な第一歩となる。Counterpoint Researchのシニアアナリスト、魏孫氏が指摘したように、「それは中国のAI自立トラジェクトリーのシグナル」に他ならない。

地政学的文脈——米中AI競争の新局面

Japan Timesは2026年4月9日付で「Waiting for DeepSeek: new model to test China's AI ambitions」と題した記事を掲載し、V4のリリースが「単なるソフトウェアアップデートではなく、中国のAIの野心を試す試金石」になると報じた。

2025年初頭のR1登場以降、中国AIの台頭は米国の大手ハイテク株の評価にも波及してきた。カーセッジ・キャピタルの創業者スティーブン・ウー氏は「V4のリリースは米国のテック株評価を再び揺るがす可能性がある」と予測している。

一方で、懐疑論も根強い。リークされたベンチマーク数値(HumanEval 90%、SWE-bench 80%超)はあくまで内部テストのものであり、独立した第三者による検証はまだ行われていない。Huaweiチップでの安定稼働についても、チップ間通信の遅さやソフトウェアの未成熟さで当初は苦労した経緯が報じられており、実際のパフォーマンスがリーク情報どおりかどうかは蓋を開けてみるまでわからない。

AIモデル競争の構図変化——オープンソースが「堀」を削る

DeepSeek V4が注目される背景には、より大きな構造変化がある。GPT-4の登場以来、「高性能なAIは高価なプロプライエタリモデルだけ」というのがビジネスの前提だった。OpenAIやAnthropic、Googleのプレミアム価格は、その技術的優位に支えられていた。

しかしDeepSeekをはじめ、AlibabaのQwen(通義千問)シリーズ、MetaのLlamaシリーズといったオープンソース勢が、プロプライエタリモデルに肉薄する性能を無料で提供し始めている。企業の30%以上がオープンソースモデルへの本格的なルーティングを検討し始めると、OpenAIやAnthropicの年間経常収益(ARR)成長率に明確な鈍化が現れるという分析も出ている。

V4の価格帯(出力1Mトークンあたり約1.10ドル)は、Claude Opus 4.6の75ドルと比べて約68分の1だ。コード量産や大規模データ処理などコスト感度の高いユースケースでは、独立したベンチマーク検証が出た時点で市場の勢力図が動く可能性がある。

まとめ——今月が歴史的分岐点になるかもしれない

DeepSeek V4の「テスト開始」という報道が飛び込んできた2026年4月9日。テストインターフェースに現れたファスト・エキスパート・ビジョンの3モードは、単なるUI変更ではなく、正式リリースへのカウントダウンと見るべきだろう。

性能面でのリーク情報が独立検証で確認されれば、米国AI企業への圧力は再び強まる。国産チップ(Huawei Ascend)での稼働が実証されれば、輸出規制の有効性に疑問符がつく。Apache 2.0でのオープンソース公開が実現すれば、世界中の開発者エコシステムに深く浸透する。

三つの「もし」が全部揃ったとき、それは2025年のR1ショックを超える地殻変動になりうる。

リリースが現実となった暁には、AI競争のルールが再び書き換えられるかもしれない。


参考ソース

  • Japan Times (2026年4月9日)「Waiting for DeepSeek: new model to test China's AI ambitions」
  • TechNode (2026年4月8日)「DeepSeek V4 may launch this month, test interface suggests Vision and Expert modes」
  • South China Morning Post (2026年4月9日)「China's DeepSeek adds expert chatbot mode ahead of much-awaited V4 release」
  • The Decoder「Deepseek v4 will reportedly run entirely on Huawei chips」
  • FindSkill.ai「DeepSeek V4: Release Date, Specs, and the Huawei Chip Bombshell」
  • Digital Applied「DeepSeek V4, GPT-5.5, Grok 5: Q2 2026 AI Preview」
  • SmartNews / 36Kr Japan「DeepSeek、史上最長の13時間障害——次世代モデル「V4」、いよいよ来るのか」
  • Note (ぽみ)「チップを断たれた中国AIが止まらない理由」

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