日本へのサイバー攻撃が前年比42%急増——AIが加速する新たな脅威と、企業が今すぐ取るべき対策
2026年春、日本を狙うサイバー攻撃が異常なペースで増加している。チェック・ポイント・リサーチの調査によると、2026年3月の日本の組織に対する攻撃は週平均1,723件に達し、前年同月比で42%の増加を記録した。この増加率はアジア太平洋地域(APAC)で最大であり、日本が攻撃者にとって優先度の高いターゲットになっていることを示している。
止まらないランサムウェア被害——4月だけで複数の企業が業務停止
2026年4月に入ってからも、国内企業へのランサムウェア攻撃は相次いでいる。
繊維メーカーのオーミケンシは3月にランサムウェア攻撃を受け、基幹システムが停止。その影響で5月に予定していた決算発表の延期を余儀なくされた。YCC情報システムは4月2日にファイルサーバーがランサムウェア攻撃を受け、取引先から受託・保管していた情報の漏えいの恐れがあることを4月14日に公表した。新エフエイコムも4月10日未明に不正アクセスによるランサムウェア感染が発生し、システム障害が続いている。
さらに注目すべきは、委託先を経由した被害の拡大だ。ホテルオークラ福岡では、人事関係業務の委託先であるシステムニシツウのクラウドサーバーが不正アクセスを受け、従業員の個人情報が漏えいした。川崎市でも、業務委託先のシード・プランニングがランサムウェア攻撃を受けたことで、約2,000件の事業者情報が危険にさらされた。
IPA「10大脅威 2026」が示す3つの潮流
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」は、現在の脅威動向を端的に映し出している。
組織向け脅威の1位は、11年連続で「ランサム攻撃による被害」だ。もはやランサムウェアは一過性の脅威ではなく、構造的な問題として定着している。2位の「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」も昨年に引き続きの選出で、上述のホテルオークラ福岡や川崎市の事例がまさにこれに該当する。
そして今年、初めて3位に選出されたのが「AIの利用をめぐるサイバーリスク」だ。トレンドマイクロはこのリスクを、AIの悪用(フィッシングメールの自動生成、マルウェアのコード作成支援)、AIへの攻撃(学習データの汚染、プロンプトインジェクション)、AI運用上のリスク(データ漏えい、法的責任の曖昧さ)の3つに分類している。
AI時代のサイバー攻撃——偵察も攻撃も「自動化」される時代
AIがサイバーセキュリティの脅威を加速させている実態は、複数の調査で裏付けられている。攻撃者はAIを使って脆弱性の偵察を自動化し、従来よりも迅速に攻撃を仕掛けられるようになった。ZDI(Zero Day Initiative)は、AIツールによる脆弱性発見の増加で、ベンダーへの通報数が3倍に急増していると指摘する。
一方で、企業側がAI導入を急ぐあまり、新たな攻撃面を自ら生み出しているという皮肉な状況もある。管理されていないAIツール、保護されていないAPI、ガバナンスのないデータフローは、攻撃者にとって格好の侵入ポイントになっている。ガートナーも2026年4月の調査で、日本企業のインシデントパターンとして「AIエージェントのリスクと脅威」を新たな注目項目に挙げた。
政府と業界の対応——「受け身」から「攻め」へのパラダイムシフト
こうした脅威の拡大を受け、日本政府は「能動的サイバー防御」の法整備に踏み切った。これは、攻撃を受けてから対処するのではなく、攻撃元を事前に把握して無力化するという戦略の転換だ。防衛省のサイバー部門は2027年度までに約4,000人規模へ拡大する計画を進めている。
サプライチェーン対策としては、経済産業省が「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)」の構築を進めており、2026年度下期の運用開始を目指している。企業の対策レベルを★3(専門家確認付き自己評価)や★4(第三者評価)で可視化し、取引先選定の判断材料とすることで、サプライチェーン全体の底上げを図る。
企業が今すぐ取るべき対策
ガートナーやIPAの提言を踏まえると、組織が優先すべき対策は以下のポイントに集約される。
まず、委託先を含めた情報資産の棚卸しだ。「どの情報が、どのクラウドにあり、誰が管理者か」を把握し、契約上のフォレンジックや通知の責任分界を明確にしておく必要がある。次に、AI導入に伴うリスク管理として、社内で利用するAIツールの可視化とガバナンス体制の構築が急務だ。そして、EDR(端末検知・対応)だけに頼らず、ネットワーク全体を監視するNDRや、脅威インテリジェンスの活用を組み合わせた多層防御が求められている。
まとめ
日本へのサイバー攻撃は、もはや特定業界や大企業だけの問題ではない。週1,723件という攻撃頻度、委託先経由での連鎖被害、そしてAIによる攻撃の自動化——これらが重なることで、あらゆる組織がリスクにさらされている。国内のサイバーセキュリティ市場は2026年度で約1.3兆円規模に成長する見通しだが、投資だけでは解決しない。技術・制度・人材の三位一体で、「受け身」から「攻め」の防御へ転換できるかが、日本のデジタル社会の安全を左右する。
参考ソース:
- チェック・ポイント・リサーチ「2026年3月の主要なサイバー脅威」(2026年4月10日)
- IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日発表、4月更新)
- トレンドマイクロ「IPA 10大脅威 2026:AIのサイバーリスクを3つに分けて理解する」(2026年3月17日)
- ガートナー「日本企業のインシデントパターン分析」(2026年4月15日)
- ITmedia「ランサム攻撃で基幹システム停止、決算発表延期——オーミケンシ」(2026年4月14日)
- セキュリティ対策Lab「YCC情報システム ランサムウェア攻撃」(2026年4月14日)
- 経済産業省「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」