飼い主の高齢化で犬猫の保護依頼が増加——殺処分は過去最低なのに現場が逼迫する理由

環境省統計では犬猫の殺処分数6,830頭と過去最低。一方で全国120団体調査では約半数が「保護依頼が増えた」と回答し、要因の87.9%が高齢飼い主の入院・死亡でした。統計と現場のギャップの構造と、飼い主が元気なうちにできる備えを公的資料から整理します。

はじめに——数字は良くなっているのに、現場は「増えた」と言う

結論から先にお伝えします。犬猫の殺処分数は過去最低を更新し続けていますが、それは問題が解決したことを意味しません。行政が引き取らなくなった分の負担が民間の保護団体に移り、その最大の引き金が飼い主の高齢化になっている——それが2026年の動物愛護週間を迎えた日本の現在地です。

2026年9月20日から26日は、動物愛護管理法に定められた動物愛護週間です。これに合わせて時事通信は9月19日、ペットケア関連会社「犬猫生活」(東京都新宿区)が全国120団体に行った調査で、犬猫の保護依頼が「増えた」と答えた団体が約半数に上ったと報じました(出典1)。一方、環境省の令和6年度(2024年4月1日〜2025年3月31日)統計では犬猫の殺処分数は6,830頭。平成16年度の394,799頭と比べると、20年で約98%減という劇的な改善です(出典5)。

この2つは矛盾しているように見えますが、統計の取り方と制度の変化を押さえると両立します。本記事では、①公的統計が示す実像、②なぜ現場では増えて見えるのかという構造、③背景にある「人の問題」、④飼い主が元気なうちにできる備え、の順に、環境省や自治体の公開資料をもとに整理します。

公的統計が示す実像——引取り39,409頭、殺処分6,830頭

まず環境省の数字を正確に押さえましょう。令和6年度の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」は次のとおりです(出典5)。

項目 犬 猫 合計
引取り数(飼い主から) 2,215 8,322 10,537
引取り数(所有者不明) 15,184 13,688 28,872
引取り数 合計 17,399 22,010 39,409
返還数 6,630 225 6,855
譲渡数 8,797 16,854 25,651
殺処分数 1,964 4,866 6,830

殺処分数は前年度の9,017頭から2,187頭減り、過去最低を更新しました(出典7)。要因としては、保護団体やSNSを通じた譲渡活動の定着、マイクロチップ装着義務化による返還率の向上、飼い主のいない猫への不妊去勢手術(TNR)の浸透が挙げられます。

ただし内訳を見ると課題も残ります。殺処分6,830頭のうち猫が4,866頭と犬の2倍以上で、幼齢個体が2,950頭を占めます。そして本記事の本題にとって最も重要な点は、この統計が「自治体が扱った分」しかカバーしていないということです。

なぜ現場では「増えた」のか——2013年の法改正が変えた流れ

犬猫生活の「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」(9月8日公開、全国120団体調査)は、この乖離を数字で示しています(出典2)。

  • 保護依頼の主な要因:「高齢飼い主の入院・死亡」87.9%、「多頭飼育崩壊」65.5%、「野良犬猫の繁殖」51.7%
  • 新規引き取りルートの71.7%が「一般住民からの相談や野良からの直接保護」
  • 保護団体の約8割が活動費を自己負担
  • 約半数の団体で引き取り依頼が増加

3つ目までの項目が、乖離の正体です。新規保護の7割超が一般住民からの直接依頼ということは、その分は行政を経由していない=環境省の統計に一切計上されないということを意味します。

では、なぜ行政を経由しなくなったのか。鍵は2013年9月1日に施行された改正動物愛護管理法です。この改正で、飼い主には動物が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任があることが法律上明確にされました。同時に、都道府県等は終生飼養に反する理由による引取り——動物取扱業者からの引取り、繰り返しての引取り、老齢や病気を理由とした引取りなど——を拒否できるようになりました(出典9)。

狙いは安易な飼育放棄の抑制で、実際に飼い主からの持ち込み頭数は減少しました。しかし公益財団法人動物環境・福祉協会Evaが指摘するように、持ち込み頭数が減ったことは「手放したい」という事情が減ったことを意味しません(出典8)。行政の窓口が狭くなった分、行き場を探す飼い主と犬猫は民間の保護団体へ直接向かいます。

構造を図に整理すると次のようになります。

flowchart TD
    A[飼い主が飼育を続けられなくなる<br>入院・施設入居・死亡・経済的困窮] --> B{自治体に引取りを相談}
    B -->|終生飼養に反する理由<br>老齢・病気等| C[引取り拒否<br>※改正動愛法第35条]
    B -->|やむを得ない事情と認定| D[自治体が引取り<br>→ 環境省統計に計上]
    C --> E[民間の保護団体へ直接依頼]
    A -->|そもそも行政に相談しない| E
    E --> F[保護団体が引き受け<br>→ 公的統計に表れない]
    D --> G[返還 6,855 / 譲渡 25,651 / 殺処分 6,830]
    F --> H[医療費・人手・収容スペースが逼迫<br>約8割の団体が活動費を自己負担]

つまり「殺処分が減った」と「現場の依頼が増えた」は、同じ制度変更の表と裏です。Evaは、動物愛護団体にも収容キャパシティと労力の限界があり、過剰な保護や引き出しは保護団体自身の多頭飼育崩壊を招きかねないとも警告しています(出典8)。

この傾向は別の調査でも裏付けられています。PETOKOTOが全国59団体に行った『ペトコトお結び保護犬・保護猫白書2026』では、保護活動を取り巻く状況について「あまり変わらない」49%、「むしろ増えている」27%で、合計76%が「課題は減っていない」と回答。保護理由の1位は「飼い主の高齢化・入院・死亡」(49件)、現場の課題の1位は「医療費負担」(41件)、今後必要な支援の1位は「飼い主の高齢化対策」(33件)でした(出典4)。

背景にあるのは「動物の問題」ではなく「人の問題」

保護依頼の要因として2番目に多い多頭飼育崩壊(65.5%)についても、行政の見立ては明確です。環境省は令和3年3月、「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン〜社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて〜」を策定しました。その背景説明はこうです。多頭飼育問題の背景には飼い主の経済的困窮や社会的孤立による生活困窮等の問題があり、社会福祉的な支援を必要とする飼い主が多く、再発のリスクも高い。したがって「人の問題」と「動物の問題」として別々にとらえるのではなく、関係者が連携して対応することが重要である——(出典11)。

ガイドラインは多頭飼育問題を、①飼養者の生活状況の悪化、②動物の状態の悪化、③周辺の生活環境の悪化という3つの影響が同時に生じている状況と定義します。環境省が125自治体に行った調査では、平成30年度の多頭飼育に係る苦情は全国で年間2,149件、1自治体あたり平均約20.5件でした(出典12)。

課題は、気づくタイミングです。神奈川県が令和7年4月に設置した「不適正な犬猫の多頭飼育を未然に防止するための動物愛護管理部局と福祉部局の効果的な連携体制に係る検討会」の報告書は、多機関連携で情報を探知した時点ではすでに適正な飼育ができていない「手遅れ」の事例も多いと率直に認めています。福祉関係者の側には「ペットを飼っている=飼育崩壊のリスクが潜んでいる」という認識が低く、早期に相談するインセンティブがないという構造的な問題も指摘されており、県は打開策として訪問型の動物相談支援員の設置を検討しています(出典14)。

高齢者側にも、見落とされがちな逆説があります。厚生労働省の調査(2022年時点)では健康寿命は男性72.57歳・女性75.45歳で、70代前半までは元気に生活している人が多い一方、高齢化率は29.4%に達しています(出典17)。ところが保護団体の多くは、犬猫が安心して余生を過ごせる環境を確保したいという思いから里親に年齢条件を設けています。その結果、飼育経験も体力も経済力も十分にある高齢者が保護犬猫を迎えられず、諦めてペットショップで子犬を買ってしまうケースが生じていると、アニマル・ドネーションは指摘しています(出典16)。高齢の飼い主が飼っていた犬猫はそれ自体が高齢であることが多く、里親が見つかりにくいという現実もあります。

この行き違いを埋める試みが、高齢者とシニア犬猫をマッチングする「シニア for シニア」です(出典17)。高齢犬の長寿化と介護負担増を背景に、老犬・老猫ホームが現実的な選択肢として定着しつつあることも報告されています(出典19)。

飼い主が元気なうちにできる備え——「ペットの終活」という考え方

ここまでの整理を踏まえると、有効な対策は「起きてから引き取る」より「起きる前に支える」方向にあります。PETOKOTOの調査で今後必要な支援の1位が「飼い主の高齢化対策」、4位が「多頭飼育崩壊予防」だったことは、現場の実感がそこにあることを示しています(出典4)。

環境省の多頭飼育対策推進モデル事業では、東京都台東区が飼い主向け「ペットと暮らすシニア世代の皆様へ」、動物関係者向け「ペットの終活ノート」、社会福祉関係者向け「地域で見守り、未然に防ごう!―元気なうちからペットの終活を」の3種類のパンフレットを作成しています(出典13)。「終活」という言葉が動物愛護行政の文脈で使われている点が示唆的です。飼い主とその家族が元気なうちに確認しておきたいことを、以下に整理しました。

今日から確認できること

  • 万一のときの預け先を具体的に決めておく(家族・親族・信頼できる知人の名前と連絡先まで)
  • 飼育情報を書き残す(かかりつけ動物病院、既往歴・投薬、フードの種類、苦手なもの、性格のクセ)
  • マイクロチップの登録情報が最新か確認する(引っ越しや電話番号変更のあとは要更新)
  • 不妊去勢手術を済ませておく(多頭飼育崩壊の最大の予防策。自治体や日本動物愛護協会などの助成制度を確認)
  • かかりつけ動物病院に「飼い主が入院したとき」の相談ができるか聞いておく

飼えなくなる可能性が見えてきたとき

環境省は、自ら飼えなくなった場合には自分で新たな飼い主を探す、動物愛護団体に相談する等して譲渡先を見つけるよう明記しています(出典9)。自治体には、引取り以外の支援メニューがある場合があります。

たとえば静岡県の「ポッチとニャンチ愛の伝言板」は、飼えなくなった飼い主と飼いたい人をつなぐ掲示板を市役所や町役場に設置する仕組みです。平成25年度末で県下27市町33か所に設置され、同年度の申込809件に対し成立445件という実績があります。飼い主が自宅で飼養を続けながら新しい飼い主を探せる点が利点です(出典15)。まずは住んでいる自治体の動物愛護センター・保健所に「引き取ってほしい」ではなく「飼い続けるために何ができるか」を相談するのが出発点です。

なお、飼えなくなったからといって動物を捨てる「遺棄」は犯罪です。改正動物愛護管理法では遺棄に懲役1年以下または100万円以下の罰金、みだりな殺傷には懲役5年以下または500万円以下の罰金が定められています(出典10)。

飼っていない人にもできる支え方

保護団体の課題1位が「医療費負担」、2位が「人手不足」、4位が「預かりボランティア不足」だったことを踏まえると(出典4)、支援の入口は里親だけではありません。継続寄付、一時的な預かりボランティア、物品寄贈、ふるさと納税を通じた支援など、関わり方には幅があります。動物愛護週間中は各自治体や団体が譲渡会・啓発イベントを開催するため、現場を見に行くこと自体が第一歩になります。

よくある質問

動物愛護週間はいつからいつまでですか

2026年の動物愛護週間は9月20日(日)から26日(土)までです。動物の愛護及び管理に関する法律に定められた週間で、期間中は全国の自治体や動物愛護団体が譲渡会や啓発イベント、表彰などを実施します。本記事で紹介した犬猫生活やPETOKOTOの白書も、この週間に合わせて公開されたものです。

殺処分数が減っているのに、なぜ保護団体は「依頼が増えた」と言うのですか

環境省の統計は自治体が扱った犬猫しかカバーしていないためです。犬猫生活の調査では、保護団体の新規引き取りルートの71.7%が「一般住民からの相談や野良からの直接保護」で、行政を経由していません。2013年施行の改正動物愛護管理法により自治体が老齢や病気を理由とした引取りを拒否できるようになったことで、行き場を探す犬猫が民間団体へ直接向かう流れが生まれています。統計上の減少と現場の増加は矛盾しません。

飼い主が高齢で入院した場合、行政は犬猫を引き取ってくれますか

必ず引き取ってもらえるとは限りません。改正動物愛護管理法により、都道府県等は終生飼養の原則に反する理由による引取りを拒否できます。老齢や病気を理由とした引取りはその対象に含まれ得ます。環境省は、飼えなくなった場合には自分で新たな飼い主を探す、動物愛護団体に相談する等して譲渡先を見つけるよう求めています。まずは自治体の動物愛護センターや保健所に、引取りではなく飼育継続の支援について相談するのが現実的です。

多頭飼育崩壊はなぜ起きるのですか

環境省の多頭飼育対策ガイドラインは、背景に飼い主の経済的困窮や社会的孤立による生活困窮等の問題があり、社会福祉的な支援を必要とする飼い主が多いと説明しています。そのため「人の問題」と「動物の問題」を別々にとらえず、社会福祉部局と動物愛護管理部局が連携して対応することが重要とされています。最も確実な予防策は不妊去勢手術で、自治体や動物愛護団体の助成制度が利用できる場合があります。

高齢でも保護犬・保護猫を迎えることはできますか

保護団体の多くは犬猫の余生を守る観点から里親に年齢条件を設けており、団体によって対応は異なります。ただし、高齢者とシニア犬猫をマッチングする「シニア for シニア」のような取り組みも広がりつつあります。高齢の飼い主が手放したシニア犬猫は里親が見つかりにくい一方、高齢者はシニア犬猫と生活リズムが合いやすいという相性もあります。条件や後見的な預け先の有無を含め、団体に直接相談してみることをおすすめします。

まとめ

2026年の動物愛護週間が映し出したのは、「殺処分ゼロ」に向けて着実に進む数字と、その数字に表れない現場の逼迫が同時に存在しているという現実です。

  • 環境省の令和6年度統計では、引取り39,409頭・殺処分6,830頭で過去最低を更新した
  • 一方、全国120団体調査では約半数が保護依頼の増加を報告し、要因の87.9%が「高齢飼い主の入院・死亡」だった
  • 新規引き取りの71.7%が行政を経由しない直接依頼のため、公的統計には表れない
  • 2013年施行の改正動愛法による終生飼養の明記と引取り拒否の制度化が、この流れを生んだ
  • 多頭飼育崩壊の背景には経済的困窮や社会的孤立があり、環境省は社会福祉部局との多機関連携を求めている
  • 有効な対策は「起きてから引き取る」より「元気なうちに備える」方向にある

敬老の日を含むこの連休、高齢の親御さんと過ごす機会がある方は、ペットの話題を一度出してみてください。預け先は決まっているか、不妊去勢は済んでいるか、マイクロチップの登録情報は最新か。その確認が、数年後に誰かが背負うはずだった負担を、静かに減らします。

参考ソース

  1. 犬猫の保護依頼「増えた」半数 背景に飼い主高齢化―民間の120団体に調査(時事通信、2026年9月19日)
  2. 【調査データ】9月20日からの「動物愛護週間」を前に、「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」を公開(犬猫生活株式会社、2026年9月8日)
  3. 「全国犬猫保護活動 実態白書2026」を公開 犬猫生活株式会社(JVM NEWS)
  4. 『ペトコトお結び保護犬・保護猫白書2026』公開(株式会社PETOKOTO)
  5. 統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」令和6年度(環境省)
  6. 統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和6年度版)」(環境省)
  7. 【速報・環境省発表】2024年度の犬・猫の殺処分数6,830頭。減少の裏で見える課題(ピースワンコ・ジャパン、2026年2月4日)
  8. 犬猫の引取り数と殺処分数(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)
  9. 動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました〈一般飼い主編〉(環境省自然環境局総務課動物愛護管理室)
  10. 改正動物愛護管理法の概要(環境省)
  11. 「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン〜社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて〜」の策定について(環境省報道発表資料)
  12. 同ガイドライン 第1章 多頭飼育問題とはどのような問題か(環境省)
  13. 多頭飼育対策推進モデル事業(環境省)
  14. 不適正な犬猫の多頭飼育を未然に防止するための動物愛護管理部局と福祉部局の効果的な連携体制に係る検討会 報告書(神奈川県)
  15. 人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト 事例紹介(環境省)
  16. 保護犬・猫の生涯飼育【第一回】日本の高齢者問題と殺処分(アニマル・ドネーション AWGs)
  17. 高齢者とシニアの犬猫をつなぐ新しい選択肢「シニア for シニア」とは?(@DIME、2026年9月17日)
  18. 多頭飼育崩壊と高齢の飼い主の死去で居場所を失った2匹の猫が「里親」と出会うまで(FRaU/現代ビジネス)
  19. 老犬・老猫ホーム入居数調査(2026年7月)発表(リブモ株式会社)
  20. 浅田美代子さんに聞く 動物愛護団体が果たしてきた役割とは何か(朝日新聞、2026年9月19日)
  21. 公益財団法人 日本動物愛護協会

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