10月1日から最低賃金が変わる――令和8年度・地域別最低賃金の改定内容と、働く人・事業者が今日から確認すべきこと
はじめに ― 10月1日、あなたの時給は変わるのか
「パートの時給、今年も上がるのかな」「会社から何も言ってこないけど、大丈夫?」――10月1日が近づくと、こんな不安を抱える方が少なくないのではないでしょうか。
令和8年度(2026年度)の地域別最低賃金の改正が、10月1日から順次発効します。国の中央最低賃金審議会は7月28日、全国一律で+54円という引き上げ目安を示しました。これまで4年連続で過去最大の引き上げ額を更新してきましたが、本年度はそのペースがはじめて一服した形です。神奈川県では1,225円から1,279円(+4.40%)への改正がすでに決定し、10月1日付での発効が公式に発表されています(厚生労働省神奈川労働局の2026年8月31日付発表による)。
本記事の情報は、2026年9月29日時点のものです。
しかし、会社が自主的に時給を見直してくれるとは限りません。最低賃金は「知らなかった」では済まされないルールで、改正を知らずに働き続ければ、受け取れるはずの賃金を手放すことになります。事業主側にも、対応を怠れば罰則のリスクが及ぶルールです。
本記事では、次の点を整理します。
- 今回の改定内容(全国一律の目安+54円、神奈川1,279円・10月1日発効)
- 現行の全国データ(加重平均1,121円、東京1,226円と最低県1,023円の格差203円)
- 働く人が今日からできる給与明細などの確認方法
- 事業者が発効日までに進めるべき対応
なお、神奈川以外の各県の令和8年度の確定額は、2026年9月29日時点で公表が一部に留まります(神奈川労働局・神奈川新聞の報道で確認できた範囲では、改正決定の公式発表は神奈川のみ)。本記事では確定情報と「見込み」を区別して示しますので、自分の県の数字を厚生労働省の公式一覧で確かめながら読み進めてください。
最低賃金とは何か ― 仕組みと今回の改正ポイント
最低賃金の定義と適用範囲 最低賃金は、都道府県ごとに時間額(時給)で定められる賃金の法定下限です。県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用され、雇用形態は問いません。正社員はもちろん、パートタイム・アルバイト、日雇い、試用期間中の人も対象です。「まだ試用期間だから」と思っている人こそ、確認が必要です。
地域別と特定(産業別)――2種類の最低賃金 最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。ニュースで取り上げられるのは主に地域別で、全都道府県に設定されています。一方、特定最低賃金は業種ごとに個別の額を定めるものです。特定最低賃金が設定された業種で働く場合は、地域別と特定の両方を満たす必要があり、高い方の額が賃金の下限になります。該当するかどうかは、都道府県労働局のサイトで確認できます。
労使合意でも下回る契約は無効 本人が同意していても、最低賃金を下回る賃金の約束は法律上無効です。この場合、最低賃金と同額の契約をしたものとみなされます。月給制や年俸制の人も、1ヶ月のみなし労働時間で時間額に換算して判定されるため、対象外ではありません。
今回の改正の決まり方 令和8年度の改正は、次のような流れで決まります。
graph TD;
A[中央最低賃金審議会<br/>7月28日に目安+54円を決定] --> B[都道府県の審議会で審議・答申];
B --> C[都道府県労働局長が改正決定<br/>官報で公示];
C --> D[発効 神奈川は10月1日];
D --> E[県内のすべての労働者・使用者に適用];
国の中央最低賃金審議会が7月28日に全国一律+54円という目安を示したのち、各都道府県の審議会が審議・答申し、都道府県労働局長が改正を決定して官報で公示します。神奈川県では県の審議会が8月4日に答申し、1,225円から54円引き上げた1,279円(+4.40%)となることが公式に決定、8月31日に官報公示され、10月1日に発効されます(神奈川労働局の発表および神奈川新聞の報道による)。
改正の背景――物価高・円安と1,500円目標の先送り 審議の背景にあるのは、物価高と円安です。企業物価が消費者物価を上回る状況が続き、使用者側は仕入れコスト上昇の転嫁停滞や中小企業の賃上げ余力の陰りを強調しました。労働者側は物価上昇下の生活防衛を重視しています。引き上げ額は2022年度+31円、2023年度+43円、2024年度+50円、2025年度+66円(全国加重平均ベース)と4年連続で過去最大を更新してきましたが、今回の目安+54円はこの流れが初めて一服する形です。加えて、政府が掲げる「全国平均1,500円」の目標は達成時期が「遅くとも2030年代前半のできる限り早期」へ先送りされており、今回の審議会では議論の対象になりませんでした(神奈川新聞による審議会長への取材報道として報じられています)。
都道府県別の最低賃金 ― 現行データで見る全国マップ
最低賃金は都道府県ごとに決まります。ここでは、厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度改定分・最新の確定データ)をもとに、全国の姿を独自の比較表で整理します。
現行の全国加重平均は1,121円(前年比+66円・6.3%増)。最も高いのは東京都の1,226円で、神奈川県が1,225円と僅差で続きます。一方、最も低いのは高知・宮崎・沖縄の3県で1,023円。最高の東京と最低県の差は203円にとどまり、地域間格差が縮小へ向かっていることが数字からも読み取れます。
現行データと令和8年度の見通し(独自比較表)
| 区分 | 都道府県 | 現行時給(令和7年度) | 令和8年度の見通し |
|---|---|---|---|
| 全国加重平均 | ― | 1,121円 | 1,121円+54円=1,175円前後の試算(確定値は未公表) |
| 最高 | 東京 | 1,226円 | 目安通りなら1,280円(確定値は未公表・要確認) |
| 最高 | 神奈川 | 1,225円 | 1,279円(公式確定済み・10月1日発効) |
| 都市部 | 大阪 | 1,177円 | +54円前後の見込み |
| 都市部 | 埼玉 | 1,141円 | +54円前後の見込み |
| 都市部 | 愛知 / 千葉 | 1,140円 | +54円前後の見込み |
| 最低 | 高知 / 宮崎 / 沖縄 | 1,023円 | 目安通りなら1,077円 |
※令和8年度の改正額を公式発表済みなのは、2026年9月29日時点で神奈川県のみです(1,225円→1,279円、+54円・+4.40%、10月1日発効)。表中の他県の見通しは、中央最低賃金審議会が示した全国一律+54円の目安に単純に沿った「見込み」であり、実際の額・発効日は各都道府県労働局の発表で必ず確認してください。
格差是正が進む ― 低い県ほど大きく引き上げ
注目したいのは、令和7年度の改定で「水準の低い県ほど大きく引き上げる」傾向が明確だった点です。引き上げ額は東京都が+63円だったのに対し、伸びが最も大きかった熊本県は+82円。青森+76円、岩手+79円、秋田+80円、大分+81円など地方県で大幅な引き上げが重なり、結果として東京と最低県の格差は203円まで縮まりました。数値の上では、地域間の水準差が縮小方向にあることが読み取れます。
注意 ― 発効日は県によってずれることがある
「10月1日から変わる」という本記事の趣旨には、実は一点注意が必要です。昨年度(令和7年度)は、栃木・長野・新潟が10月1日〜2日に発効した一方、東京は10月3日、神奈川は10月4日とずれ込み、秋田に至っては令和8年3月31日まで発効が遅れました。今年度も神奈川の10月1日発効は確定していますが、他県の発効日は都道府県審議会の進み具合により前後する可能性があります。
過去5年の引き上げ額の推移
| 年度 | 引き上げ額 | 備考 |
|---|---|---|
| 令和4年度(2022年度) | +31円 | 当時の過去最大 |
| 令和5年度(2023年度) | +43円 | 過去最大を更新 |
| 令和6年度(2024年度) | +50円 | 過去最大を更新 |
| 令和7年度(2025年度) | +66円 | 過去最大を更新(加重平均ベース。目安53円に低水準県の上乗せ) |
| 令和8年度(2026年度) | 目安+54円 | 4年ぶりに「過去最大」を更新しない見通し(神奈川は+54円で確定済み) |
令和4年度から4年連続で過去最大を更新してきた引き上げ額は、令和8年度ではじめて一服します。とはいえ目安の+54円は令和4年度の+31円の1.7倍超と依然高水準であり、賃上げの流れ自体が止まったわけではありません。
10月1日に向けて働く人が今日からできる確認ステップ
確認は特別な知識がなくても15分ほどで終わります。以下の5ステップを、今日中にチェックリストで進めてみてください。
STEP 1: 勤務地の都道府県を確認する
- [ ] 実際に働いている事業場(店舗・工場・事務所)のある都道府県を確認する
最低賃金は「勤務地の県」で決まります。本社の所在地ではありません。たとえば本社が東京でも、勤務する店舗が埼玉なら埼玉県の最低賃金が適用されます。
STEP 2: 自分の県の額を公式情報で確認する
- [ ] 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」で自県の額を確認する
- [ ] 勤務地の都道府県労働局のサイトで発効日を確認する
厚労省の全国一覧ページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html)に47都道府県の額が掲載されています。令和8年度の確定額は2026年9月29日時点で神奈川県(1,279円・10月1日発効)のみ公式発表済みで、他県は目安(全国一律+54円)ベースの見込みです。確定額と発効日は労働局サイトで最新情報を確認してください。
STEP 3: 給与明細と照合する
- [ ] 時給制の人: 明細の時給が新最低賃金以上か確認する
- [ ] 月給制の人: 月給÷1ヶ月のみなし労働時間で時間額に換算して比較する
月給制の換算例を示します。1ヶ月のみなし労働時間が160時間の場合、現行(令和7年度)の東京都1,226円であれば、1,226円×160時間=195,200円、つまり月額19.6万円弱以上が必要という判定になります。判定は税金や社会保険料を差し引く前の額で行ってください。ただしこれは簡易的な目安です。最低賃金の算定では、通勤手当など「労働の対償とされない一定の賃金」は算入から除かれるなど細かなルールがあります。正確な判定は、厚生労働省の公式Q&Aや労働局での確認をもとにしてください。
STEP 4: 勤務先に反映を確認する
- [ ] 発効日以降のシフト・給与で新しい額が適用されるか勤務先に確認する
問いかけの例文:「10月1日からの最低賃金の改定について確認したいのですが、私の時給も発効日に合わせて引き上げられる予定でしょうか。発効月の給与明細でも確認できればと思います。」
STEP 5: 未達なら相談窓口へ
- [ ] 引き上げられない・額が下回っている場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーへ相談する
労使合意があっても最低賃金を下回る契約は無効です。一人で抱え込まず、窓口で相談しましょう。
事業者側の対応と違反時の罰則 ― 社内で進めるべきこと
最低賃金の改正は、働く人にとっての収入増であると同時に、事業者にとっての対応期限でもあります。神奈川県では2026年10月1日の発効が官報公示(8月31日)で確定しており、発効日を過ぎて新最低賃金を下回る賃金で働かせた場合、たとえ過失であっても違法状態となります。対応は「発効日までに完了させるもの」と「発効日以降の運用を見直すもの」に分けて、段階的に進めるのが実務的なやり方です。
| 対応項目 | 具体的な内容 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 賃金台帳・時給の棚卸し | 全従業員の現行時給・月給を洗い出し、新最低賃金(神奈川は1,279円)未達の人を特定する | 発効日まで |
| 就業規則・雇用契約の変更と届出 | 時給・月給規定について改正の要否を確認し、必要な場合は改正のうえ労働基準監督署へ届出。雇用契約書の改定も併せて検討 | 発効日まで |
| シフト・手当の再設計 | 残業代・みなし労働時間の再計算、月給制の換算見直し、各種手当の扱い確認 | 発効日以降の運用 |
| 支援策の活用 | 業務改善助成金など中小企業の賃上げに使える助成金の検討。無料相談は神奈川働き方改革推進支援センター(0120-910-090) | 随時 |
違反した場合の罰則と「合意」の無効
最低賃金を下回る賃金設定は最低賃金法違反となり、制度上は50万円以下の罰金等の罰則が科される可能性があります。見落としがちなのは、従業員側が「今の賃金のままで構わない」と応じた場合でも、最低賃金を下回る労使合意は無効になるという点です。この場合、賃金は最低賃金額と同額とみなされ、遡って差額を支払わなければなりません。「うちの会社は合意があるから大丈夫」という言い訳は通用しないと理解しておきましょう。なお、個別の事案ごとの適用条件など法的な判断は、都道府県労働局等の窓口で確認してください。
中小企業の負担と物価転嫁の課題
今回の+54円という引き上げ目安は、直近4年連続で過去最大を更新してきた流れがはじめて一服した水準です。それでも審議会の議論では、使用者側が「仕入れコスト上昇の転嫁停滞」や「中小企業の賃上げ余力の陰り」を強調するなど、受け止めは厳しいものがありました。人件費の上昇を価格に転嫁しようにも顧客の理解を得にくい状況が続き、賃上げコストを経営者一人で抱え込む構図はなかなか解消しません。
こうした負担は、公的な支援策の活用で軽減できます。中小企業・小規模事業場の賃上げに使える業務改善助成金は、令和8年度版のリーフレットが神奈川労働局から公表されています。また、厚生労働省委託の神奈川働き方改革推進支援センター(電話0120-910-090・神奈川労働局の案内による、2026年9月29日時点の情報)では、労務管理の専門家が賃上げや業務改善について無料で相談に乗っています。他の都道府県でも各労働局が同様の窓口を案内しているので、悩んだらまず最寄りの労働局に問い合わせてみてください。
よくある質問(FAQ)
パートやアルバイトにも最低賃金は適用されますか?
はい、適用されます。地域別最低賃金は県内の事業場で働くすべての労働者と使用者に適用される制度で、正社員・パート・アルバイト・試用期間中の人も対象です。下回る労働条件は本人の合意があっても無効です。
月給制でも確認が必要ですか?(換算方法)
必要です。月給制・年俸制は「月収÷1ヶ月のみなし労働時間」で時間額に換算して判定します。例えば月160時間なら、東京都の現行額1,226円では月額195,200円以上が必要です。ただし通勤手当など対償とされない手当は算定から除かれるなど細かなルールがあるため、この計算は簡易な目安です。正確な判定は厚生労働省の公式Q&Aや労働局での確認をおすすめします。
会社が最低賃金に引き上げない場合はどうすればいいですか?
下回る賃金設定は最低賃金法違反で、50万円以下の罰金などの罰則があります。まず勤務先に引き上げを申し入れ、対応しなければ労働局の総合労働相談コーナーへ相談しましょう。労使合意での下回りも無効です。
発効日は都道府県によって違いますか?
違う可能性があります。令和8年度は神奈川県の10月1日発効が確定済みですが、県によりずれることは珍しくありません。令和7年度も東京は10月3日、神奈川は10月4日、秋田県は令和8年3月31日発効でした。自県の発効日は労働局で確認を。
残業代や通勤手当は最低賃金に含まれますか?
賃金のすべてが計算対象になるわけではありません。制度上、通勤手当や家族手当など労働の対償とされない一定の手当は算定から除かれます。一方、時間外労働の割増賃金(残業代)の扱いは支給形態により判断が難しい論点です。個別のケースは厚生労働省の公式Q&Aや労働局で確認を。
特定(産業別)最低賃金とは何ですか?
地域別とは別に、業種単位で定められる最低賃金です。対象業種では地域別と特定の両方を満たす必要があり、実質的には高い方の額が下限になります。該当するかは都道府県労働局のサイトで確認できます。
まとめ ― 10月1日の前にやっておきたい3つのこと
最低賃金の改正は、知らずに損をする人も違反する事業者もいます。発効日までに次の3つを進めましょう。
- 自分の県の新最低賃金を公式サイトで確認する 厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」や勤務地の労働局サイトで、新額と発効日を確認します。目安+54円に対し、確定額は県ごとです。
- 給与明細と照合し、未達なら相談窓口へ動く 時給制は明細の単価を、月給制は換算式で判定します。未達が疑わしければ、総合労働相談コーナーへ早めに相談を。
- 事業者は就業規則変更と助成金活用を発効日までに 賃金台帳の棚卸し、就業規則・雇用契約の改正・届出を発効日までに済ませ、業務改善助成金などの支援策も検討してください。無料の専門家相談窓口(例:神奈川働き方改革推進支援センター 0120-910-090)も利用できます。
10月1日から変わるルールです。今日から一歩動き出しましょう。
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参考文献・出典
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
- 厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001571192.pdf
- 神奈川労働局「令和8年度『神奈川県最低賃金』を改正決定します~54円引上げ 時間額1,279円に~」: https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/home/houdou/20260827_00001.html
- カナロコ(神奈川新聞)「神奈川の最低賃金、1279円に 引き上げ額54円で一服、10月1日から」: https://www.kanaloco.jp/news/economy/article-1294600.html
- 神奈川労働局「リーフレット『令和8年度業務改善助成金のご案内』」: https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/content/contents/002794177.pdf