火葬場が足りない――政令市4割超で2040年までに逼迫、火葬待ちと多死社会
読売新聞の調査で、火葬場を運営する政令市全20市のうち4割超が、遅くとも2040年頃までに火葬の受け入れ能力が逼迫する恐れがあると回答しました。横浜・広島はすでに超過。火葬待ちが起きる仕組み、施設整備の財政負担、東京23区の火葬料高騰、家族ができる備えを整理します。
火葬場の受け入れ能力が、大都市で限界に近づいています。読売新聞が2026年10月9日に報じた調査によると、公営の火葬場を持つ政令市全20市のうち4割超が、遅くとも2040年頃までに火葬の受け入れ体制が逼迫する恐れがあると回答しました。横浜市と広島市は「すでに上回っている」と答えています。団塊世代の高齢化で亡くなる人が増える「多死社会」が本格化し、火葬待ちの長期化と、施設更新にかかる自治体の財政負担という二つの問題が同時に表面化しています。この記事では、調査の中身、火葬待ちが起きる仕組み、各地の対策、家族ができる備えを順に整理します。
背景:多死社会と火葬場という公共インフラ
日本では亡くなった人のほとんどが火葬されます。火葬場は、誰もが最後に必ず利用する施設です。
読売新聞によると、火葬場の運営には墓地埋葬法などに基づく都道府県や区市の許可が必要で、旧厚生省の通知は運営主体に「永続性」と「非営利性」を求めています。2025年度末時点で全国1350施設のうち97%にあたる1316施設が公営で、市町村が単独または共同で運営する形が大半です。つまり火葬場の不足は、葬儀業界の問題である前に、自治体の行政サービスの問題です。
需要側の前提は人口構造です。国立社会保障・人口問題研究所は2023年、年間の死亡者数が2040年にピークを迎え、現在の約159万人より6万人多い約165万人になると試算しました。ところが読売新聞によると、2025年の死者数はすでにこの試算を約7万人上回っています。想定より早く、想定より多く、火葬の需要が増えているということです。
調査で分かったこと:9市が2040年までに能力超過の恐れ
読売新聞は政令市全20市に、年間の火葬件数が受け入れ可能件数(2026年6月時点)を超える恐れがあるか、あるとすればいつ頃かを尋ねました。回答は次のとおりです。
- すでに上回っている:横浜市、広島市
- 2030年代までに超過:さいたま市(2030年頃)、千葉市(2033年頃)、川崎市(2036年頃)、相模原市(2035〜36年頃)、堺市(2035年頃)
- 2040年までに超過:岡山市(2040年頃)、福岡市(2035〜40年頃)
合わせて9市で、全20市の45%にあたります。首都圏の政令市5市がすべて含まれている点が目を引きます。
影響はすでに出ています。千葉市では、死者が増える冬に7〜10日程度の「火葬待ち」が生じているといいます。朝日新聞の2026年3月の報道によれば、千葉市斎場は16基の火葬炉を備え、火葬件数は2022年度に初めて年間1万件を超え、2024年度は約1万1千件に達しました。市は新斎場の建設で火葬待ちの解消を目指しています。
長期の見通しも厳しいものです。今後は全政令市で火葬件数が増える見込みで、さいたま市と川崎市では2070年代に現在の1.5倍、年間約2万件に達するとされています。
火葬待ちはなぜ起きるのか
火葬待ちは、単純に炉の数が足りないことだけが原因ではありません。いくつかの要因が重なっています。
- 季節の偏り:死亡者は冬に増えます。年間の受け入れ能力に余裕があっても、冬場のピークには予約が埋まります。
- 時間帯の偏り:葬儀・告別式のあとに火葬する流れが一般的なため、希望が昼前後に集中します。朝や夕方の枠は空いていても使われにくい傾向があります。
- 友引の休場:多くの火葬場は友引を休場日にしてきました。その翌日に予約が集中します。読売新聞の2023年の報道では、札幌市の里塚斎場が友引明けに1日の上限である90人に達し、担当者が「稼働はもうぎりぎり」と話しています。
- 手続きと法律上の制約:火葬には死亡届の提出と火葬許可証の取得が必要です。また墓地埋葬法により、原則として死後24時間を経過しないと火葬できません。
火葬までの日数が延びると、遺体を安置する期間が長くなり、安置施設の利用料やドライアイス代といった遺族の負担が増えます。精神的な負担も小さくありません。
自治体の対応と重い財政負担
政令市の対応は、大きく「施設を増やす」と「運用を工夫する」の二つに分かれます。
施設面では、岡山市を除く19市が火葬場の新設や再整備、増炉を予定しています。代表例が横浜市です。同市は今年度末に5か所目となる市営火葬場を稼働させ、火葬炉を現在の44基体制から60基体制に増やします。タウンニュースの2026年6月の報道によると、新施設は鶴見区大黒町の「横浜市東部斎場」で、2027年3月下旬に供用を始める予定です。
問題は費用です。読売新聞によると、横浜市は約260億円の整備費を賄うために市債の発行を余儀なくされました。火葬場は利用料を低く抑える公共施設であり、整備費を料金収入で回収しにくい構造があります。政令市長会は2025年12月、国への要望事項に、火葬場整備に対する財政支援を初めて盛り込みました。
運用面の工夫も進んでいます。朝日新聞が2023年に報じた例では、ある公営火葬場が冬場の友引の一部を開場し、炉の稼働時間を1時間延ばして1日の受け入れ枠を18から21に増やしました。新設には年単位の時間がかかるため、当面は既存施設の稼働率を上げる取り組みが中心になります。
東京23区は別の問題:民営の寡占と火葬料の高騰
東京都でも、2040年頃に火葬能力が不足する恐れがあるとされています。加えて23区には、他の都市にない事情があります。
読売新聞の2026年6月の報道によると、23区では全9施設のうち7施設を民間事業者が占め、年間約9万件を受け入れています。火葬料は燃油高などを理由に2022年度以降だけで2万円前後値上げされ、多くは8万円以上になりました。住民なら4万〜5万円台で利用できる公営施設との価格差が広がっています。
都と区は対応策を協議しており、同報道では、公営火葬場の大幅な強化に向けて新設や民営施設の買収も視野に入れていると伝えられました。能力不足と料金高騰は別々の問題に見えますが、火葬という公共性の高いサービスを誰がどう安定して担うのか、という同じ問いにつながっています。
影響と今後:費用を誰が負担するのか
今後の焦点は三つあります。
- 国の財政支援:政令市長会の要望に国がどう応えるか。支援がなければ、整備費は市債や一般財源で賄うことになり、他の行政サービスを圧迫します。
- 広域連携:自前の火葬場を持たず近隣の施設に依存する自治体もあります。大都市の施設が逼迫すれば、周辺自治体の住民が先に影響を受けます。
- 葬送の形の変化:通夜や告別式を行わない直葬(火葬式)や一日葬が広がれば、時間帯の集中は和らぐ可能性があります。一方で、火葬件数そのものは減りません。
死亡者数の増加は、出生数と違って今後数十年の見通しがほぼ確定している数字です。施設の整備には用地の選定から完成まで長い期間がかかるため、今の判断が2040年の受け入れ能力を左右します。
よくある質問
火葬場が逼迫する恐れがある政令市はどこですか
読売新聞の2026年10月の調査では、横浜市と広島市がすでに受け入れ可能件数を上回っていると回答しました。さいたま、千葉、川崎、相模原、堺の5市は2030年代までに、岡山、福岡の2市は2040年までに超過する恐れがあるとしています。政令市全20市のうち9市です。
火葬待ちは何日くらいかかりますか
地域と季節によって大きく異なります。読売新聞によると、千葉市では死者が増える冬に7〜10日程度の火葬待ちが生じています。冬場や友引の翌日は予約が集中しやすく、待ち日数が延びる傾向があります。
なぜ火葬場をすぐに増やせないのですか
整備に多額の費用と長い時間がかかるためです。横浜市は5か所目の市営火葬場の整備に約260億円を要し、市債を発行しました。政令市長会は2025年12月、火葬場整備への財政支援を初めて国に要望しています。
東京23区の火葬料はなぜ高いのですか
23区では全9施設のうち7施設が民間事業者の運営で、公営が中心の他地域と事情が異なります。読売新聞の2026年6月の報道によると、民営施設の火葬料は2022年度以降に2万円前後値上げされ、多くが8万円以上になっています。都と区が対応策を協議しています。
家族として備えられることはありますか
住んでいる自治体の火葬場と、その予約状況や料金を事前に確認しておくことが役立ちます。火葬までの日数が延びると安置費用が増えるため、葬儀社に見積もりを取る際は安置日数が延びた場合の追加費用も尋ねておくと安心です。朝や夕方の枠、通夜・告別式を行わない形式を選ぶと、日程を組みやすい場合があります。
まとめ
- 読売新聞の調査で、政令市全20市のうち9市が、遅くとも2040年頃までに火葬の受け入れ能力が逼迫する恐れがあると回答した。横浜市と広島市はすでに超過している。
- 年間死亡者数は2040年に約165万人でピークを迎えると試算されているが、2025年の実績はすでに試算を約7万人上回っている。
- 19市が新設・再整備・増炉を予定する一方、横浜市の約260億円のように整備費が財政を圧迫しており、政令市長会は国に財政支援を求めている。
- 東京23区では能力不足の懸念に加え、民営施設の寡占による火葬料の高騰が課題になっている。
火葬場は普段意識されにくい施設ですが、必要になったときに待てる日数には限りがあります。自分の住む自治体の状況を一度確認しておく価値があります。
参考ソース
- 火葬場の受け入れ、政令市4割超で逼迫の恐れ…団塊世代高齢化の「多死社会」本格到来へ(読売新聞・ヨミドクター、2026年10月9日)
- 23区で火葬料金高騰の東京都、公営の火葬場を大幅強化へ…新設や民営施設の買収も視野に(読売新聞、2026年6月3日)
- 横浜市東部斎場 27年3月下旬に供用開始 火葬待ち日数短縮を期待(タウンニュース鶴見区版、2026年6月11日)
- 東部斎場の整備について(横浜市)
- 火葬需要の増加で千葉市が新斎場建設へ 「火葬待ち」の解消目指す(朝日新聞)
- 火葬場、友引も一部開場 冬場は2週間待ちも…受け入れ枠増やす(朝日新聞)
- 北海道札幌市の火葬場の稼働「ぎりぎり」、高齢化で余裕なく(読売新聞、2023年3月15日)