「うるう時間」2027年5月導入へ——UTCとうるう秒の何が変わるのか

協定世界時(UTC)と地球の自転のずれを1時間まで許容する「うるう時間」が、2027年5月に導入される方向で議論が進んでいます。1972年から続いた「うるう秒」は実質廃止へ。背景にあるのは、2016年以降に速まった地球の自転と、「負のうるう秒」がもたらす前例のないシステム障害リスクです。

世界の標準時刻である協定世界時(UTC)と、地球の自転にもとづく時刻。この二つのあいだに生じるずれを、これまで人類は「1秒」単位でこまめに直してきました。それが「うるう秒」です。

そのやり方が、まもなく終わろうとしています。2026年8月24日に共同通信が伝えたところによると、UTCと地球の自転のずれを1時間まで許容する「うるう時間」を2027年5月に導入する方向で、世界的な議論が進んでいます。今年10月にフランスで開かれる国際度量衡総会(CGPM)で正式に決まる見通しで、うるう秒は実質的に廃止されます。

議論の全体像を先に整理すると、次のようになります。

  • 1972年:協定世界時(UTC)の現行方式が始まり、うるう秒による調整を開始
  • 2022年:国際度量衡総会がうるう秒の廃止を決議。2035年までに代替案を決めるとした
  • 2026年10月:フランスで開かれる国際度量衡総会で、うるう時間の採否を投票
  • 2027年5月:うるう時間を導入する方向。うるう秒は実質廃止

一見すると、天文学者と時刻管理の専門家だけが気にする細かい話に見えるかもしれません。しかし実際には、金融取引・交通・電力といった、時刻を同期して自動制御する社会インフラ全体に関わる話です。しかも今回の変更を急がせている原因は、地球が予想外に速く回り始めたことにあります。

背景:協定世界時(UTC)とうるう秒の関係

現在の協定世界時(UTC)は、原子の振動を利用した原子時計にもとづいて決まっています。原子時計は1秒の長さの基準そのものであり、きわめて安定しています。

一方、私たちが日常的に感じる「1日」は、地球が1回自転するのにかかる時間です。これはおよそ86,400秒ですが、常に一定ではありません。潮の満ち引き、地球内部の核の運動といった要因で、日ごとにわずかに変動します。

つまり、原子時計が刻む正確な時間と、地球の回転が決める天文的な時間は、放っておくと少しずつずれていきます。このずれを0.9秒以内に収めるために、1972年から導入されたのがうるう秒でした。ずれが大きくなりそうな年の6月末や12月末に、UTCへ1秒を追加する。2022年までに計27回実施され、いずれも1秒を「足す」調整でした。

天文学的にはこれで筋が通ります。問題は、この1秒がコンピュータにとって扱いにくいということでした。

うるう秒の1秒追加が引き起こしてきたシステム障害

時刻を同期して動くシステムにとって、突然「61秒目」が現れるのは想定外の事態です。多くのソフトウェアは1分が60秒であることを暗黙の前提として書かれているため、うるう秒はしばしばバグを表面化させてきました。

2012年にうるう秒が追加された際には、大手ウェブサービスなどで障害が発生しました。2017年1月1日午前0時(UTC)のうるう秒挿入時には、うるう秒関連のバグが原因でCloudflareのDNSサービスに障害が起きています。

金融取引、交通制御、電力網といった高度な情報通信システムでは、わずかな誤差でもネットワーク全体が混乱する恐れがあります。ずれを直すために作られた仕組みが、皮肉にも現代のインフラにとっては定期的に訪れる「技術的な悪夢」になってしまったわけです。

こうした経緯から、2022年の国際度量衡総会はうるう秒の廃止を決議し、2035年までに時間単位を使った代替案を決めるという方針を示しました。

なぜ前倒しなのか:「負のうるう秒」という新しい難題

ここで注意したいのは、2035年というのが「代替案を決める」期限であって、導入時期ではなかったという点です。その決定を2026年10月へ、導入を2027年5月へと大きく前倒ししようとしているのが、いま進んでいる議論です。なぜ急ぐのか。理由は、地球の自転速度そのものが変化しているからです。

2016年以降、地球は異常な速さで自転し始めました。近年観測された「短い日」は次のとおりです。

  • 2024年7月4日:1日の自転が通常より1.66ミリ秒速く終わり、当時の記録を更新
  • 2025年7月10日:通常より1.36ミリ秒速く回転。同年7月9日と7月22日にも通常より短い日を観測

自転速度が変動する要因としては、潮の満ち引きや、地球内部の核の運動が挙げられています。

自転が速まるということは、これまでとは逆方向のずれが生じるということです。つまり、UTCから1秒を「引く」調整、いわゆる負のうるう秒が必要になる可能性が出てきました。現行のうるう秒方式を続けた場合、早ければ2029年にも実施が必要になるという見通しがあります。

ここが決定的に厄介なところです。正のうるう秒は27回の実運用経験がありますが、負のうるう秒は史上一度も実施されたことがありません。ある1分から1秒がまるごと消える、つまりその1分が59秒で終わる状況を、世界中のシステムは一度も経験していないのです。正のうるう秒ですら大規模障害を招いてきた実績を考えれば、未検証の負のうるう秒がどれほどのリスクをはらむかは想像に難くありません。2022年の決議自体、負のうるう秒も同じくらい厄介になりそうだと指摘していました。

国際度量衡局(BIPM)時間部門ディレクターのPatrizia Tavella氏は、2035年まで待った場合に負のうるう秒が必要になるリスクを30%と見積もっていると述べています。関係機関への聞き取りでは、ほとんどが「10%のリスクでも大きすぎる」と答えたといい、Tavella氏は「できるだけ早く導入すべき十分な緊急性がある」との認識を示しています。

うるう時間という解法:うるう秒と何が違うのか

うるう時間の考え方はシンプルです。ずれの許容範囲を0.9秒から一気に1時間まで広げてしまう。そうすれば、調整が必要になる頻度は劇的に下がります。両者の違いを整理すると次のとおりです。

うるう秒(1972年〜) うるう時間(2027年5月〜の見込み)
許容するずれ 0.9秒以内 1時間まで
調整の単位 1秒 1時間
調整の頻度 数年おき(1972〜2022年に計27回) 導入後の数百年間は不要の見込み
調整の向き これまで27回すべて「1秒を足す」 未定(数百年先)
決定機関 国際度量衡総会(CGPM) 国際度量衡総会(CGPM)/2026年10月に投票

どれくらい下がるのか。共同通信の報道によれば、導入後の数百年間は時刻調整が不要になる見込みです。うるう秒のように数年おきに全世界のシステムが身構える必要はなくなり、次の調整が来るころには、いまのソフトウェアもハードウェアも世代交代が何度も済んでいるでしょう。

しかも、いざ調整するときの準備期間も桁違いに長く取れます。数百年先の一度きりのイベントであれば、事前に十分な検証と移行計画を立てられます。うるう秒のように「半年後に1秒足します」と告知され、そのたびに全世界が対応に追われる構図とは根本的に違います。

代償として、UTCと天文時のずれは最大1時間まで開くことになります。ただし、日常生活でこのずれが問題になる場面はほとんどありません。1時間のずれが蓄積するのは数百年後であり、そのときにあらためて調整すればよい、という設計です。天文観測など、地球の自転にもとづく時刻そのものが必要な用途では、UT1と呼ばれる別の時系を参照することになります。

もう少し噛み砕くと、これは「時計の正確さ」の定義を切り替える判断でもあります。うるう秒の世界では、UTCは「原子時計の刻みに、地球の姿勢をこまめに合わせ込んだ時刻」でした。うるう時間の世界では、UTCは「原子時計の刻みをひたすら連続させた時刻」に近づき、地球の自転との対応づけは、必要な人が別途UT1を見て補う形になります。時刻を配信する側の設計としては、はるかに単純です。

天文学の側から見れば、これは一種の妥協でもあります。UTCという名前が示す「世界時(Universal Time)」の性格が、地球の回転から少し離れていくからです。それでも導入が急がれているのは、未経験の負のうるう秒を世界中のシステムに一斉に適用するリスクのほうが、天文時との厳密な一致を手放すコストより大きいと判断されているためだと読み取れます。

2027年5月の導入がもたらす影響と今後

正式決定は2026年10月、フランスで開かれる国際度量衡総会での投票にかかっています。ここで採択されれば、2027年5月の導入に向けて各国・各機関の対応が始まります。

システムを運用する側にとって、これは基本的に朗報です。うるう秒を前提にした特別対応、たとえば1秒を長時間かけて薄く引き伸ばす、いわゆるスミアリングのような各社独自の回避策は、いずれ不要になっていきます。数年おきに訪れていた「うるう秒対応」という運用イベントそのものが消える意味は小さくありません。

一方で、移行そのものには注意が必要です。うるう秒の存在を前提に書かれたコードやプロトコル、時刻配信の仕組みは世界中に散在しており、それらが「もううるう秒は来ない」という新しい前提のもとで正しく動くかは、個別に確認する必要があります。廃止されるからといって、何もしなくてよいわけではないということです。

一般の利用者が体感する変化は、当面ほぼゼロと言っていいでしょう。スマートフォンやパソコンの時計表示が変わるわけではなく、生活のリズムが変わるわけでもありません。変わるのは、その時計を裏側で支えている時刻配信の仕組みの設計思想です。

よくある質問

うるう時間はいつから導入されるのか

うるう時間は、2027年5月に導入する方向で世界的な議論が進んでいます。ただし確定ではなく、2026年10月にフランスで開かれる国際度量衡総会(CGPM)での正式決定を待つ段階です。

うるう秒は完全になくなるのか

実質的に廃止されます。うるう時間が導入されると、ずれの許容範囲が0.9秒から1時間に広がるため、1秒単位での調整は行われなくなります。1972年から2022年までに計27回実施されてきたうるう秒の運用は、これで区切りを迎えることになります。

なぜ2035年の期限を待たずに前倒しするのか

まず前提として、2035年というのは代替案を「決める」期限であって、導入時期ではありません。前倒しの理由は、2016年以降に地球の自転が速まっているためです。現行方式のままだと、史上初となる「負のうるう秒」(UTCから1秒を差し引く調整)が早ければ2029年にも必要になる可能性があります。国際度量衡局(BIPM)の時間部門ディレクターは2035年まで待った場合のリスクを30%と見積もっており、未経験の負のうるう秒によるシステム障害を避けるため、決定を2026年10月へ、導入を2027年5月へ前倒しする案が検討されています。

私たちの生活や仕事に影響はあるのか

一般の利用者が体感する変化はほとんどありません。時計の表示も生活のリズムも変わりません。影響を受けるのは、金融取引・交通・電力など、時刻を同期して自動制御するシステムを運用する側です。そうした現場では、うるう秒を前提にした独自の回避策が不要になる一方で、新しい前提のもとで既存のコードやプロトコルが正しく動くかを確認する作業が発生します。

うるう時間になると時刻はどれくらいずれるのか

うるう時間の方式では、協定世界時(UTC)と地球の自転にもとづく時刻とのあいだに、最大で1時間までのずれが許容されます。うるう秒の0.9秒以内という基準に比べて、大幅に緩い設定です。ただし、そのずれが蓄積して調整が必要になるのは数百年先の見込みです。地球の自転にもとづく時刻そのものが必要な天文観測などの用途では、UT1と呼ばれる別の時系を参照することになります。

まとめ

うるう秒は、原子時計の正確さと地球の気まぐれな自転を折り合わせるための、半世紀にわたる工夫でした。天文学的には正しい解でしたが、社会がコンピュータに依存するほど、そのコストは高くついていきました。

今回の転換は、地球の自転が速まったことで負のうるう秒という未知のリスクが現実味を帯び、待っていられなくなった結果でもあります。ずれの許容範囲を0.9秒から1時間へ広げることで、調整の頻度を数百年に一度まで減らす。厳密さを少し手放して、運用の安定を取る判断だと言えます。

10月の国際度量衡総会での投票が、1972年から続いた仕組みに区切りをつけるかどうかを決めます。時刻という、社会のあらゆる自動化の土台にある約束事が書き換わる場面として、注目しておく価値のある決定です。

参考ソース

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