ホルムズ海峡封鎖が日本を直撃——エネルギー安全保障の「最悪のシナリオ」が現実に
2026年4月5日現在、世界の原油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡が、イランによって事実上封鎖されたままとなっている。原油の約93%を中東に依存する日本にとって、これは「対岸の火事」では済まない。エネルギー安全保障上の最悪のシナリオが現実のものとなった今、日本はどう動くのか。最新情報をまとめた。
背景:なぜホルムズ海峡は封鎖されたのか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾(アラビア湾)とオマーン湾をつなぐ幅わずか33〜96キロメートルの水路だ。世界の原油の約20%、LNG(液化天然ガス)の約20%、LPGの約29%がここを通過する。いわば「世界のエネルギーの咽喉部」だ。
2025年後半、米国とイスラエルによるイランへの軍事行動が激化。12日間の空爆を経て両者の緊張は臨界点に達した。イランはこれに対抗する形でホルムズ海峡を通過するタンカーへの攻撃を強化し、2026年3月以降、事実上の通航封鎖を実施している。
さらに2026年3月30日、イラン議会の国家安全保障委員会は、ホルムズ海峡に通行料を設定する法案を承認した。報道によれば、原油1バレルあたり少なくとも1ドル(約160円)を「友好国」の船舶に課しており、イランはこれで1日最大32億円規模の収益を得ているとも試算されている。
日本の現状:45隻が足止め、初のLNG船が4月4日に通過
日本への直接影響は深刻だ。ペルシャ湾内に停泊している日本関係船舶は45隻に上り、うち32隻がエネルギー関連。タンカー12隻には「日本の消費量10日分ほど」に相当する原油が積まれたまま足止めされているという。
こうした状況の中、4月4日、商船三井のLNG船がホルムズ海峡を通過したと報じられた。これは封鎖が始まって以来、日本関係の船舶による初の通過事例だ。通行料を支払った可能性も報じられており、「封鎖に応じない」という原則論と「エネルギー確保」という現実論の間で、各国は難しい判断を迫られている。
一方、経済産業省・資源エネルギー庁は、現時点で電力・ガス会社が保有するLNG在庫は約400万トン弱(ホルムズ経由のLNG輸入量の約1年分相当)であると発表。加えて政府は5月に追加の石油備蓄放出を検討しており、当面の供給危機を乗り越える体制を整えつつある。また、ホルムズ海峡を経由しない代替ルートで調達した原油が5月以降に日本へ到着する見込みであることも、経済産業省が明らかにしている。
国際社会の動き:40か国以上が声明、日本は「安全な海上回廊」を提案
4月2日、日本を含む40か国以上の外相がオンライン会合を実施し、ホルムズ海峡の早期通航再開を求める議長声明を発表した。日本からは茂木敏充外相が参加し、事態の早期沈静化と、日本が提案する「安全な海上回廊」の設置について各国に協力を呼びかけた。封鎖が続く場合はイランへの制裁も選択肢に含まれるという。
一方、トランプ米大統領は「ホルムズ海峡から石油を調達する国々は、自前で航路を確保しなければならない」と演説。アメリカ主導の護衛体制に頼らない姿勢を示しつつ、イランの油田・発電施設・淡水化プラントを攻撃するとも警告するなど、発言は流動的だ。
原油価格はブレント原油が一時113ドルを超える水準まで高騰。ゴールドマン・サックスは最悪のシナリオで1バレル150ドル超のリスクを示唆しており、市場は先行き不透明感を強めている。
日本経済・生活への影響:物価高騰、食料問題、産業への波及
エネルギー価格の上昇は、日本の家庭・産業に幅広く波及する。電気代・ガス代は2026年前半から上昇基調が続いており、ガソリン価格の高止まりも物流コストを押し上げている。
さらに見落とされがちな問題が「肥料不足」だ。ホルムズ海峡は肥料の原料となるアンモニアや尿素の主要な輸送ルートでもある。朝日新聞などによれば、海峡封鎖によって肥料の供給不足が生じており、アジア全体で食料価格の上昇懸念が広がっている。原油高は食料安全保障の問題とも直結しているのだ。
医療分野にも影響は及ぶ。朝日新聞の社説では、医療用資材(プラスチック製品など)の多くが石油由来であり、「命をつなぐ」医療材料の不足リスクについても備えが必要だと訴えている。
今後の展望:「長期化」を前提に動き出した日本
現状、イランに海峡開放の意思は見えない。日本政府はすでに「長期化」を前提とした動きを加速させている。代替ルートによる原油調達の拡大、戦略備蓄の追加放出、そして国際的な外交チャンネルの活用——これらを並行して進めることが求められる。
NHKが伝えるように、日銀も中東情勢による輸入コスト上昇が物価を押し上げる局面を意識し始めており、金融政策の判断にも影響が生じる可能性がある。
エネルギー資源をほぼ全量輸入に頼る日本にとって、ホルムズ海峡の安定は「外交上の優先事項」である以上に、国民生活の根幹に関わる問題だ。政府の迅速かつ現実的な対応が、これまで以上に問われている。
まとめ
ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は現実のものとなった。商船三井LNG船の通過が示すように、民間ベースでの突破口が開かれつつある一方、外交・備蓄・代替ルートという三本柱で日本政府は対応を進めている。原油価格の高騰、物価上昇、食料・医療資材不足——影響は多岐にわたるが、今こそ日本のエネルギー安全保障のあり方を根本から問い直す機会でもある。
参考ソース
- 資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」(2026年4月)
- BBC日本語「ホルムズ封鎖による世界的な影響、サウジの別ルートにも不安」(2026年4月)
- 朝日新聞「ホルムズ海峡の通過、独自に動き出す各国」(2026年4月)
- 朝日新聞「ホルムズ海峡閉鎖で肥料が不足 アジアなど食料価格の上昇に懸念」(2026年4月)
- TBS NEWS DIG「イギリスや日本を含む40か国以上による議長声明を発表」(2026年4月)
- 毎日新聞「イランの収益は1日32億円? ホルムズ海峡『通航料』の仕組み」(2026年4月4日)
- Japan Times「Oil bypassing Strait of Hormuz set to arrive in Japan from May」(2026年4月4日)
- The Mainichi「Japan mulls additional oil release in May amid prolonged Mideast conflict」(2026年3月31日)
- global-scm.com「ホルムズ海峡危機:情勢と実務リスク」(2026年4月4日更新)
- 貿易ドットコム「【2026年最新】ホルムズ海峡封鎖が日本に与える影響とは?」(2026年4月)