GPT-6がCOBOL移行で97.9%、AIは「2025年の崖」を救えるか
OpenAIのGPT-6シリーズがCOBOLやFortranなどレガシー言語で急伸。COBOL移行の正答率は5.4%から86.6%、高推論で97.9%に。基幹系刷新と「2025年の崖」への意味と残る課題を整理します。
GPT-6がCOBOL移行で97.9%、AIは「2025年の崖」を救えるか
OpenAIは米国時間2026年10月19日、COBOL、Fortran、Visual Basicといった「レガシー言語」で、自社のGPT-6シリーズのコード生成・移行能力が大きく向上したと発表しました。COBOLのプログラムを現代の言語に書き換える同社の評価では、前世代のGPT-5.6 Solの正答率が5.4%だったのに対し、9月29日公開のGPT-6.1 Solは同じ低い推論設定で86.6%、推論量を上げると97.9%に達したといいます。
COBOLは今も銀行の勘定系や行政システムの土台として動いています。一方で書ける技術者は年々減っており、日本では経済産業省が「2025年の崖」として警告してきた問題の中心にあります。「AIが一番苦手だった言語」で何が起きたのか、そして本番の基幹システムを任せられる段階なのかを整理します。
この記事のポイントは次のとおりです。
- COBOL移行評価で、GPT-6.1 Solは86.6%(低推論)〜97.9%(高推論)。GPT-5.6 Solは5.4%で、APIコストは約39%下がった
- 20言語でSQLite互換DBをゼロから作るMultiLangBenchでは、GPT-6 Astraの平均通過率が26.8%→87.4%に。ただしCOBOLは72.1%で、依然として最難関
- 評価は出力の「バイト単位一致」で判定。表に出にくい計算誤りを見逃さない設計になっている
- OpenAI自身、本番適用には専門家のレビューと業務ルールに照らしたテストが必要としている
背景:なぜCOBOLはAIの「苦手科目」だったのか
社会の基盤なのに、学習データが少ない
COBOLは1959年に生まれた事務処理向けの言語です。OpenAIが紹介したIBMの数字によると、COBOLは今もオンラインバンキングシステムの40%超、ATM取引の95%を支えています。Fortranは気象予報や原子炉の安全解析などで使われています。
ところが、PythonやJavaScriptに比べると、インターネット上に公開されたコードや解説が圧倒的に少ないのが現実です。OpenAIはこうした言語を「低リソース言語」と呼び、学習材料が乏しいためにコーディングAIが苦手としてきた分野だと説明しています。開発者や企業の顧客から「この種の言語に弱い」という声が寄せられていたことも、今回の取り組みの理由に挙げています。
「動くけれど間違っている」コード
COBOLが難しいのは、データが少ないからだけではありません。AIコーディング企業のFactoryが2026年4月に公開した評価「Legacy-Bench」は、COBOLの誤りが表に出にくい点を指摘しました。桁の定義や控除額の計算を間違えても、コンパイルも実行も通り、出力はもっともらしく見えてしまいます。
Legacy-Benchでは、失敗したケースの97%で、AIエージェントは自分が課題を解けたと思い込んでいました。どのモデルも解けなかった44のタスクのうち31がCOBOLだったとも報告されています。Javaのようにエラーがスタックトレースで見える言語では試行錯誤が効きますが、誤りが静かに潜むCOBOLではそれが効きにくいという分析です。
日本の「2025年の崖」
日本でもこの問題は重く受け止められてきました。経済産業省はDXレポートで、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したシステムを放置すると、2025年以降に最大で年12兆円の経済損失が生じかねないと警告しました。これが「2025年の崖」です。2026年の今も崖は解消されておらず、COBOLの基幹システムを抱える企業では、ベテラン技術者の引退と仕様のブラックボックス化が同時に進んでいます。
OpenAIが示した2つの評価
今回の発表で、OpenAIは性質の違う2つの評価を用意しました。「新しいソフトを作る力」と「既存ソフトの振る舞いを守る力」を、それぞれ測るものです。
COBOL移行評価:バイト単位で一致させる
1つ目は、既存のCOBOLプログラムをC++、Java、Kotlin、Python、Rustのいずれかに書き換えさせる評価です。採点には隠しテストを使い、書き換えたプログラムの観測可能な出力が元のプログラムとバイト単位で一致するかを確かめます。テストを1つでも落とせば失敗です。
| モデル | 設定 | 正答率 |
|---|---|---|
| GPT-5.6 Sol | 低推論 | 5.4% |
| GPT-6.1 Sol | 低推論 | 86.6% |
| GPT-6.1 Sol | 高推論 | 97.9% |
GPT-6.1 Solは、低推論の設定でGPT-5.6 SolよりAPIコストが約39%安く(61%の水準)、それでいて正答率は16倍になりました。97.9%について、OpenAIは評価がほぼ飽和する水準だとしています。
OpenAIが具体例に挙げたのが、COBOLの固定小数点演算です。COBOLは丸めを指定しない限り、余分な小数桁を切り捨てます。書き換えたプログラムが「親切に」四捨五入してしまうと、エラーなく動くのに金額の計算結果だけがずれます。バイト単位一致という厳しい採点は、まさにこの落とし穴を見逃さないための仕組みです。
MultiLangBench:20言語でSQLiteを作り直す
2つ目のMultiLangBenchは、SQLite互換のデータベースエンジンを、指定した言語でゼロから作らせる評価です。SQLite自身のテストを変換した試験で通過率を測ります。評価環境とテスト一式はGitHubで公開されており、他社のモデルとも比べられるようになっています。
| 言語 | GPT-5.6 Sol | GPT-6 Astra |
|---|---|---|
| 20言語平均 | 26.8% | 87.4% |
| COBOL | 10.9% | 72.1% |
| Fortran | 21.4% | 83.5% |
| Visual Basic | 27.5% | 89.4% |
最上位のGPT-6 Astraは、テストしたすべての言語で前世代を上回りました。一方で、通過率が83%に届かなかったのはCOBOLだけです。既存コードを移すより、COBOLで新しいものを一から書くほうが、なお難しいことがうかがえます。軽量版のGPT-6 Lunaも平均40.3%と前世代を上回り、推定APIコストは1サンプル約0.77ドルと、GPT-5.6 Solの約3.48ドルより約78%安くなりました。
何が変わり、何が変わらないのか
移行プロジェクトのコスト構造が変わる可能性
レガシー刷新でいちばん重いのは、コードにしか残っていない業務ルールを読み解き、同じ振る舞いを新しい言語で再現する作業です。ここをAIが9割前後こなせるなら、人間はAIの出力を検証し、例外的なケースに集中する役割へ移れます。
この分野ではすでに競争が始まっています。IBMは2023年10月にCOBOLをJavaへ変換する「watsonx Code Assistant for Z」を提供し始めました。Anthropicも2026年2月、Claude Codeを使えばCOBOLの刷新期間を年単位から四半期単位に縮められると主張しています。今回のOpenAIの発表は、汎用モデルそのものの底上げで勝負に出た形です。
それでも「人のレビュー」は外せない
ただし、数字の読み方には注意が必要です。97.9%は裏を返せば、約50本に1本は振る舞いが変わるということです。勘定系システムでは、それは許容できません。OpenAI自身も、本番システムへの適用には専門家のレビューと、業務ルールや依存関係に照らしたテストが欠かせないとしています。
また、今回の評価はOpenAIが自社で設計したものです。実際の基幹システムは、COBOLの周りにJCL(ジョブ制御言語)、データベース定義、帳票、他システムとのファイル連携などが絡み合っています。単体のプログラム移行で高得点を出しても、システム全体の移行がそのまま進むとは限りません。OpenAIは低リソース言語に向けてどんな学習をしたかも具体的には明かしていません。
押さえておきたい論点
- 検証の担い手:AIの出力を正しく評価できるCOBOL技術者が減っている。AIを使うほど「確かめる人」の価値が上がる
- テストの整備:バイト単位一致のような厳密なテストを用意できるかが、移行の成否を分ける
- 機密性:勘定系のソースコードを外部のAIサービスに渡すことへの、ガバナンスやセキュリティ上の判断が必要
影響・今後:基幹系刷新への追い風
金融機関や自治体、製造業の基幹系を抱える日本企業にとって、今回の発表は「刷新を後回しにする理由」を一つ減らすものです。これまでレガシー移行は、数年単位の期間と大きな費用がかかるうえ、失敗のリスクも高いとされてきました。AIが移行作業の大部分を担えるようになれば、段階的な移行の計画を立てやすくなります。
一方で、AIが書き換えたコードをそのまま本番に出すような使い方をすれば、表に出にくい計算誤りを大量に抱え込むおそれがあります。現実的な使い方は、AIで移行の下書きを作り、旧システムと新システムを並行稼働させて出力を突き合わせ、人間が差分を確認するという流れでしょう。
今後の注目点は、MultiLangBenchのような公開評価で、Anthropic、Google、DeepSeekなど他社のモデルがどこまで迫るかです。評価が公開されたことで、レガシー言語への対応力は各社が競う新しい指標になりそうです。
よくある質問
GPT-6はCOBOLをどのくらい正確に書き換えられるのですか?
OpenAIの評価では、GPT-6.1 SolはCOBOLプログラムをC++やJava、Pythonなどに書き換える課題で、低推論設定で86.6%、高推論設定で97.9%の正答率でした。前世代のGPT-5.6 Solは同じ低推論設定で5.4%でした。
この正答率はどのように測られたのですか?
書き換えたプログラムに隠しテストを実行し、観測可能な出力が元のCOBOLプログラムとバイト単位で一致するかを確かめています。テストを1つでも落とすと失敗と判定される、厳しい採点方式です。
AIに任せれば銀行の基幹システムをすぐ移行できますか?
すぐにはできません。OpenAI自身が、本番システムへの適用には専門家のレビューと、業務ルールや依存関係に照らしたテストが必要だとしています。実際の基幹系はCOBOL以外のジョブ制御やデータ定義とも絡んでおり、単体の評価結果だけでは判断できません。
なぜCOBOLはAIにとって難しいのですか?
公開されているコードや資料が少なく、学習材料が乏しいためです。加えて、計算の誤りがあってもコンパイルや実行は通り、出力がもっともらしく見えるため、誤りに気づきにくい性質があります。Factoryの評価では、失敗の97%でAIエージェントが解けたと思い込んでいました。
「2025年の崖」とは何ですか?
経済産業省がDXレポートで示した問題で、老朽化・ブラックボックス化したシステムを放置すると、2025年以降に最大で年12兆円の経済損失が生じかねないという警告です。COBOLを扱える技術者の減少は、その大きな要因の一つとされています。
まとめ
OpenAIのGPT-6シリーズは、AIが長く苦手としてきたCOBOLなどのレガシー言語で、前世代から大きく性能を伸ばしました。COBOL移行の正答率は5.4%から86.6%、高推論では97.9%に達し、コストも下がっています。熟練者が減る中で基幹系の刷新を迫られる日本企業にとって、AIは「2025年の崖」を越える現実的な道具になりつつあります。
それでも、残る数%の誤りが致命傷になりうるのが基幹システムです。AIで移行を速めつつ、厳密なテストと人のレビューで振る舞いを守る――この両輪をどう設計できるかが、これからのレガシー刷新の成否を分けそうです。
参考
参考ソース
- Advancing Coding in Low-Resource Programming Languages(OpenAI)
- COBOLやVBなど旧式言語でGPT-6急伸、正解率5%から最大98%とOpenAI発表(テクノエッジ)
- OpenAI reports 86.6% COBOL migration accuracy with GPT-6.1 Sol(SiliconReport)
- GPT-6.1 Sol Scores 97.9% On OpenAI's COBOL Test(Dataconomy)
- Legacy-Bench: Can AI Agents Maintain the World's Most Critical Software?(Factory)
- レガシーシステムとは?問題点と2025年の崖に向けた脱却方法(CREX)
- 「COBOL人材がいない」、基幹システムのレガシー継承に向けた模索が進む(@IT)