Windows 11のメモリ整合性、10月から既定オンに——カーネル保護と性能の代償

Microsoftは2026年10月から、対象となるWindows 11デバイスでメモリ整合性(HVCI)を既定で有効にします。カーネルを狙うBYOVD攻撃を封じる一方、ゲーム性能の低下や古いドライバーとの非互換という副作用も抱える変更です。対象条件、確認方法、トラブル時の切り分けまで整理します。

Microsoftは2026年9月1日、Windows IT Pro Blogで「2026年10月から、対象となるWindowsデバイスでメモリ整合性(Memory Integrity)を既定で有効化する」と発表しました。メモリ整合性が有効になっていない端末では、その土台となるVBS(仮想化ベースのセキュリティ)も同時に有効化されます。

数年前から存在しながら、要件を満たしているのに使われていなかった保護機能を、ユーザーが何もしなくてもオンにする——という変更です。カーネルを直接狙う攻撃に対しては大きな前進ですが、一方でゲーム性能の低下や古いドライバーとの非互換という、この機能が長年抱えてきた副作用もそのまま持ち込まれます。何が変わり、自分の環境で何を確認すべきかを整理します。

メモリ整合性とは何か——HVCIとVBSの関係

メモリ整合性は、Microsoft Learnの表記では「ハイパーバイザーで保護されたコード整合性(HVCI: Hypervisor-protected Code Integrity)」と同じものを指します。つまり、メモリ整合性とHVCIは同じ機能の別名です。Windowsセキュリティの画面上では「コア分離」というカテゴリの中に置かれたトグルとして現れるため、設定を探すときは「コア分離」を目印にすることになります。

仕組みはこうです。CPUの仮想化支援機能を使い、Windows本体からは直接触れない隔離環境をハイパーバイザーの下に作ります。これがVBSです。その隔離環境の中で、カーネルモードで動こうとするドライバーの署名とコード整合性を検証するのがHVCIです。検証を通らないコードはカーネル空間で実行できません。

なぜこれが重要かというと、カーネルモードドライバーは仮想アドレス空間全体にアクセスできる特権を持つからです。JPCERT/CCも警告してきたとおり、ここに脆弱性があれば、コンピューター上のあらゆる情報の窃取や改ざんに直結します。ユーザーランドで動くアンチウイルスやEDRでは、カーネルを取られた時点で足元を崩されてしまう。だからハイパーバイザーという「一段下」のレイヤーで守る必要がある、という発想です。

狙いはBYOVD——署名済みの脆弱ドライバーという抜け道

Microsoftがこのタイミングで既定値を動かす背景には、BYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver)と呼ばれる攻撃手法の定着があります。

BYOVDは、BYOD(私物端末の業務利用)になぞらえた命名です。攻撃者はマルウェア用のドライバーをゼロから書きません。代わりに、正規のベンダーが署名した、しかし脆弱性を抱えた既存のドライバーを標的マシンに持ち込んでロードさせ、その脆弱性を突いてカーネル権限を奪います。署名は正規のものなので、署名検証だけでは弾けません。Cisco Talosの分析でも、既知の脆弱ドライバーを意図的にインストールして時間をおいて悪用する手法として整理されています。

Microsoftはこれに対して「脆弱なドライバーのブロックリスト(Microsoft Vulnerable Driver Blocklist)」も提供していますが、Microsoft Learn自身が「脆弱性が見つかったすべてのドライバーをブロックするとは限らない」と明記しています。ブロックリストは既知のものを潰す後追いの対策であり、リストに載っていない脆弱ドライバーは通ってしまう。HVCIはリストではなく整合性検証で防ぐため、より根の部分に効きます。

Windows Latestは、AI支援の脆弱性調査によってカーネルレベルのバグ発見が以前より速くなっていることを、Microsoftが今動く理由の一つとして挙げています。攻撃側の発見速度が上がるなら、すでに手元にある未使用の防御を全面展開するのが最も安上がりだ、という判断は理解できるところです。

誰が対象で、いつ何が起きるのか

Microsoftの公式アナウンスは「2026年10月から段階的にロールアウトする。すべての対象デバイスに同時に到達するとは限らない」という書き方です。Windows Latestは、10月のPatch Tuesday(10月13日)に配信される品質更新プログラムからと報じています。

対象条件として報じられているのは次のとおりです。

  • Intel 第8世代以降のプロセッサ、AMD Zen 2以降、またはQualcomm Snapdragon 8180以降
  • x64システムで8GB以上のRAM
  • 64GB以上のSSD
  • ファームウェアで仮想化支援が有効になっていること
  • メモリ整合性との互換性が確認済みのドライバー構成であること

要件そのものはかなり緩い部類です。加えてMicrosoftは、有効化の前にデバイスごとの「準備状況の評価」を行うとしています。ハードウェアの能力、互換性、パフォーマンスへの考慮が判断材料に含まれるため、最低要件を満たす全機に無条件で降ってくるわけではありません。

重要なのは、これがオプトアウトを尊重する設計だという点です。グループポリシー、Intune、あるいはレジストリの手動変更で既にメモリ整合性を明示的に無効化している端末は、今回のロールアウトで勝手に変更されません。管理者とユーザーの既存の選択とポリシーは維持されます。ビジネス向けの認証階層であるSecured-core PCは、そもそも出荷時点で有効になっています。

裏を返せば、これまで一度も設定を触っていない一般ユーザーの端末こそが今回の主対象です。Windows 10時代からのアップグレードを重ねてきたPCは、要件を満たしていてもオフのままだったケースが多く、そこが今回埋められます。

副作用——性能低下と非互換ドライバー

この機能が長年オプトインに留まっていた理由は、大きく2つあります。

1つは性能です。Tom's Hardwareの検証では、VBS/HVCI有効時のゲーム性能低下はおおむね5%前後(誤差±1%程度)、条件によっては10%程度まで落ちるという結果が出ています。Intel環境で約6%、AMD環境で約4%という測定もあります。ComputerBaseがRyzen 7 5800X3DとWindows 11 24H2で行った検証でも、平均フレームレート・下位パーセンタイルの双方で「HVCIオフ」が優位でした。傾向としては、CPUがボトルネックになるタイトルで差が出やすく、GPUバウンドの場面では体感しにくい、というのが一般的な理解です。なお、このオーバーヘッドを軽減するためのハードウェア支援としてIntelのMBEC、AMDのGMETといった機構が用意されています。

もう1つは互換性です。メモリ整合性が許さない方法でメモリを操作する古いドライバーは、ロードを拒否されます。周辺機器が動かなくなる程度で済めばよいほうで、過去には古いハードウェアで起動不能に陥った事例も報告されています。Microsoft Learnもブロックリストの説明で、ドライバーをブロックするとデバイスやソフトウェアが誤動作し、まれにブルースクリーンが発生しうると認めています。

影響と今後——自分の環境で確認すべきこと

一般ユーザーがまず見るべきは、Windowsセキュリティ > デバイス セキュリティ > コア分離 の画面です。ここに「メモリ整合性」のトグルがあり、オン/オフが直接表示されます。既にオンなら今回の変更で何も起きません。

10月以降に挙動がおかしくなった場合は、イベントビューアーで切り分けられます。「アプリケーションとサービス ログ > Microsoft > Windows > CodeIntegrity > Operational」を開き、イベントID 3087を探すと、非互換と判定されたドライバー名が記録されています。原因ドライバーが特定できたら、メーカーの更新版を待つか、更新が出るまで機能を一時的に無効化するかの二択になります。

IT管理者側は、10月を待たずに既存のメモリ整合性とVBSのポリシー、およびデバイス構成を棚卸ししておくのが実務的です。設定経路はグループポリシー、Intune、そしてレジストリの HKLM\System\CurrentControlSet\Control\DeviceGuard\Scenarios\HypervisorEnforcedCodeIntegrity です。意図せぬ有効化を避けたい端末群があるなら、事前に明示的なポリシーを当てておけばロールアウトの対象から外れます。

より大きな視点で見ると、この変更はOSベンダーが「安全な既定値」へ舵を切る流れの一例です。ユーザーが選ばなければ守られない状態を、選ばなくても守られる状態に置き換える。同じ発想は、Linuxカーネルにおけるメモリ安全性の議論——Rustドライバーの受け入れなど——とも通じています。性能を数パーセント差し出してでもカーネルの信頼境界を固める判断が、今後さらに広がるかどうかが見どころです。

よくある質問

メモリ整合性はいつから既定で有効になるのか

Microsoftの公式発表では2026年10月から段階的にロールアウトが始まります。Windows Latestは10月のPatch Tuesday(10月13日)の品質更新プログラムからと報じています。段階配信のため、すべての対象デバイスが同じタイミングで有効化されるわけではありません。

自分のPCは対象になるのか

報じられている条件は、Intel 第8世代以降・AMD Zen 2以降・Qualcomm Snapdragon 8180以降のいずれかのプロセッサ、x64で8GB以上のRAM、64GB以上のSSD、ファームウェアでの仮想化有効化、そして互換性が確認済みのドライバー構成です。加えてMicrosoftはデバイスごとに準備状況を評価するため、最低要件を満たしていても対象外となる場合があります。

自分で無効化している場合も強制的にオンになるのか

いいえ。グループポリシー、Intune、レジストリの手動変更などで明示的に無効化しているデバイスは、今回のロールアウトで自動的に変更されません。管理者とユーザーの既存の選択は維持される設計です。

ゲーム性能はどれくらい落ちるのか

Tom's Hardwareの検証ではおおむね5%前後、条件によっては10%程度の低下が報告されています。Intel環境で約6%、AMD環境で約4%という測定もあります。CPUがボトルネックになるタイトルで差が出やすく、GPUバウンドの場面では体感しにくい傾向です。

有効化後に不具合が出たらどうすればよいか

まずイベントビューアーの「アプリケーションとサービス ログ > Microsoft > Windows > CodeIntegrity > Operational」でイベントID 3087を確認し、非互換と判定されたドライバーを特定します。そのうえでメーカーの更新版ドライバーを待つか、更新が出るまでWindowsセキュリティのコア分離画面からメモリ整合性を一時的に無効化します。

まとめ

2026年10月から、対象となるWindows 11デバイスでメモリ整合性(HVCI)が既定で有効になります。カーネルモードドライバーの整合性をハイパーバイザー保護下で検証する仕組みで、正規署名済みの脆弱ドライバーを悪用するBYOVD攻撃に対して構造的に効きます。

一方で、ゲームなどCPUバウンドなワークロードで数パーセントの性能低下があり、古いドライバーとの非互換で不具合が出る可能性も残ります。ただしオプトアウトは尊重される設計であり、事前の準備状況評価も入るため、「強制」というより「既定値の移動」と捉えるのが正確です。

10月を迎える前に、Windowsセキュリティのコア分離画面で現状を確認しておくこと。管理下に端末があるならポリシーを棚卸ししておくこと。この2つを済ませておけば、10月13日以降に慌てる必要はありません。

参考ソース

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