「SNOW」にステマ措置命令——「AI生成画像やってみた」投稿70件超と景品表示法
消費者庁は2026年8月6日、写真加工アプリ「SNOW」の提供事業者2社に景品表示法に基づく措置命令を出した。問題となったのは「今流行ってるAI生成画像SNOWでやってみた」といった、報酬付きで依頼されながら広告表示のないX投稿70件超。生成AIブームに乗った口コミ施策が、なぜステマ規制に触れたのかを解説する。
「SNOW」にステマ措置命令——「AI生成画像やってみた」投稿70件超と景品表示法
消費者庁は2026年8月6日、写真・動画加工アプリ「SNOW(スノー)」を提供する韓国のSnow Corporationと、その日本法人であるSNOW Japan(東京都品川区)の2社に対し、景品表示法に基づく措置命令を出した。問題とされたのは、報酬を条件に第三者へ依頼しながら、広告であることを明示しなかったX(旧Twitter)への投稿である。
注目すべきは、その投稿の中身だ。「今流行ってるAI生成画像SNOWでやってみた」「ChatGPT重いけど、SNOWでやってみたらすぐに出来たよ」——生成AIブームのど真ん中を突く文面で、あくまで一般利用者の感想を装っていた。生成AIが日常語彙になった時代の口コミ施策が、日本のステルスマーケティング規制にどう引っかかったのか。事案の構造を整理しておきたい。
何が命令されたのか
消費者庁の認定によれば、SNOW Japanは第三者に対し、対価の提供を条件として、自社が指示する方針に沿った内容をXへ投稿するよう依頼していた。投稿は2025年4月以降に行われ、対象となったものは70件を超える。一部は2026年6月まで表示され続けていた。
消費者庁は、これらの投稿について「企業が依頼したものであることを明らかにしておらず、消費者が広告と判別することは困難だった」と指摘した。そのうえで2社に対し、次の4点を命じている。
- 該当する投稿の取りやめ
- 違反の事実を消費者へ周知すること
- 再発防止策を徹底すること
- 今後、同様の表示を行わないこと
いずれも「やめて、告知して、二度とやるな」という典型的な措置命令のパッケージであり、金銭的な制裁は含まれていない。この点は後述するステマ規制の設計と関係している。
背景:2023年10月に始まった「ステマ告示」
日本のステマ規制は、景品表示法第5条第3号に基づく指定告示(内閣府告示第19号、通称「ステマ告示」)として2023年10月1日に施行された。それまで日本にはステマを直接取り締まる法令がなく、業界の自主規制に委ねられていた領域である。
この規制の要点は3つある。
第一に、規制されるのは「事業者の表示であるにもかかわらず、一般消費者が事業者の表示であると判別することが困難な表示」である。商品の効果や価格を偽ったかどうか——つまり優良誤認や有利誤認——は問われない。書かれている内容が事実であっても、広告だと分からせなければ違反になりうる。今回のSNOWの事案がまさにこの型で、アプリの機能そのものに虚偽があったとは認定されていない。
第二に、責任を負うのは広告主である事業者だ。消費者庁は「企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は規制の対象とはならない」と明示している。投稿した個人ではなく、依頼した側が処分される建て付けになっている。
第三に、ステマ告示違反は課徴金納付命令の対象外である。措置命令や行政指導が中心で、2024年10月1日以降は事業者側から是正計画を申し出る確約手続の対象にもなった。罰金額の大きさよりも、「行政処分を受けた事業者」として社名が公表されるレピュテーション上のダメージが実質的な制裁として機能する構造だ。
執行そのものは着実に積み上がっている。2026年に入ってからも、3月23日に東京都が育毛剤を扱うプルチャームに対して優良誤認5件とステマ告示違反2件を認定して措置命令を出し、6月29日には子ども向けサプリメント「ノビルン」を販売する高光製薬が、自社サイトに第三者の投稿画像を「SNSでも大人気!」として掲載していた点を問題視されている。SNOWの事案は、この流れの延長線上にある。
なぜ「AI生成画像やってみた」だったのか
今回の事案で目を引くのは、依頼された投稿が生成AIの話題を入り口にしていた点である。
SNOWは2015年9月にサービスを開始した自撮り・加工アプリで、AR加工や美顔補正で若年層を中心に広がった。運営元のSNOW Corporationは2016年12月設立、代表者は金暢旭氏。Google Playのアプリ説明では「全世界で4億人が使う」とうたわれている。近年は「AIアバター」「AIプロフィール」といった生成AI系機能を前面に出しており、ChatGPTの画像生成が話題になるたびに競合として名前が挙がる立ち位置にあった。
つまり、「ChatGPTでやろうとしたけど重かった。SNOWなら一瞬でできた」という文面は、当時のタイムラインの空気をそのまま模した、極めて効率の良いコピーだったわけだ。生成AIの流行語は検索とレコメンドの両方で拾われやすく、しかも「新しいツールを試してみた」という体裁は、宣伝臭を消すのに都合がいい。
ここに、生成AI時代のマーケティングが抱える固有のリスクが顔を出す。プロダクトの訴求点そのものがトレンドワードと一体化しているため、自然な感想と広告文の距離が限りなく近くなる。「AIで作ってみた」という投稿は、本物のユーザーも大量に発信している。その海に紛れさせることが、そのまま施策のKPIになってしまう。判別困難性を要件とするステマ規制からすれば、これは狙って違反へ近づいていく構図と言える。
企業実務への含意
事業者側が取るべき対応は、法解釈としてはさほど複雑ではない。
対価(金銭に限らず、商品提供や割引なども含む)を伴って第三者に投稿を依頼する場合、その投稿が広告であることを一般消費者が判別できる形にする。「PR」「広告」「〇〇社から提供を受けています」といった表示を、投稿の冒頭など見落とされにくい位置に置く。ハッシュタグの末尾に紛れ込ませる、外部リンク先にだけ書く、といった運用は判別困難と評価されうる。
難しいのはむしろ運用の統制だ。今回のように投稿が70件を超え、1年以上にわたって継続していた場合、個々の投稿者がガイドラインを守っているかを確認し続ける体制が要る。代理店やキャスティング事業者を挟むと、依頼の実態と表示の実態がずれるリスクはさらに上がる。責任は最終的に広告主に集約されるため、「代理店に任せていた」という説明は免責にならない。
生成AIを扱うプロダクトの場合は、もう一段の注意が必要になる。AI生成コンテンツそのものの表示義務は、EU AI法第50条のように別の規制系統で急速に整備が進んでいる。「これはAIが作ったものか」という開示と、「これは広告か」という開示は別の論点だが、いずれも“出所を明らかにする”という同じ方向を向いている。マーケティング施策の設計段階で、両方のチェックを通す運用に切り替えておくのが安全だろう。
今後の見通し
短期的には、生成AI関連プロダクトの口コミ施策に対する監視が強まる可能性が高い。トレンドワードを使った「やってみた」型の投稿は、依頼されたものと自然発生的なものが混在しており、外形からは見分けがつきにくい。今回の措置命令は、その領域にも執行が及ぶという実例を示した。
中期的な論点は、規制の実効性である。ステマ告示違反に課徴金がない以上、抑止力は社名公表と報道に依存する。国内法人だけでなく海外の本社まで名指しされた今回の処理は、その意味で一定のメッセージ性を持つ。一方で、依頼を受けた投稿者側が規制対象外であることに対しては、実務家の間で継続的に議論がある。
そしてより長い時間軸では、生成AIが投稿そのものを量産できる時代に、「一般消費者の感想」というカテゴリーがどこまで意味を持ち続けるのかという問いが残る。広告と口コミの境界線を引く法制度は、その境界線が技術的に消えつつある状況にどう向き合うのか。SNOWの事案は、その入口を示した事例として記憶されることになりそうだ。
よくある質問
SNOWのアプリを使っていたユーザーに影響はあるのか
今回の措置命令は、事業者による広告表示の方法を問題としたもので、アプリの機能や安全性に問題があると認定されたものではない。アプリの利用自体が制限されるといった内容は命令に含まれていない。ただし2社には違反の事実を消費者へ周知することが命じられているため、今後SNOW側から告知が出される見込みだ。
依頼を受けて投稿したユーザーは罰せられるのか
罰せられない。消費者庁は、ステマ規制の対象となるのは広告主である事業者であり、企業から広告・宣伝の依頼を受けたインフルエンサー等の第三者は規制の対象とはならない、と明示している。今回の措置命令もSnow CorporationとSNOW Japanの2社に対して出されたもので、投稿者個人は対象外である。
ステマ規制はいつから始まったのか
2023年10月1日に施行された。景品表示法第5条第3号に基づく指定告示(内閣府告示第19号)として導入されたもので、「事業者の表示であるにもかかわらず、一般消費者が事業者の表示であると判別することが困難な表示」を不当表示として禁止している。それ以前の日本には、ステマを直接規制する法令はなかった。
措置命令を受けると罰金は科されるのか
ステマ告示違反は課徴金納付命令の対象外であり、措置命令自体に金銭的な制裁は含まれない。命じられるのは違反表示の取りやめ、消費者への周知、再発防止策の徹底といった行為である。ただし措置命令は事業者名とともに公表されるため、ブランドへの影響は小さくない。
「PR」表記はどこに入れれば安全なのか
投稿の冒頭など、一般消費者が広告であると容易に判別できる位置に明示するのが原則となる。多数のハッシュタグの末尾に紛れ込ませる、リンク先のページにだけ記載するといった方法は、判別が困難だと評価されるおそれがある。表示の位置・文字サイズ・前後の文脈を含めて、受け手の視点で判断する必要がある。
まとめ
SNOWへの措置命令が示したのは、「書いてある内容が本当かどうか」ではなく「広告だと分かるかどうか」を問う規制が、生成AIブームの真ん中で実際に機能したという事実である。
トレンドワードとプロダクトの訴求点が重なるとき、宣伝は自然な感想と見分けがつかなくなる。それは施策としての効率の高さであると同時に、ステマ規制の要件そのものに近づいていくことを意味する。2025年4月から1年以上、70件を超える投稿が積み上がった今回の事案は、その落差が現場で自覚されにくいことも示している。
生成AIを扱うプロダクトほど、「これは広告である」と「これはAIが作った」という二つの開示を、施策の設計段階でセットにして考える必要がある。開示のコストを払わない選択が、最終的にどれだけ高くつくのか。8月6日の公表は、その計算を見直す材料になるはずだ。
参考ソース
- 写真加工アプリ「SNOW」にステマで措置命令 報酬付きでX投稿依頼、広告表示なし 消費者庁(ITmedia NEWS, 2026年8月6日) — https://www.itmedia.co.jp/news/article/2608/06/2000000428/
- 「Snow」と称するアプリケーションの利用サービスの提供事業者に対する措置命令について(消費者庁) — https://www.caa.go.jp/notice/entry/047138/
- 加工アプリ「Snow」で"ステマ"指摘 消費者庁が提供事業者2社に行政処分 景品表示法違反で措置命令(FNNプライムオンライン, 2026年8月6日) — https://www.fnn.jp/articles/-/1089911
- 写真加工アプリ「Snow」、ステマ投稿指示で措置命令 消費者庁(朝日新聞デジタル, 2026年8月6日) — https://www.asahi.com/articles/ASV861W3NV86UTFL00TM.html
- 人気加工アプリ「Snow」ステマ違反で措置命令 PR表示せず(日テレNEWS NNN, 2026年8月6日) — https://news.ntv.co.jp/category/society/3e5315429b9a49df8f327823a61428f4
- 令和5年10月1日からステルスマーケティングは景品表示法違反となります(消費者庁) — https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing/
- ステマ規制とは|景品表示法第5条第3号の実務解説 — https://www.trynow.jp/legal/stealth-marketing
- SNOW Corporation 会社情報 — https://snowcorp.com/ja/