AIが「SI」に改称——トランプ氏、国連演説でAI国際規制を全面拒否

2026年9月22日の国連総会演説で、トランプ米大統領がAIの国際規制枠組みを「完全に拒否する」と表明し、「人工知能」を「Super Intelligence(SI)」へ改称すると宣言した。政策意図、学術用語との衝突、日本とEUへの波及を整理する。

要約:2026年9月22日の国連総会一般討論演説で、トランプ米大統領はAIを規制する国際的な枠組みを「完全に拒否する」と表明した。あわせて「人工(Artificial)」という語は「偽物のように聞こえる」として、今後は「スーパーインテリジェンス(Super Intelligence、SI)」と呼び、米国の公式文書の表記を変更したうえで他国にも同様の変更を求めると宣言した。直前に同じ壇上でグテレス国連事務総長がAIリスクを冷戦期の核兵器になぞらえ多国間の管理枠組みを呼びかけており、国際的なAIガバナンス論議は真っ二つに割れる展開となった。

何が起きたのか

国連総会の一般討論演説が始まった9月22日午前(日本時間22日夜)、トランプ米大統領は2期目で2回目となる演説に臨んだ。イラン情勢や国際刑事裁判所(ICC)批判と並んで大きな比重を占めたのが、AI政策だった。

一つは規制の全面拒否である。時事通信によれば、トランプ氏は「人工知能(AI)を規制するグローバリストの枠組みを構築しようとする、いかなる試みも完全に拒否する」と表明した。テレビ朝日は「アメリカはAIを規制しようとする国際的な枠組みは一切拒否する」と伝えており、共同通信の報道も含め複数社の表現は一致している。

もう一つは名称変更の宣言だ。朝日新聞によると、トランプ氏は「Artificial(人工)」という語が「フェイクに聞こえる」として、今後は「スーパーインテリジェンス(Super Intelligence、略称SI)」と呼ぶと述べ、米国の公式文書で新呼称を使うと宣言した。毎日新聞と共同通信は、他国にも米国にならうよう求めた点を伝えている。

加えてトランプ氏は、AIの安全性への懸念を読売新聞の報道では「デマだ」と断じ、ChosunBizの報道では減速論・規制論を「グローバルな詐欺」と規定したとされる。「米国は中国を大きく引き離し、先頭を走っている」「超知能競争で勝つ者が勝者となる」とも述べ、開発推進の姿勢を鮮明にした。

背景:3日間で3回変わった改称案

改称の話は、国連演説で突然出てきたものではない。

発端は9月19日から21日にかけてのTruth Socialへの一連の投稿である。産経ニュースによれば、トランプ氏はこの期間に「AI Force(AI軍)」の創設と、AI政策を統括する「AI Czar(AIの皇帝)」の任命を表明した。募集について「応募はIQ(知能指数)が高い人に限る!」という一文まで添えられている。

名称については、Forbes JAPANが伝えるとおり、当初は3案が示された。

  • Superior Intelligence(SI、優れた知能)
  • Extreme Intelligence(EI、極めて高度な知能)
  • Supreme Intelligence(最高の知能)

トランプ氏はこの3案をSNSに掲げ、支持者に投票を呼びかけた。ITmedia NEWSは、同じ投稿で「Artificial Intelligence」という呼称は不正確で洗練されていないと主張していたことを報じている。

興味深いのは、その後の変遷だ。AI専門メディアのinnovatopiaは、改称案が3日間で3回変わったと指摘する。「Supreme」が脱落し、次いで「Extreme」が消え、当初リストになかった「Super」が登場した。最終的に国連の壇上で読み上げられたのは「Super Intelligence」である。同メディアは、ホワイトハウスのAI政策責任者のポストが2026年3月から空席であるとも報じている。組織論だけが先行し、その司令塔は不在という状態だ。

論点1:「超知能」という言葉はすでに別の意味を持っている

技術側から見て最も引っかかるのは、用語の衝突である。

「superintelligence(超知能)」は、AI安全性研究の分野ですでに確立した術語だ。innovatopiaが指摘するとおり、科学的創造性や判断力を含むほぼあらゆる分野で人間を大きく上回る知性を指す語であり、その制御が可能かどうかがAI安全性研究の中心的な論点になっている。

つまり「超知能」は、まだ実現していない段階を指す言葉として使われてきた。これを、いま実在するチャットボットや画像生成モデルを含むAI技術全般の呼称に転用すると、不都合が生じる。

  • 既存の学術文献・政策文書における「superintelligence」の参照が曖昧になる
  • 「まだ超知能には到達していない」という研究上の前提が、行政文書の表記と矛盾する
  • リスク議論で、現行システムの能力と仮説的な超知能の能力が意図せず混同される

さらに略称「SI」は、国際単位系(Système International d'unités)とも、システム統合(System Integration)を「SI」と呼ぶ日本のIT業界の慣行ともぶつかる。

Yahoo!ニュースのエキスパートとして解説した佐藤仁氏は、この改称提案を「能力を強調する名称案」と位置づけ、開発減速に反対するAI政策と連動したものと読み解いている。名前を「人工」から「超」に変えることは、単なる語感の調整ではなく、AIを制御すべき危険物ではなく獲得すべき優位性として枠づけし直す試みと見ることができる。

論点2:同じ壇上で示された正反対のシナリオ

この演説が際立ったのは、タイミングによるところも大きい。

TBS CROSS DIG with Bloombergによれば、グテレス国連事務総長はAIの新たな安全対策を巡る国際的な合意を呼びかけ、「われわれは、権力が政府から一握りの民間企業や個人へと大きく移りつつあるのを目の当たりにしている」「AIは驚異的なスピードで進歩しており、その影響の全容を理解するわれわれの能力を上回る勢いで突き進んでいる」と述べた。中央日報日本語版は、グテレス氏がAIリスクを冷戦時代の核兵器になぞらえ多国間リスク管理の枠組み構築を呼びかけた直後に、トランプ氏の発言が出てきたと整理している。

同じ議場で、数時間のうちに、

  • 国連事務総長:AIは核兵器級のリスクであり、多国間の管理枠組みが要る
  • 米国大統領:AIリスク論はデマであり、国際的な規制枠組みは一切拒否する

という真逆の主張が示されたことになる。

時事通信は9月23日、一般討論演説全体を通じてAI対応の後手に対する懸念が各国から相次ぎ、危機管理の仕組みを求める声も出たと報じている。東京新聞(共同)によれば、高市首相も自身の演説でAIリスクへの対処を訴えた。米国の立場は、この総会の場では明確に少数派の側にある。

一方で、米国の産業界が政府と同じ立場に立っているわけでもない。朝日新聞は、OpenAIが9月21日にAIの安全性確保のための国際協力や基準づくりを米国が主導すべきだと提言したと報じている。「規制そのものを拒否する」政府の立場と、「基準づくりを米国が主導する」企業側の提案は、似て見えて中身が違う。前者は枠組みの不在を望み、後者は枠組みの主導権を望んでいる。

論点3:EU・日本の規制はどうなるのか

米国が国際的な枠組みを拒否したところで、すでに動いている各国の国内法が止まるわけではない。

EUは、AI Actの第50条(透明性義務)が2026年8月2日に全面適用を開始した。生成AIサービスの事前明示、C2PAメタデータやウォーターマークの付与、ディープフェイクの明示ラベルが法的義務となり、違反には売上高比率に基づく制裁金が科される。EUの規制は域外適用を持つため、米国企業がEU市場でサービスを提供する限り、ワシントンが国際枠組みを拒否しても適用を免れない。

日本は、2026年8月25日に「生成AIプリンシプル・コード」を正式決定している。学習データの透明性確保と著作権保護を柱とし、罰則のないソフトロー形式ではあるが、政府調達要件や訴訟時の過失判断基準として実効性を持つ設計だ。EUのハードローとは異なるアプローチだが、規制ゼロではない。

つまり、国際的な統一枠組みが成立しない場合に起きるのは「規制のない世界」ではなく、ルールが地域ごとにばらばらな世界である。開発者はEU向け・米国向け・日本向けで異なるコンプライアンス要件を並行して満たすことになる。国際的な枠組みは自由を奪うものであると同時に、要件を一本化してコストを下げるものでもあった。呼称も同じで、米国だけが「SI」に切り替われば、条文の相互参照や国際契約のドラフティングで無用な摩擦が生じる。

影響と今後

短期的に注視すべき点は3つある。

第一に、米国の公式文書の表記が実際に変わるかどうか。演説での宣言と、連邦政府各機関の文書規程の改訂は別の手続きだ。大統領令が出るのか、行政管理予算局(OMB)が指針を出すのか、宣言のまま実務が動かないのか。既存の法令には「artificial intelligence」が定義語として書き込まれており、名称変更は思われているほど軽い作業ではない。

第二に、AI ForceとAI Czarの具体化。組織の位置づけ、予算、権限は現時点で明らかになっていない。AI政策責任者が3月から空席のまま、新たな組織と役職だけが構想として先行している点は無視できない。

第三に、国連側の対応。米国が不参加のまま枠組みができるのか、それとも米国抜きでは実効性を欠くとして頓挫するのか。この分岐は、気候変動枠組みで起きたことの反復になる可能性がある。

よくある質問

AIの呼称は本当に「SI」に変わるのか

トランプ大統領が2026年9月22日の国連総会演説で「米国の公式文書では今後Super Intelligence(SI)と呼ぶ」と宣言したのは事実だが、現時点では宣言の段階にとどまる。連邦政府の文書規程の改訂手続きや、「artificial intelligence」を定義語として使う既存法令の扱いは明らかになっていない。他国が追随するかどうかも未定である。

なぜ「人工知能」という名称を変えたいのか

トランプ大統領は「人工(Artificial)」という語が「偽物のように聞こえる」「不正確で洗練されていない」と主張している。提案は9月19日から21日のSNS投稿で始まり、当初はSuperior Intelligence / Extreme Intelligence / Supreme Intelligence の3案が示されていた。専門家の間では、能力を強調する名称に変えることでAIを規制対象ではなく国家的優位性として位置づけ直す政策意図があるとの見方がある。

「超知能(superintelligence)」はもともとどういう意味の言葉か

AI安全性研究では、科学的創造性や判断力を含むほぼあらゆる分野で人間を大きく上回る知性を指す術語として使われ、その制御が可能かどうかが中心的な論点になってきた。この語を現行のAIシステム全般の呼称に転用すると、既存の学術文献や政策文書との間で意味の衝突が生じる。

米国が国際規制を拒否すると、EU AI法や日本のルールはどうなるのか

各国・地域の国内法は米国の立場とは独立に運用される。EU AI Actは第50条(透明性義務)が2026年8月2日に全面適用を開始しており、域外適用があるため米国企業もEU市場では従う必要がある。日本も2026年8月25日に「生成AIプリンシプル・コード」を正式決定している。国際的な統一枠組みが成立しない場合に生じるのは規制の消滅ではなく、地域ごとに要件が異なる分断状態である。

国連側はどう反応しているのか

グテレス事務総長は同じ国連総会の場でAIの新たな安全対策を巡る国際的な合意を呼びかけ、AIリスクを冷戦期の核兵器になぞらえて多国間のリスク管理枠組みの構築を求めた。一般討論演説では各国からもAI対応の遅れへの懸念が相次ぎ、危機管理の仕組みを求める声が出ている。

まとめ

2026年9月22日の国連総会で示されたのは、単なる呼び名の話ではない。AIを「制御すべきリスク」と見るか「獲得すべき優位性」と見るかという、根本的な認識の対立である。名称案が3日間で3回変わった経緯は宣言の練度を測る材料になるが、「規制を拒否する」という中核のメッセージは一貫していた。

用語の問題は表層で、本質は国際的なAIガバナンスが統一枠組みに向かうのか、地域ごとの分断に向かうのかという分岐にある。EU AI Actがすでに全面適用の段階に入り、日本もソフトローを走らせている以上、米国の拒否が招くのは「規制のない世界」ではなく「ルールがばらばらな世界」だ。宣言と実装の距離を測ることでしか、この件の重みは判断できない。

参考ソース

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