OpenAI、AIの数学論文722本を公開――「準リーマン予想」証明の中身と検証
OpenAIは2026年10月6日、未公開の社内AIモデルが書いた数学の原稿722本をGitHubで公開しました。「準リーマン予想」の証明などを主張しますが、機械検証の資料が付くのは162本で、数学者による確認はこれからです。何が示され、何が未確認なのかを整理します。
米OpenAIは2026年10月6日(現地時間)、未公開の社内AIモデルが生み出した数学の成果を、722本の原稿としてGitHubで公開しました。なかにはリーマン予想に関わる「準リーマン予想」の証明をうたう原稿も含まれます。ただし、リーマン予想そのものが解けたわけではなく、外部の数学者による確認もこれからです。この記事では、公開された内容、数字の読み方、検証の現状、数学界の反応を順に整理します。
要点は次のとおりです。
- 公開先はGitHubのリポジトリ「openai/math」。原稿722本が372の成果グループ(ファミリー)に分類されている
- AIに与えた問題は約4000問。大半は同じ未公開モデル・同じ手順で得たとOpenAIは説明している
- 証明支援系「Lean」による形式化資料が目録に載っているのは162本(約22%)
- OpenAI自身が「形式化していない結果には問題が含まれる可能性がある」と認めている
- 助言した数学者グループAGMAIは、成果や手法を支持したわけではないと表明している
背景:OpenAIの数学成果は発表のたびに論争を呼んできた
今回の公開は突然の出来事ではありません。ITmedia NEWSによると、OpenAIは2026年8月、次期主力モデル「Astra」の社内版で未解決問題10件の新たな結果を得たと発表しました。9月には社内モデルがミレニアム懸賞問題の1つ「ナビエ・ストークス方程式」を解決したと発表しましたが、先行研究を進めていた数学者が経緯を問題視し、論争になりました。
その後、同社は数学者らの独立組織「Advisory Group on Mathematics and Artificial Intelligence(AGMAI)」との連携を発表し、その際に「社内モデルが100件以上の未解決問題を解決した」と説明していました。今回の公開は、その主張の中身を外から確認できる形で示したものと位置づけられます。
さらにさかのぼると、2025年10月には幹部による「GPT-5でエルデシュ問題解決」との投稿が批判を受けて削除された経緯もあります。AI企業が数学の成果をどう発表するかは、以前から問われ続けてきたテーマです。
何が公開されたのか:722本・372グループ・約4000問の読み方
リポジトリには、論文の原稿(PDFとソース)、成果の概要、Leanで書かれた形式証明、そしてモデルの推論過程を要約した資料10件分が収められています。
ここで注意したいのは、3つの数字がそれぞれ別の単位だという点です。
- 722:公開された個別原稿の本数
- 372:関連する原稿をまとめた成果グループの数。中心となる結果、補足的な論証、そこから導かれる結果、別証明などが1つのグループに入る
- 約4000:評価期間中にモデルへ与えた問題の数
XenoSpectrumが指摘するように、「722件の独立した未解決問題を解いた」という意味ではなく、722や372を4000で割って「正答率」を出すこともできません。
計算量についてOpenAIは、1件当たり平均で「ChatGPT Pro」の思考機能を約3時間使った分に相当すると説明しています。これは計算量を換算した表現で、どの問題も3時間で解けたという意味ではありません。また、リーマンゼータ関数の零点が存在しない領域に関する研究と、CMアーベル多様体に対するホッジ予想の証明は、この共通手順の例外とされています。ゼータ関数に関する原稿のうち1本は、読みやすさのため人間が文章を編集したとのことです。
「準リーマン予想」とは何か:リーマン予想そのものではない
最も注目を集めているのが「準リーマン予想」と題した原稿です。XenoSpectrumによると、この原稿は、リーマンゼータ関数を含むすべてのディリクレL関数について、複素変数の実部が7/8を超える領域には零点が存在しないと主張しています。
零点とは関数の値がゼロになる点のことで、ゼータ関数の零点の位置は素数の分布と深く関係しています。リーマン予想が主張するのは、非自明な零点がすべて実部1/2の直線上にあるということです。
つまり、今回の主張が正しいとしても、実部が1/2と7/8の間に零点がある可能性までは排除できません。重要な前進にはなり得ますが、リーマン予想の解決とは別物です。
ほかにも、名前の知られた問題に関わる原稿があります。
- πの無理数度は2:円周率πを分数でどこまで精密に近似できるかを表す指数についての主張
- CMアーベル多様体の有理ホッジ予想:対象は複素乗法(CM)を持つアーベル多様体に限られ、ホッジ予想全体の解決ではない
有名な問題名が並ぶほど、「実際に何を、どの条件で証明したと主張しているのか」を確認することが大切になります。
検証はどこまで進んでいるのか:Leanで確認できる範囲
Leanは、証明の各段階が論理規則に従っているかをコンピューターで確認するための言語・定理証明支援系です。文章では見落としやすい論理の飛躍を、機械が検査できる形に置き換えられます。
XenoSpectrumが10月7日時点で確認したところ、形式化目録に「主結果が形式化された原稿」として登録されているのは162件で、722本の22.4%に当たります。ビジネス+ITも、162本に形式証明が添付され、残る560本は自然言語による記述にとどまると報じています。
ただし、この数字にも読み方があります。
- 22.4%は「主結果の形式化資料が目録にある原稿」の割合で、原稿の全文が形式化された割合ではない
- 目録のレビュー状態は「未確認」とされており、第三者による検証完了を意味しない
- 形式化された定理が、元の数学的問題を正しく表現しているかは別途確認が必要
たとえば準リーマン予想用の検証設定で指定されているのは、リーマンゼータ関数が実部7/8より右側でゼロにならないという定理です。原稿が扱うすべてのL関数まで形式検証されたとは言えません。
GIGAZINEは、証明に新しく重要なアイデアが含まれるのか、既存手法の組み合わせなのかを見極める必要があり、数百件の証明を数学者が読み解くには数か月かかると伝えています。機械が「論理的に正しい」と確かめることと、人間が「何が新しいのか」を理解することは、別の作業です。
数学界の反応:AGMAIは「支持ではない」と明言
OpenAIは今回の公開にあたり、AGMAIの助言と、同グループが9月29日に出した提言を参考にしたとしています。提言は、AI企業が数学の成果を公表する際の条件として次のような点を挙げています。
- AI企業が管理しないリポジトリへの登録
- 使用したモデル名、プロンプト、推論の要約、所要時間、計算コストの開示
- Leanによる形式化
- 解けなかった問題の数や、問題の選び方の説明
一方でITmedia NEWSによると、提言は冒頭で、外部の研究者が使えない社内モデルで高度な数学問題を試す慣行そのものを支持しないと明言し、やめるよう求めています。AGMAIは公開当日にも、助言したことは成果の影響を判断したことでも、OpenAIが成果を得た過程を支持したことでもないと強調しました。同グループは数学界全体を代表しているわけではなく、必要な評価を担えるのは数学界だけだとしています。
期待の声もあります。GIGAZINEによれば、量子情報の研究者アイザック・キム氏は、自身の専門分野の問題が多数含まれていることに触れ、「数ヶ月後に何が起こるか想像もできない」と述べました。サム・アルトマンCEOは「新たな発見の時代に突入している」と投稿しています。
影響と今後:焦点は「検証」と「モデルへのアクセス」
今後の見どころは大きく3つあります。
- 個別の証明の検証:専門家が原稿を読み、誤りの有無と新規性を確かめる作業が続く。OpenAIは問題が見つかれば速やかに修正し、訂正は新しい版として記録して旧版も残すとしている
- 公開先の独立性:今回はOpenAIのGitHubが使われた。同社は提言の基準を満たすコミュニティ運営の公開先を引き続き検討するとしている
- モデルの提供:OpenAIは今回の成果を出したモデルについて、責任ある形での一般提供に向けて取り組んでいるとするが、時期や条件は示していない
OpenAIはまた、AIが生み出した成果を数学者が理解するためのワークショップや会議、特別プログラムに資金を提供する予定で、詳細は近く明らかにするとしています。
論文が読めるようになることと、数学者が同じ道具を使って自分の問いを追えることは同じではありません。成果を受け取る側の研究者に、次の研究テーマを決める主導権が残るかどうかも問われています。
よくある質問
OpenAIのAIはリーマン予想を解いたのですか
解いていません。OpenAIの原稿が主張しているのは、実部が7/8を超える領域にゼータ関数などの零点が存在しないという「準リーマン予想」です。リーマン予想は零点がすべて実部1/2の直線上にあるという主張で、1/2と7/8の間の零点は今回の主張では排除されません。
公開された722本の論文はすべて正しいと確認されていますか
確認されていません。形式化目録に主結果の形式化資料が登録されているのは162本(約22%)で、そのレビュー状態も「未確認」とされています。OpenAI自身が、形式化していない結果には問題が含まれる可能性があると認めています。
722本という数字は、722個の未解決問題を解いたという意味ですか
違います。722は公開された原稿の本数で、関連する原稿をまとめた成果グループは372です。1つのグループには主結果のほか補足的な論証や別証明も含まれるため、独立した722問の解決を意味しません。
Leanとは何ですか
Leanは、数学の証明が論理規則に従っているかをコンピューターで検査するための言語・定理証明支援系です。証明をLeanで書き直す「形式化」を行うと、論理の飛躍を機械的に見つけられます。ただし、その証明が数学的にどれほど新しいかは、Leanでは判断できません。
今回の成果を出したAIモデルは一般に使えますか
現時点では使えません。成果の大半は未公開の社内モデルで得られたものです。OpenAIは責任ある形での一般提供に向けて取り組んでいるとしていますが、提供時期や条件は示していません。
まとめ
OpenAIは、未公開の社内AIモデルによる数学原稿722本を公開し、「100件超の未解決問題を解いた」という主張の中身を外部から検証できる形にしました。準リーマン予想をはじめ、正しければ大きな前進となる主張が含まれますが、機械検証の資料があるのは約2割にとどまり、数学者による確認には数か月かかると見られています。
「AIが難問を解いた」という見出しを目にしたときは、何を、どの条件で、誰が確認したのかを分けて読むことが役立ちます。今回の公開は、AIの能力そのものと同じくらい、その成果を社会がどう検証し共有するかが問われる出来事だと言えます。
参考ソース
- OpenAI、社内AIがリーマン予想の関連難問を証明と主張 論文722本をGitHubで公開(ITmedia NEWS、2026年10月7日)
- OpenAIが社内AIモデルで722本の未解決問題に関する数学的成果を発表(GIGAZINE、2026年10月7日)
- 「100件超の未解決問題を解いた」とOpenAIが主張:その中身を722本の数学原稿として公開(XenoSpectrum、2026年10月7日)
- OpenAIが準リーマン予想の証明を含む、AIによる数学証明論文722本を公開(ビジネス+IT、2026年10月7日)
- openai/math(GitHub)
- Sharing AI progress in mathematics(OpenAI)