永住許可の手数料が1万円から20万円へ——10月施行の在留手数料改定を読み解く
政府は2026年8月25日、外国人の在留手続き手数料を引き上げる政令を閣議決定した。永住許可は1万円から20万円へ20倍、在留資格の変更・更新は一律6,000円から最大7万5,000円へ。10月1日施行のこの改定は何を根拠に、誰の負担を増やすのか。減額規定の限界と国際的な潮流まで整理する。
政府は2026年8月25日の閣議で、外国人の在留手続きにかかる手数料を引き上げる政令を決定した。もっとも幅が大きいのは永住許可で、現行の1万円が20万円になる。20倍である。在留資格の変更・更新も、これまでの一律6,000円から在留期間に応じた1万円〜7万5,000円の段階制へ切り替わる。施行は2026年10月1日。9月30日までに受け付けられた申請には現行額が適用される。
数字だけを見れば単なる手数料改定だが、出入国在留管理庁の統計では永住者だけで約95万人、技能実習・特定技能・留学まで含めれば数百万人規模の人々が、数年に一度この窓口を通る。改定は当事者の家計と、外国人を雇う企業の人件費計画の両方に直接効いてくる。ここでは何がどう変わるのかを確定した事実から整理し、そのうえで賛否の論点を並べていきたい。
制度の背景——2026年5月成立の改正入管難民法
今回の引き上げは、その場で決まったものではない。根拠は2026年5月に成立した改正出入国管理及び難民認定法(入管難民法)にある。改正法が手数料の上限を大きく引き上げ、具体的な金額を政令に委ねる構造になっており、8月25日の閣議決定はその政令が固まったという段取りだ。7月には政令案が公表され、パブリックコメント(意見公募)も実施されている。
制度側の説明は「受益者負担」と「共生社会の基盤整備」に集約される。平口法務大臣は閣議後の会見で、今回の改定について「外国人との秩序ある共生社会について、施策を確実に実施しつつさらなる強化拡充を図るもので、重要な意義を有する」と述べている。審査体制の拡充や在留管理のデジタル化には財源が要る。その費用を一般財源ではなく申請者から徴収するという整理である。
背景にあるのは在留外国人の急増だ。出入国在留管理庁の令和7年末統計では、在留資格別の最多は永住者で947,125人。以下、技術・人文知識・国際業務が475,790人、留学が464,784人、技能実習が456,618人、特定技能が390,296人と続く。特定技能は1年で105,830人増えており、伸び率が突出している。国籍別では中国930,428人、ベトナム681,100人、韓国407,341人、フィリピン356,579人、ネパール300,992人の順だ。審査件数が増えれば、それを処理するコストも増える——という論理自体は理解できる。
在留手数料は何がどう変わるのか——新旧比較
改定内容を整理すると次のようになる。
| 手続き | 現行 | 2026年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 在留資格の変更・更新(3か月以下) | 6,000円 | 1万円 |
| 在留資格の変更・更新(1年) | 6,000円 | 3万3,000円 |
| 在留資格の変更・更新(3年以上5年未満) | 6,000円 | 6万4,000円 |
| 在留資格の変更・更新(5年以上) | 6,000円 | 7万5,000円 |
| 永住許可 | 1万円 | 20万円 |
いずれも窓口申請の場合の額で、オンライン申請にはこれより低い額が設定されている。在留資格認定証明書(COE)の交付申請は従来どおり無料のままだ。
制度設計として目を引くのは、変更・更新の手数料が在留期間に連動する点である。長い在留期間を得られる人ほど高い手数料を払う。逆に言えば、1回あたりの単価は短期のほうが安い。ただしこれは負担が軽いという意味ではない。特定技能1号は在留期間が「4か月・6か月・1年」と細かく区切られており、更新の頻度が高い。1年ごとの更新でも毎回3万3,000円が発生し、5年で5回申請すれば累計16万5,000円になる。区分が6か月なら申請回数はその倍に増える。5年の在留期間を一度に得た人が7万5,000円を1回払うのとは、負担の構造がかなり違う。
永住許可の20万円については、一度きりの支払いであるという点が制度側の言い分になる。永住者は更新の必要がないため、生涯コストで見れば更新を繰り返すより安いという整理は成り立つ。とはいえ、20万円を一度に用意できるかどうかは、生涯コストの計算とは別の話だ。手元資金の制約で申請を先送りする人が出れば、制度が想定する「安定した在留」への移行はその分だけ遅れる。
減額規定はどこまで届くか
大幅な引き上げに伴い、出入国在留管理庁は8月25日に減額を認める対象者のガイドラインを公表した。対象は、生活保護法が定める要保護者に準じる程度に困窮し、かつ人道上の配慮が必要と認められる者。減額が適用された場合、永住許可の手数料は20万円ではなく2万円になる。パブリックコメントを踏まえ、当初案から減額対象の範囲を拡大する修正も行われた。
ただし、この救済がどこまで届くかについては報道段階から疑問が示されている。共同通信の報道によれば、難民認定申請者が減額対象となるには「保護費」の受給が要件になる。しかし保護費を実際に受給している難民申請者は一部にとどまるため、大半は減額対象外になるとみられる。難民支援団体は、救済の範囲が限られることに懸念を示している。
制度の建て付けとしては筋が通っている。困窮していれば減額する、という設計そのものに反対は少ないだろう。問題は、困窮の証明を既存の給付制度への接続で代替している点にある。給付にアクセスできていない人ほど、実際には困窮していても減額に届かない。手数料改定の是非とは別に、この判定基準が運用の中でどう機能するかは追跡に値する論点だ。
なお、値上げ幅そのものはパブリックコメントを経ても変更されず、当初予定どおりの水準で施行が確定した。意見公募が減額対象の範囲には反映され、金額には反映されなかったという結果になる。
手数料引き上げの賛否と、その先にある論点
時事通信の世論調査では、在留手数料の引き上げに「賛成」と答えた人がおよそ5割だった。賛成が半数に届く一方、残りの半数は反対か態度を保留している計算になる。国民的な合意が形成されたとまでは言いにくい数字だ。
賛成側の論理は明快だ。行政サービスのコストは利用者が負担すべきであり、日本人が旅券やマイナンバーカードの再発行に手数料を払うのと同じことだ、という受益者負担論。加えて、審査体制の拡充によって処理期間が短縮されるなら、申請者にとってもリターンがある、という説明も成り立つ。
反対側からは、20倍という上げ幅の根拠が示されていないという指摘が出る。原価計算の裏づけがあるのか、それとも申請の抑制効果を狙った政策的な水準なのか。永住許可は在留の安定性を左右する手続きであり、価格が申請の可否を実質的に決めるなら、それは経済力による選別に近づく。「秩序ある共生社会」という説明と、経済的な選別という結果が同居してしまう懸念である。
企業側の視点も外せない。人手不足が深刻な業種では、外国人材の採用が選択肢ではなく前提になりつつあり、そこに更新のたびの手数料が上乗せされる。実務の現場からは、手数料を企業と本人のどちらが負担するのかというルールを施行前に明文化すべきだという指摘が出ている。更新頻度の高い特定技能1号を多く受け入れている企業ほど、影響は大きい。
視野を広げると、これは日本だけの動きではない。米国土安全保障省(DHS)は同じ8月25日、H-1Bビザの抽選対象申請に1件10万3,265ドル(約1,652万円)の追加手数料を課す規則案を公表した。昨年の10万ドル徴収案は連邦地裁が差し止め、政府が控訴中だが、今回は正式な規則制定手続きへ移行している。桁は違うが、外国人材の受け入れを数量規制ではなく価格で調整するという発想は共通している。日本でも国際観光旅客税(出国税)が1,000円から3,000円へ引き上げられたばかりだ。入国・在留・出国のそれぞれに値札が付いていく流れの中に、今回の改定はある。
施行後に何が起きるか——影響と今後
短期的に起きるのは駆け込み申請だろう。9月30日までに受け付けられた分には現行手数料が適用されるため、申請可能な人は前倒しする動機がある。ただし在留期間の更新申請は満了日のおおむね3か月前からしか出せないため、誰もが前倒しできるわけではない点には注意が要る。
中期的には、オンライン申請への移行が進むと見られる。窓口より低い額が設定されているため、企業にとっては手数料そのものがオンライン化の誘因になる。行政側から見れば、窓口の混雑緩和と処理の効率化につながる設計だ。
より長い目で見て問うべきは、この価格が在留の選択にどう影響するかである。永住許可を申請するか、更新を続けるか、そもそも日本を働く場所として選ぶか。手数料は判断材料のひとつにすぎないが、20万円という数字は無視できる大きさではない。特定技能だけで1年に10万人以上増えている国で、入口のコストを上げることが何をもたらすのか。施行後の申請件数の推移が、最初の答えを示すことになる。
よくある質問
在留手数料の引き上げはいつから適用されるのか
2026年10月1日以降に受け付けられた申請から新しい手数料が適用される。2026年9月30日までに受け付けられた分は現行の手数料(在留資格の変更・更新は一律6,000円、永住許可は1万円)のままだ。
永住許可の手数料はいくらになるのか
窓口申請の場合、現行の1万円から20万円に引き上げられる。20倍の改定となる。ただし減額の対象と認められた場合は2万円になる。
在留資格の変更・更新はいくらかかるのか
在留期間に応じた段階制になり、3か月以下が1万円、1年が3万3,000円、3年以上5年未満が6万4,000円、5年以上が7万5,000円となる。いずれも窓口申請の額で、オンライン申請にはこれより低い額が設定されている。
手数料の減額を受けられるのは誰か
生活保護法が定める要保護者に準じる程度に困窮し、かつ人道上の配慮が必要と認められる者が対象となる。難民認定申請者の場合は「保護費」の受給が要件となるため、保護費を受給していない多くの申請者は減額対象外になるとみられ、難民支援団体が懸念を示している。
この引き上げの法的な根拠は何か
2026年5月に成立した改正出入国管理及び難民認定法(改正入管難民法)に手数料引き上げが盛り込まれ、具体的な金額を定める政令が2026年8月25日の閣議で決定された。政令案は7月に公表され、パブリックコメントも実施されている。
まとめ
2026年8月25日に閣議決定された在留手数料の改定は、永住許可を1万円から20万円へ、在留資格の変更・更新を一律6,000円から最大7万5,000円へ引き上げるもので、10月1日に施行される。根拠は2026年5月成立の改正入管難民法であり、政府の説明は受益者負担と共生社会の基盤整備にある。
一方で、20倍という上げ幅の根拠は明示されておらず、減額規定は既存の給付制度への接続を要件とするため、困窮していても救済に届かない層が残る。難民申請者の大半が減額対象外とみられる点は、施行後の運用で注視すべき論点だ。
世論調査では賛成が5割にとどまり、議論が決着したわけではない。同じ日に米国がH-1Bへの高額手数料の規則案を出したことが示すように、外国人材を価格で調整する動きは国際的な潮流になりつつある。日本がその潮流の中でどこに立つのかは、これから施行後の数字が明らかにしていく。
参考ソース
- 在留手数料、10月から引き上げ 最大7.5万円、永住20万円―政令決定(時事ドットコム)
- 外国人の在留手数料大幅引き上げ 閣議決定 “困窮者”は減額も(テレ朝news)
- 政府 外国人の在留許可手数料 10月から引き上げ決定(NHK)
- 在留手数料、生活困窮で減額対象 難民申請者大半除外に懸念(共同通信/福井新聞)
- 令和7年末現在における在留外国人数について(出入国在留管理庁)
- 令和8年8月25日(火)定例閣議案件(首相官邸)
- 2026年8月25日 夜の注目すべきニュース(The HEADLINE)
- 【2026年10月から】在留手数料が大幅値上げ!更新・変更は最大7万5,000円に(株式会社KMT)