過去最大122兆円予算が成立——「積極財政」が問い直す日本の未来設計
2026年4月7日、参院本会議で2026年度当初予算が可決・成立した。一般会計の総額は122兆3092億円と過去最大を更新し、国債費も31兆2758億円と初めて30兆円を突破した。高市早苗政権が掲げる「責任ある積極財政」の看板を背負ったこの予算は、毎日の生活から国家の信用力まで、あらゆる側面に影響を与える。巨額の数字の裏に何があるのか、私たちはこの予算とどう向き合えばよいのかを読み解く。
なぜ今、過去最大の予算なのか
今回の予算が「過去最大」になった背景には、複数の力が重なっている。
第一に、高市早苗首相の政策路線だ。「責任ある積極財政」と銘打ち、成長と分配の両立を志向する高市政権は、削減よりも投資を優先する姿勢を鮮明にした。防衛費は初の9兆353億円に達し、社会保障費も39兆559億円と全体の約3割を占める。高校授業料や小学校給食の無償化など、教育負担軽減策も新たに盛り込まれた。
第二に、金利上昇の直撃がある。日銀が2024年3月以降に利上げを重ね、長期金利が一時2.4%に達した結果、国債の利払い費は13兆円を突破し、前年比で2兆5000億円も膨らんだ。国民が意識しない間に、税収の大きな塊が「借金の利息」として消えていく構造がより鮮明になった。
第三に、政治的な遅延も影を落とす。2026年1月下旬からの衆院選を経て、予算審議の開始が例年より1か月以上後ろ倒しとなった。その結果、4月成立は2015年以来11年ぶりという異例の事態となり、暫定予算で年度をまたぐという行政上の混乱も招いた。
予算の中身——何に、どれだけ使われるのか
122兆円という数字はあまりに大きく、実感しにくい。具体的な費目に分解することで、その輪郭が見えてくる。
社会保障関係費:39兆559億円(全体の32%)
年金・医療・介護などが中心。少子高齢化が進む日本では、この費目が予算全体を押し上げる最大の要因であり続ける。高齢者が増えるほど自動的に膨張する「義務的経費」の性格が強く、他の費目を圧迫するとの指摘は根強い。
国債費:31兆2758億円(全体の26%)
過去に積み上げた借金の返済と利払い。うち利払い費だけで13兆円。金利が1%上がれば数兆円単位で利払いが増える構造は、財政運営の「時限爆弾」ともいえる。
防衛関係費:9兆353億円(全体の7%超)
2022年の防衛費倍増方針を受けて増額が続き、初めて9兆円台に突入した。中東情勢の緊迫化やウクライナ情勢の長期化など、安全保障環境の悪化が後押ししている。
教育・子育て支援
高校授業料無償化の所得制限撤廃、公立小学校給食費の無償化が新たに盛り込まれた。子育て世帯には直接の家計支援として歓迎される一方、財源論からは疑問も呈されている。
賛否の構図——積極財政は「フルスイング」か「過剰リスク」か
この予算に対する評価は、政治的立場によって大きく分かれている。
賛成派の論拠
日本維新の会の青島健太参院議員は「バットを振らなければヒットもホームランも生まれない。この予算はフルスイングだ」と述べ、成長投資の姿勢を評価した。「デフレからインフレへ」という転換期に、政府が積極的に需要を創出することで経済の好循環を加速させるべきだ、という考え方だ。財務省も「重要施策には予算を増額しつつ、財政規律にも配慮した」と強調し、新規国債発行額を2年連続で30兆円以下に抑えた点を成果として挙げる。
慎重派・批判派の論拠
一方、東京新聞などの報道は、高市首相が国会出席の機会を意図的に削り、十分な説明なしに予算成立を急いだと批判する。時事通信は「補正予算と決別」という高市政権の方針が、中東情勢の緊迫化という想定外のショックで早くも揺らいでいると伝える。長期金利の上昇で利払いが膨らむ中、さらなる積極財政路線が財政の持続性を損なうのではないか——その懸念は野党だけでなく、経済学者や格付け機関にも共有されつつある。
中東情勢という「想定外」の変数
2026年2月末に始まった米・イスラエルによるイランへの軍事作戦「壮絶な怒り(Operation Magnificent Fury)」は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を招き、世界の原油・LNG価格を急騰させた。日本はエネルギーの約9割を輸入に頼る構造上、このショックは直撃となる。
予算は成立したものの、原油高によるインフレの第2波が懸念されている。ナフサ価格の急騰は「30%の上げ幅は経験がない」と業界関係者が声を荒げるほどで、7月以降の生活必需品の値上がりが現実味を帯びている。この事態は、予算で盛り込んだ家計支援策の効果を部分的に打ち消しかねない。
高市首相は4月7日、UAEのムハンマド大統領と電話会談し、原油の安定供給を要請。エネルギー節約の呼びかけも行ったが、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、補正予算の必要性が高まり、「補正と決別」という看板が早期に外れる可能性も否定できない。
私たちの生活への影響——短期・長期の視点で
短期(2026年度)での影響
高校生を持つ家庭では授業料無償化の恩恵が生まれる。小学生の子がいる家庭は給食費の負担がなくなる。一方、エネルギー価格の高騰と物価上昇は全世帯に影響し、特に低所得世帯や年金生活者への打撃が懸念される。
中長期(5〜10年)での影響
国債残高は1000兆円を超えており、今後も膨張が続く見通しだ。金利が正常化(上昇)していく中で、利払い費の増加は加速する。「社会保障・防衛・教育」のどこかを削らなければ財政が持続できないという矛盾は、先送りされたまま次世代に積み上がっていく。
まとめ——「今を生きる」予算と「未来への負担」の狭間で
2026年度予算は、高市政権の強い意思が刻まれた積極財政の結晶だ。教育・子育て支援の充実、防衛力の整備、そして成長への投資——そのどれもが「今の日本に必要だ」という議論は成り立つ。
しかし同時に、122兆円のうち31兆円が過去の借金の後始末に使われ、残り91兆円の中から今年度の政策をやりくりしているのが実態だ。金利上昇が続く世界で、この構造は静かに、しかし確実に日本の財政の自由度を奪っていく。
「責任ある積極財政」という言葉が本当に責任あるものかどうかは、10年後、20年後の日本の姿が証明する。私たちには、予算という国家の意思決定を「他人事」と思わず、問い続ける目が求められている。
参考ソース
- 毎日新聞「2026年度当初予算が成立 一般会計、過去最大の122兆円」2026年4月7日
- 日本経済新聞「過去最大122兆円予算が成立 高市政権『責任ある積極財政』推進」2026年4月7日
- 朝日新聞「過去最大122兆円、26年度当初予算が可決 4月成立は11年ぶり」2026年4月7日
- 時事通信「26年度予算が成立 過去最大、4月は11年ぶり」2026年4月7日
- Bloomberg「26年度当初予算が成立、122兆円超で過去最大-11年ぶりに年度またぐ」2026年4月7日
- 財務省「2026年度予算の内容をご紹介します」2026年4月
- 東京新聞「高市首相、国会出席を削りに削って予算成立」2026年4月7日