イラン、ホルムズ海峡を再封鎖 ― 米軍再攻撃で停戦崩壊、日本の原油輸入への影響

2026年7月12日未明(現地時間)、イランの精鋭軍事組織「イスラム革命防衛隊(IRGC)」海軍が、世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の全面封鎖を再び宣言した。「いかなる船舶や軍艦の通航も認めない」とする声明の背景には、前日11日に米中央軍がイランへの攻撃を再開したという事実がある。わずか1カ月前に成立したばかりの停戦「イスラマバード覚書」は、事実上崩壊した格好だ。

世界の海上原油輸送量の約2割が通過するとされるこの海峡が再び緊張の舞台となったことで、原油価格やガソリン価格、ひいては日本の家計にまで影響が及びかねない事態が現実味を帯びている。石油の中東依存度が約93%と突出して高い日本にとって、この海域の動向は決して「遠い中東の出来事」では済まされない。本稿では、今回の再封鎖宣言に至る経緯と、日本の暮らしに及ぶ影響、今後の見通しを整理する。

背景 ― 2月の軍事衝突から6月の停戦合意まで

事の発端は2026年2月末にさかのぼる。米国とイスラエルによるイランへの軍事作戦が開始され、イランの前最高指導者ハメネイ師が死亡したと伝えられるなど、中東情勢は一気に緊迫化した。この軍事衝突の余波でホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥り、原油価格(ブレント原油)は一時1バレル120ドル近くまで急騰。欧州の天然ガス指標TTFも大きく跳ね上がるなど、世界経済への打撃は深刻だった。

その後、ハメネイ師の後継として次男とされるモジタバ師が最高指導者に就いたと報じられる一方、米国とイランの間では水面下の交渉が続けられた。そして2026年6月、両国はついに戦闘終結に向けた「イスラマバード覚書」に署名。トランプ大統領は「ホルムズ海峡の通航料なしの全面開放と、米軍による封鎖の即時解除を承認する」とSNSで発表し、市場は安堵ムードに包まれた。

もっとも、この停戦は最初から盤石ではなかった。覚書ではホルムズ海峡の封鎖を30日以内に解除するとされていたが、60日後に予定されていた通行料を巡る取り決めが新たな火種として残されており、当事国であるはずのイスラエルはこの合意から事実上外れる形となり孤立していたと指摘されている。専門家の間では、この「積み残された論点」がいずれ再燃するリスクが早くから懸念されていた。

何が起きたのか ― 7月11日〜12日の攻防

直近の異変は7月10日に兆しが見えていた。国土交通相は同日の記者会見で、ペルシャ湾内に留まっていた日本関係船舶22隻が7〜9日にかけてホルムズ海峡を通過したと明らかにしている。停戦後の安定を見極めながら、通航を再開する動きが進んでいた矢先だった。

事態が急変したのは7月11日。イラン軍がホルムズ海峡を通航中の民間船・コンテナ船を攻撃したとされ、これを受けて米中央軍はトランプ大統領の命令のもと、イランへの攻撃を再開したとX(旧ツイッター)への投稿で明らかにした。米国側は、イラン側の船舶攻撃を「両国が署名した停戦の覚書への違反」と位置付けている。

これに対しイラン革命防衛隊は、「許可されていない航路」を通って海峡を通過しようとした船舶に対して警告射撃を行ったと説明。その上で、「外部勢力によるこの不法な干渉が危険な状況を引き起こしたことを踏まえ」、米国による地域への介入がやむまでホルムズ海峡を封鎖すると宣言した。報道によれば、米軍はイランの軍事施設への攻撃を続け、イラン側もクウェート、バーレーン、カタール、さらにはヨルダンの米軍施設にまで報復攻撃を及ぼしたとされ、2日連続での大規模な攻防に発展している。国際社会からは「中東がまた暴力の悪循環に陥った」との懸念の声も上がっている。

エネルギー安全保障への影響 ― 日本の暮らしへの跳ね返り

今回の再封鎖宣言が現実のものとなった場合、最も直接的な影響を受けるのがエネルギー価格だ。ホルムズ海峡はペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅の狭い海域で、世界の海上原油輸送量の約2割、LNGを含めればさらに大きな割合がここを通過する「大動脈」である。2月の衝突時にはこの一帯の混乱だけで原油価格(ブレント)が1バレル120ドル近くまで急騰し、欧州の天然ガス指標TTFも数日で7割超上昇するなど、エネルギー市場全体が動揺した実績がある。今回も同水準、あるいはそれ以上の価格変動が生じる可能性は否定できない。

とりわけ日本への影響は他国以上に大きいとみられる。日本の原油輸入における中東依存度は約93%に達しており、主要国の中でも突出して高い水準にある。加えて2025年の日本と中東の貿易統計を見ると、輸入額の実に9割以上を鉱物性燃料が占めており、この地域の物流が滞ること自体が日本経済に直接響く構造になっている。原油価格の上昇はガソリン価格や電気・都市ガス料金、さらには物流コストを通じて食品や日用品の価格にも波及し、家計を圧迫する構図が繰り返されることになる。実際、2月からの混乱局面でも、ガソリンや日用品の値上げが相次いだと報じられている。

一方で、今回はすでに一度この種の危機を経験した後だという点も見逃せない。3月以降、米国のシェールオイルなど中東を経由しない調達ルートの確保が進められ、6月時点でホルムズ海峡を通らずに輸入できた原油の量は、2025年の月平均と比べて約8割に達していたとの証言もある。トランプ政権はこの間、ホルムズ海峡を通航するタンカーを米海軍が護衛する方針を表明したほか、米政府系の国際開発金融公社(DFC)に対し、ペルシャ湾を通過する海上貿易向けに最大200億ドル規模の政治リスク保険枠を用意するよう指示したとも伝えられている。日本政府や石油元売り各社にとって、今回の再封鎖は「想定外の初体験」ではなく、「一度乗り越えた危機の再来」という側面もある。とはいえ、代替調達には限界があり、護衛や保険といった対症療法だけで長期の封鎖に耐えられるかは未知数で、事態が長引けば供給不安が再燃するリスクは残る。国内では、7月10日にようやくペルシャ湾から日本関係船舶22隻が同海峡を無事通過したばかりだっただけに、今回の再封鎖宣言は関係者に冷や水を浴びせる形となった。

国際社会の反応と仲介の模索

今回の攻防に対しては、当事国以外からも様々な反応が出ている。イラン側は今回の攻撃再開・海峡封鎖の理由について、米国のみならずイスラエルによる地域介入を問題視する立場を強調しており、6月の停戦交渉で当初から蚊帳の外に置かれていたとされるイスラエルとの間の温度差も浮き彫りになっている。NYT(ニューヨーク・タイムズ)は今回の応酬を「中東がまた暴力の悪循環に陥った」と評しており、国際世論の間でも懸念が広がっている。

一方で、対立の当事国以外による仲介の動きも並行して伝えられている。オマーンなどが仲介役となり、ホルムズ海峡の通航を巡る新たな監視の枠組み(監視委員会構想)を提案したとの報道もあり、偶発的な衝突を避けるための実務的な調整は水面下で続いているとみられる。またインドやアラブ首長国連邦(UAE)など周辺国の間では、今回の封鎖の長期化に備えたエネルギー供給網の多様化や、防衛面での連携強化を模索する動きも報じられている。中東情勢が一国・二国間の問題にとどまらず、周辺地域全体を巻き込む形で流動化している点は、今後の展開を占う上で見逃せない視点だ。

今後の見通し ― 出口はどこにあるのか

今回の事態が長期化するかどうかは、米国とイラン双方の政治的思惑に大きく左右される。過去の経緯を振り返ると、両国は繰り返し「攻撃の応酬」と「対話の模索」を行き来してきた。今回についても、事態のエスカレーションと並行して、第三国を交えた仲介案(オマーンなどによる海峡の監視委員会設置構想など)が模索されているとの報道もある。市場関係者の間では、当事国にとって全面戦争の継続には政治的・経済的合理性が乏しいとして、比較的早期に事態が収束するとの見方も根強い。

一方で、ハメネイ師の後継とされるモジタバ師が対米強硬派とされることや、イスラエルが今回の停戦の枠組みから事実上外れて孤立している構図を踏まえると、緊張が長引く、あるいは断続的に再燃するシナリオも十分に想定される。実際、専門家の間では「実際の正常化パスは不確実性が高い」との見方が繰り返し示されており、一時的な供給途絶の可能性も排除されていない。

日本にとっての論点は、目先の物価対策だけにとどまらない。今回のような危機が繰り返されるたびに、「中東依存からの脱却」や「原発再稼働を含むエネルギー自給率の向上」といった、より構造的な議論が再燃することになる。実際、過去の危機の際にも、化石燃料の中東依存という「前提」そのものを見直すべきだとする論調が識者の間で強まった経緯がある。今回の再封鎖も、短期的な価格変動への対応と同時に、日本のエネルギー政策そのものを問い直す契機となる可能性がある。

まとめ

イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡の再封鎖宣言と、米軍による攻撃再開は、わずか1カ月前に成立したばかりの停戦「イスラマバード覚書」が事実上崩壊したことを意味する。世界の原油輸送の要衝である同海峡の緊張は、原油の中東依存度が約93%に達する日本にとって、ガソリン価格や電気料金、物流コストを通じて生活に直結する問題だ。過去の危機を経て代替調達ルートの確保は一定程度進んでいるものの、今回の事態が長期化すれば、供給不安の再燃は避けられない。目先の市場動向を注視しつつ、エネルギー自給率や調達の多様化という中長期の課題にも改めて向き合う必要がありそうだ。

参考ソース

関連記事