電動車いすの転落死亡事故が10年間で34件——NITE注意喚起の背景と、家族が今日からできる安全チェックリスト

はじめに——敬老の日前日にNITEが注意喚起、10年で死亡34件の衝撃

結論から先にお伝えします。製品評価技術基盤機構(NITE)の集計では、電動車いすの事故の約8割は製品の不具合以外によるものです。このためNITEは、乗車前の確認と点検、走行ルートの見直しといった使用環境・使用方法の確認を、使用者と家族・介助者が一緒に行うことを呼びかけています。

2026年9月20日、NHKは「電動車いすが用水路や側溝に転落するなどして、乗っていた高齢者が死亡する事故が過去10年間で34件」と報じ、注意を呼びかけるNITEの発信を伝えました。NITEは9月17日、9月21日の敬老の日に合わせて「敬老の日に願い、届ける、安全なくらし」と題する注意喚起を発表しています。なお死亡事故の「34件」はNHKの報道による数字で、NITE資料では同期間(2016〜2025年)の電動車いす関連事故全体を「59件」と集計しており、ほぼ毎年死亡事故が確認され、死亡・重傷に至る割合が高いことが指摘されています。

敬老の日は、内閣府の国民の祝日法の解説によれば「多年にわたり社会をつくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」日です。2026年は9月21日(月)。9月22日は祝日に挟まれた休日となり、9月23日の秋分の日まで、家族が高齢者と過ごす機会が多くなる連休期間が続きます。

「うちの親が使っている電動車いす、大丈夫?」——そう不安を感じた方も多いのではないでしょうか。本記事では、①事故の実態と統計、②転落事故が起きるメカニズム、③安全基準と選び方、④家族が今日からできる安全チェックリストの順に、公的資料に基づいて解説します。読み終える頃には、敬老の日に家族で「何をすればいいか」が具体的にわかるはずです。

事故の実態と統計——側溝・用水路への「転落」が最多、約8割は製品不具合以外

まず数値を正確に押さえておきましょう。2026年9月20日のNHK報道(出典1)によると、電動車いすが用水路や側溝などに転落し、乗っていた高齢者が死亡する事故は、過去10年間(2016〜2025年)で34件に上ります。一方、NITE(製品評価技術基盤機構)が9月17日に発表した資料(出典2)では、同期間に通知された電動車いす関連の事故全体を59件と集計しています。「34件」は死亡事故(NHK報道)、「59件」は事故全体(NITE集計)という、出典と数え方の異なる数字で、母集団や集計基準も異なるため単純な比較はできません。本記事の数値は、それぞれの出典に基づいて区別して扱います。

NITEの集計は、消費生活用製品安全法に基づき報告された重大製品事故に、事故情報収集制度による非重大事故を加えたものです。電動車いす59件の事象内容別の内訳は次のとおりです(出典2)。

事故内容 件数
側溝や川などに転落 26件
踏切で電車と接触 13件
下り坂や段差などで転倒 11件
火災 7件
その他 2件
総計 59件

最多は側溝や川などへの「転落」の26件で、全体の4割強を占めます。次いで踏切での電車との接触が13件と多く、NITEは事故が死亡・重傷に至る割合が高いこと、ほぼ毎年死亡事故が確認されていることを指摘しています(出典2)。

原因をみると、電動車いすの事故の約8割は「製品の不具合以外による事故」で、誤使用・不注意(またはその疑い)が半数以上を占めます(出典2)。つまり機器そのものの欠陥よりも、使い方と環境の要因が占める割合が大きいのが、この事故の特徴であり、NITEが使用環境・使用方法の確認を呼びかける根拠になっています。

死亡事例からも、公表されている事実の範囲でその傾向が見えてきます。2024年4月には愛媛県で80代の男性が電動車いすとともに水路で発見され、死亡が確認されました。車両に異常は認められず、誤った操作や不注意が疑われるとされています(出典2)。2021年12月には大阪府で60代の男性が、踏切を渡り終える直前に遮断機に引っかかって転倒し、列車とはねられて死亡しました。この製品の取扱説明書には「踏切の横断はできるだけ避ける」旨の注意が記載されていました(出典2)。また2021年には滋賀県で70代の男性がハンドル形電動車いすごと水路で発見され、死亡する事故が、消費者庁の重大製品事故として公表されています(出典8)。

なお、NITE資料でいう「高齢者」は65歳以上(内閣府・高齢社会白書の定義)です。統計の実態を押さえたうえで、次は転落・転倒がなぜ起きるのか、そのメカニズムを3つの要因から見ていきます。

なぜ転落事故は起きる?——3つの要因が重なるメカニズム

NITE(製品評価技術基盤機構)が2016〜2025年の10年間に収集した電動車いす関連事故59件の分析からは、転落・転倒の背景に「道路環境」「車両・装備」「使用者・運用」の3要因が重なる実態が見えてきます(出典2)。

要因A:道路環境。 NITEが「危険箇所」として挙げるのは、ガードレールのない崖、蓋のない側溝や水路、踏切、横断に時間のかかる広い道路、信号のない交差点、急な坂道です。脱輪の典型は「踏切内の砂利部」と「側溝」。車体幅は型式認定基準で70cm以下と小型でも(出典6)、道の端や砂利ではわずかな段差で車輪が取られます。

要因B:車両・装備。 バッテリー残量不足は「途中で動けなくなる」だけでなく、最悪は「踏切内で停止し電車と接触」(出典2)につながります。転倒防止バー等の転倒防止装置が正常に働かなければ、坂道や段差の転倒を防げません。ハンドルやアクセルレバーの緩み、タイヤの亀裂、電源プラグ・コード・バッテリー関連の火災(59件中7件・出典2)も車両側のリスクです。

要因C:使用者・運用。 NITEは「加齢に伴う認知機能や身体機能の変化」が思わぬ事故につながると指摘します。反応の遅れや判断ミスが、危険箇所への進入や操作ミスを招く構図です。実際、電動車いすの事故の約8割は「製品の不具合以外」(誤使用・不注意またはその疑いが半数以上・出典2)です。

操作系の車種別特性も押さえておきましょう。自操用標準形のジョイスティックは「棒を離すと中立位置に戻り、自動的に停止する」構造です(出典6)。一方、足腰の弱った高齢者に多いハンドル形はハンドル操作が基本で、NITEの事故映像にはハンドル型・ジョイスティック型双方の踏切事故が記録されています(出典2)。

3つの要因の重なりを、図に整理しました。

flowchart TD
    A[電動車いすでの外出] --> B{道路環境に危険箇所がある?}
    B -->|側溝・水路・崖| C[脱輪・転落]
    B -->|踏切| D[砂利部で脱輪/遮断機に接触]
    B -->|広い道路・信号なし交差点| E[横断中の接触]
    B -->|急な坂道| F[転倒・後方への転倒]
    A --> G{車両の状態}
    G -->|バッテリー残量不足| H[踏切内で停止→電車と接触]
    G -->|転倒防止装置の不具合| F
    G -->|ハンドル・レバーの緩み<br>タイヤの亀裂| I[操作不能・故障]
    A --> J{使用者の状態}
    J -->|加齢による認知・身体機能の変化| K[危険箇所への進入・操作ミス]
    C & D & E & F & H & I & K --> L[死亡・重傷につながる重大事故<br>※電動車いすの事故59件中 約8割は製品不具合以外]

図のとおり、事故は単一の原因ではなく、「危険な場所」「整っていない車両」「変化する身体」が出会った瞬間に起きます。約8割が製品不具合以外という統計が示すのは、事故の要因が使用環境と使用方法に集中しているということです。NITEはこの前提から、危険箇所を避けるルート選び、乗車前の点検、家族や介助者による見守りを呼びかけています(出典2・出典4)。具体的な方法は後ほどのチェックリストにまとめました。

安全基準と選び方——「型式認定基準」とJIS適合を確認する

電動車いすを歩行者として通行するには、道路交通法の下で「原動機を用いる身体障害者用の車」の型式認定基準への適合が条件です。電動車いす安全普及協会が示す基準(出典6)は、①長さ120cm以下・幅70cm以下・高さ120cm以下(ヘッドサポートを除く)、②6km/hを超える速度を出せない、③原動機は電動機のみ、④鋭利な突出部がない、⑤自動車・原付と識別できる外観(車室なし等)です。購入・レンタル時にまず確認しましょう。

次に確認したいのはJIS規格への適合です。NITEは「JIS規格に適合した製品を使用する」ことを推奨しています(出典2)。カタログや取扱説明書のJIS適合表示を確かめ、規格の内容は日本産業標準調査会(JISC)のJISデータベース(出典12)で確認してください。あわせてNITEの事故情報検索サイト「SAFE-Lite」(出典5)で製品名を検索し、事故・リコール情報の有無を確認しておくと安心です。

タイプ別の選び方の目安は下表のとおりです(出典2・出典6を基に作成)。

タイプ 操作方法 主な利用者 選ぶ際のポイント
自操用標準形 ジョイスティックレバー(離すと中立に戻り自動停止) 主に身体障害者 レバー位置の調整幅を確認し、試乗で操作感を確かめる
自操用ハンドル形 ハンドルとアクセルレバー 主に足腰の弱った高齢者 転倒防止装置の作動と坂道での安定性を確認
自操用簡易形 手動車いすに取り付けた電動ユニットで操作 日常的に手動車いすを使う人 取り付ける車いすとの適合性やユニット重量を確認
介助用 介助者が後方のハンドル等で操作 自力操作が難しい利用者とその介助者 ブレーキや速度制御の効きを介助者と一緒に確認

費用面では公的助成が利用できる場合があります。介護保険の福祉用具貸与(レンタル)、障害者自立支援法・児童福祉法の補装具給付・修理などです(出典7)。対象者や給付の可否は自治体・障害区分・製品区分によって異なるため、自治体窓口や福祉用具専門相談員で確認しましょう。

選び方は3点セットです。①型式認定基準への適合、②JIS規格への適合の確認(JISCデータベースで照合)、③取扱説明書に踏切の横断を避ける旨など安全上の注意記述があるか。NITE集計では2016〜2025年の電動車いすの事故59件の約8割が製品の不具合以外でした(出典2)。「安全な製品を、使い方まで含めて選ぶ」こと自体が事故防止の第一歩です。

家族が今日からできる安全チェックリスト——乗車前5項目×ルート確認×定期点検

NITEの集計では、電動車いすの事故の約8割が「製品の不具合以外」(誤使用・不注意等が半数以上)によるものです。NITEは「事前確認・乗車前点検・定期点検を使用者と家族・介助者が一緒に行うことが事故防止につながる」と呼びかけており(出典2)、本記事ではその注意喚起の内容を「今日/週末/初めての走行時/継続」の4層のチェックリストに整理しました。

今日やること——乗車前チェック5項目(NITEの注意喚起を基に整理)

  • [ ] バッテリー残量の確認(不足は踏切内での停止・電車との接触につながる)
  • [ ] 転倒防止装置の確認(転倒防止バーなどが正常に機能するか)
  • [ ] ハンドル・アクセルレバーの緩み確認
  • [ ] タイヤの亀裂確認
  • [ ] 取扱説明書の再確認(踏切横断を「できるだけ避ける」等の注意文を見直す)

週末にやること——走行ルートの危険箇所マップ化

よく通る道を一緒に歩き、NITEが「近づかず避ける」と挙げる危険箇所を地図化して、安全なルートを決めましょう(出典2)。

  • [ ] ガードレールのない崖・蓋のない側溝・水路はないか
  • [ ] 踏切を経由しないルートにできるか
  • [ ] 横断に時間のかかる広い道路・信号のない交差点を避けられているか
  • [ ] 転倒や衝突のおそれのある急な坂道はないか

やむを得ず通るときは、脱輪防止のため踏切や道の端を走行しない(出典2)。

初めて道路に出るとき・調子が変わったサインがあるとき

初めての走行時は、家族や介助者と走行練習・交通ルール・安全な通行順路の確認を一緒に。NITEは加齢による認知・身体機能の変化も要因と指摘しており(出典2)、反応の遅れや接触の増加があれば練習し直すタイミングです。

継続してやること——定期点検

  • [ ] 取扱店などで定期的に専門点検を受ける(項目・時期は取扱説明書やメーカーHPで確認)
  • [ ] 不具合を放置しない(不具合のある状態での使用はけがや車いすの損傷の原因に)

なお、このチェックリストは家族が行う日頃の確認であって、専門点検の代替ではありません。ブレーキや電気系統などに異常を感じたら使用を中止し、取扱店やメーカーに相談してください。

さらに学ぶなら、電動車いす安全普及協会「電動車いす安全利用の手引き」(出典8)やテクノエイド協会「福祉用具ヒヤリハット事例集」(出典9)が役立ちます。敬老の日を機に、ご家族でこのリストを回してみてください。

よくある質問(FAQ)——5問で答える

Q: 電動車いすの事故はどのくらい起きていますか?

NHK報道(2026年9月20日)では、死亡事故は過去10年間(2016〜2025年)で34件と報じられています。NITEの集計では、同期間の事故全体は59件で、側溝や川への転落26件・踏切での電車との接触13件・転倒11件・火災7件など、約8割が製品の不具合以外によるものでした。詳しくは「事故の実態と統計」の節を参照してください。

Q: なぜ側溝や用水路に転落しやすいのですか?

型式認定基準で幅70cm以下とされる車体が、蓋のない側溝や水路の縁で脱輪しやすい構造的事情に加え、危険箇所の事前確認不足や加齢による反応・判断の変化が重なるためと、NITEは分析しています。NITEは側溝・水路・崖・踏切・急坂などの危険箇所を「近づかず避ける」よう指定しています。詳しくは「なぜ転落事故は起きる?」の節を参照してください。

Q: 家族が今日すぐできることは何ですか?

乗車前の5項目チェック(バッテリー残量/転倒防止装置の機能/ハンドルやアクセルレバーの緩み/タイヤの亀裂/取扱説明書の再確認)と、走行ルートの危険箇所確認です。いずれもNITEの注意喚起に基づく点検項目です。詳しくは「家族が今日からできる安全チェックリスト」の節を参照してください。

Q: 定期点検は必要ですか? どこで受けられますか?

必要です。NITEは取扱店などでの定期的な専門点検を推奨しています。点検項目や時期は製品ごとに異なるため、取扱説明書やメーカー公式サイトで確認しましょう。不具合のあるまま使い続けると、けがや車いす本体の損傷につながります。詳しくは「家族が今日からできる安全チェックリスト」の節を参照してください。

Q: 電動車いすの購入に公的支援はありますか?

制度上は利用できる場合があります。介護保険制度による福祉用具の貸与(レンタル)のほか、障害者自立支援法や児童福祉法による補装具の給付・修理などの制度があります(電動車いす安全普及協会)。対象者や給付の可否は自治体・区分により異なるため、自治体の窓口で確認しましょう。詳しくは「安全基準と選び方」の節を参照してください。

まとめ——次にやるべき3つのアクション

NITEの集計では、電動車いすの事故の約8割が「製品の不具合以外」によるものです。このためNITEは、機械を疑う前に、使い方と環境の確認を家族や介助者と一緒に行うことを呼びかけています。今日から、次の3つのアクションを順に実行してください。

  1. 今日、乗車前チェック5項目を一緒にやる バッテリー残量・転倒防止装置・ハンドルとアクセルレバーの緩み・タイヤの亀裂・取扱説明書(特に踏切に関する注意文)の5点を、ご本人と家族で確認します。NITEが呼びかける毎日の確認の習慣です。
  2. この週末に走行ルートを下見して危険箇所リストを作る ガードレールのない崖・蓋のない側溝・水路・踏切・横断に時間のかかる広い道路・信号のない交差点・急な坂道を避けた経路を設定し、やむを得ない場所は「踏切や道の端を走行しない」を徹底します。
  3. 取扱店・自治体窓口に定期点検と公的制度を相談する 取扱店での定期点検の項目と時期を確認するとともに、介護保険の福祉用具貸与や障害者自立支援法などの補装具給付など、費用面の公的支援についても、対象者の条件を窓口で確認しましょう。

数字をもう一度整理します。過去10年間(2016〜2025年)の死亡事故は34件(NHK報道・出典1)。同期間の事故全体は59件で、うち約8割が製品不具合以外(NITE・出典2)——内訳は側溝や川などへの転落26件、踏切での電車との接触13件、転倒11件、火災7件、その他2件でした。

機械の異常よりも、使い方と環境の見直しに向き合うことがNITEの呼びかけの核心であり、だからこそ家族にできることはたくさんあります。9月21日の敬老の日に、花や贈り物と一緒に「安全」を届けてみませんか。それが、大切な人とこれからも外出を楽しむための、いちばん確かな贈り物になるはずです。

参考文献(出典一覧)

本記事の数値・事実は、以下の公的機関・業界団体・報道の資料に基づきます。

  1. NHKニュース「電動車いす 転落などで死亡事故10年間で34件 NITE注意呼びかけ」(2026年9月20日): https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20260920de51291
  2. NITE プレスリリース「敬老の日に願い、届ける、安全なくらし ~ほぼ毎年死亡事故が発生!介護ベッド・電動車いすなどの高齢者の事故を防ぐ~」(2026年9月17日): https://www.nite.go.jp/jiko/chuikanki/press/2026fy/prs260917.html
  3. NITE 発表資料PDF(全10ページ): https://www.nite.go.jp/data/000162418.pdf
  4. NITE ポスター「電動車いすの『安全運転』」PDF: https://www.nite.go.jp/data/000162383.pdf
  5. NITE 事故情報検索サイト「SAFE-Lite」: https://safe-lite.nite.go.jp/
  6. 電動車いす安全普及協会「型式認定基準(標準仕様・様式)」: https://www.den-ankyo.org/guidance/standard.html
  7. 電動車いす安全普及協会「公的助成制度について」: https://www.den-ankyo.org/guidance/system.html
  8. 電動車いす安全普及協会「電動車いす安全利用の手引き」: https://www.den-ankyo.org/guidance/safety.html
  9. テクノエイド協会「福祉用具ヒヤリハット事例集」: https://www.techno-aids.or.jp/hiyari/
  10. テクノエイド協会(消費者庁公表の重大製品事故をもとにしたリストの転載): https://www.techno-aids.or.jp/news/doc/080907jikojouhou.pdf
  11. 内閣府「国民の祝日について」: https://www8.cao.go.jp/chosei/shukujitsu/gaiyou.html
  12. 日本産業標準調査会(JISC)JISデータベース: https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrJISSearch.html

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