大阪市が民泊の開業規制を強化へ——「木造・鉄骨は原則不可」条例案の中身と争点

大阪市が旅館業法にもとづく民泊の開業規制を強化する条例改正案を9月議会に提案し、10月中の施行をめざす。報道が伝える「遮音性」は例外ルートで、条文案の原則は鉄筋コンクリート造という構造指定だ。特区民泊の受付終了に続く二段構えの規制の中身と争点を整理する。

2026年9月3日、大阪市が旅館業法に基づく民泊の開業規制を強化する方針が報じられた。営業許可の要件に建物の構造を加え、木造や鉄骨造のアパートでの開業を原則として認めない、という内容だ。市は9月定例会に条例改正案を提案し、10月中の施行をめざしている。

ニュースとしては唐突に見えるかもしれないが、これは単発の思いつきではない。2026年5月29日に特区民泊の新規受付が終了したことに続く、二段構えの規制の後半にあたる。そして報道の見出しにある「遮音性」という言葉は、条例案の性格をやや正確に伝えていない。何が変わり、何が争点なのかを順に見ていく。

大阪が「民泊の街」になった経緯

大阪市が民泊政策で全国から注目されてきたのは、国家戦略特区法にもとづく特区民泊を積極的に推進してきたからだ。旅館業法の許可より手続きが軽く、住宅宿泊事業法(民泊新法)のような年180日という営業日数の上限もない。増え続ける訪日客の受け皿として、市は制度を全面的に活用した。

結果として、大阪市の認定施設数は全国の9割超を占めるまでになる。日本経済新聞は2025年9月時点で市内の施設が全国の94%にあたると報じている。市の集計では、特区民泊の施設数は令和6年度(2024年度)の6,038件から令和7年度(2025年度)には8,360件へと約1.4倍に伸びた。

同時に増えたのが住民からの苦情である。騒音とごみに関する苦情は同じ期間に190件から338件へ、施設の伸び(1.4倍)を上回る1.8倍のペースで増加した。深夜の話し声、共用部でのスーツケースの音、分別されないごみ、オートロックの意味が失われる状態。マンションに住む人にとっては、隣室が実質的にホテルになるということだ。

2025年7月、市は横山英幸市長をトップとする宿泊対策プロジェクトチームを立ち上げる。9月30日の第2回会議で特区民泊の新規受付終了の方針が決まり、11月28日に内閣総理大臣が区域計画の変更を認定して、2026年5月29日という期限が確定した。横山市長は2025年9月の会見で「規制強化が必要で、そのために一度(新規受け付けを)止めて態勢を整えたい」と述べている。

受付終了の直前には駆け込み申請が殺到し、2026年5月の申請件数は1000件超と過去最多を記録した。市長は「正常化を図っていきたい」と語ったが、この1000件超は既得権として営業を続けられる。この点は後述する不公平感の火種になっている。特区民泊の認定にかかる事務そのものも、2026年6月30日をもって終了した。

条例改正案が実際に定めていること

今回の改正案は、大阪市旅館業法の施行等に関する条例(2003年制定)を対象にしたものだ。中身は大きく3点あり、構造要件だけを見ていると本質を取り違える。

1. 構造要件(新規申請と増床のみ)

条文案の要求は「遮音性が高いこと」ではない。施設が入る建物に現に人が住んでいる住戸が含まれる場合、その施設の構造は鉄筋コンクリート造(RC)または鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC)でなければならない、という素材の指定である。木造・鉄骨造が原則として排除されるのはこのためだ。

ただし書きによる例外は2つ用意されている。検査機関などがRC・SRC同等以上の防音性能を証明した場合と、建築基準法上「ホテル又は旅館」の用途に適合していることを検査済証などで示せる場合だ。報道が言う「遮音性」はこの例外ルートを指しており、原則と例外の順序が入れ替わって伝わっている。

対象は改正後に新たに許可申請する旅館・ホテル営業および簡易宿所営業と、増床をともなう構造変更に限られる。事業譲渡や引き継ぎ、改正日までに計画届を出して通知書の交付を受けた施設は対象外だ。既存の木造民泊がただちに営業できなくなるわけではない。

2. 従事者の常駐義務(既存施設にも適用)

宿泊者が滞在している間、従事者が施設または管理事務室に常駐することを義務づける。事業者にとって負担が最も重いのはおそらくこちらで、構造要件と違って既存の全許可施設に適用される。無人運営を前提に設計されたビジネスモデルは、この一点で成り立たなくなる可能性がある。

3. 近隣周知義務の拡大

これまで近隣への事前周知が必要だったのは総客室面積33平方メートル未満の施設だったが、この閾値を200平方メートル未満まで引き上げる。周知すべき事項にも騒音防止策と火災など緊急時の対応が加わる。200という数字は、建築基準法で総延べ床面積200平方メートル未満なら用途変更の建築確認が不要であり、住宅のまま許可申請できてしまうことに対応している。

条例案自体は2026年5月15日に公表され、5月19日から6月18日までパブリックコメントが実施された。寄せられたのは26通・のべ116件で、7月31日に公表された結果によれば、意見を受けた改正内容の修正は行われていない。

賛否——「予測」で規制してよいか

住民側と市の論理は明快だ。特区民泊の入口だけを閉じても、事業者が旅館業の許可に流れ込めば同じ問題が繰り返される。市自身が改正案の資料で「旅館業の施設数・苦情数の大幅な増加が見込まれる」と述べており、抜け穴を先回りして塞ぐという発想である。構造で線を引く根拠も一応そろっている。市の集計では、特区民泊の騒音苦情のうち木造が173件(61.8%)、鉄骨が70件(25.0%)で、両者で約87%を占めるからだ。

一方、事業者側の批判はこの「先回り」そのものに向かう。

第一に立法事実の弱さだ。今回規制されるのは旅館業であって特区民泊ではない。その旅館業の騒音苦情は令和7年度でわずか15件にすぎない。現に起きている被害ではなく、これから起こるであろう移行を根拠に規制するのは順序が逆ではないか、という指摘である。

第二に、素材で線を引く手法への疑問がある。建築基準法は長年かけて仕様規定から性能規定へと移行してきた。「RCであること」ではなく「この性能を満たすこと」で規制するのが現代的な作法であり、条例が構造名で線を引くのは逆行だという批判だ。例外ルートで性能証明を認めてはいるが、その運用基準は施行時のガイドラインに委ねられる予定であり、議決の時点では規制の輪郭が定まらないという手続的な問題が残る。

第三に、常駐義務とICT化の矛盾がある。旅館業法はもともとICTを活用した遠隔での本人確認を認める方向で緩和されてきた。パブリックコメントでも遠隔管理を代替手段として認めるよう求める意見が出たが、市は「ICTを否定はしないが常駐は別途必要」という立場を崩していない。

第四に、5月に駆け込んだ1000件超との不公平感がある。期限に間に合った物件は営業を続けられ、間に合わなかった木造・鉄骨物件の資産価値は直撃を受ける。線が引かれた日付の前後で明暗が分かれる構図だ。

民泊3制度の非対称——大阪市の規制はどこに効くのか

ここで押さえておきたいのは、日本の民泊が3つの別々の制度で成り立っていることだ。今回の大阪市の条例が効くのは、このうち旅館業法だけである。

旅館業法(旅館・ホテル/簡易宿所) 住宅宿泊事業法(民泊新法) 国家戦略特区法(特区民泊)
手続 保健所の許可 届出 自治体の認定
営業日数 無制限 年180日上限(条例で短縮可) 無制限
最低宿泊日数 なし なし 2泊3日以上(大阪市)
住居専用地域 原則不可 可 原則不可
大阪市の施設数(令和7年度) 1,856 少数 8,360
今回の条例改正 対象 対象外 対象外(新規受付終了済み)
観光庁の「0日規制」容認 対象外 対象 対象外

2026年6月17日、観光庁の村田茂樹長官は、自治体が条例で民泊新法の営業日数を実質ゼロにすることを容認する方針を示した。規制強化の流れとしては同じ方向だが、対象は住宅宿泊事業法であり、大阪の主戦場である特区民泊にも旅館業にも直接は効かない。制度ごとに規制の効き方がずれている状態は、当面続くことになる。

他都市も動いている。京都市は2026年度中の条例改正案を予定し、すでに住居専用地域では年60日の上限と10分以内の駆けつけ要件を課している。新宿区も住居専用地域での営業を週末に限定してきた。プラットフォーム側の反応も一様ではなく、2026年2月に就任したAirbnb Japanの中川晋太郎代表は、規制強化をヤミ民泊一掃の追い風と位置づける姿勢を示している。

背景には、政府が2030年に訪日客6,000万人・消費額15兆円という目標を掲げていることがある。宿泊供給の主力だった民泊を絞ることは、この目標と正面から衝突しうる。市自身が国の特区会議に提出した資料で、民泊が客室稼働率の抑制に一定の役割を果たしてきたと認めているのは示唆的だ。受け入れを増やす国の方針と、生活環境を守る自治体の判断が、同じ都市の中でぶつかっている。

大阪市会の日程では、9月定例会での審議を経て議決に至る見込みだ。可決されれば10月中の公布・施行となる。ただし実際の規制の中身を決めるのは、その後に示される「ただし書」の運用ガイドラインになる。次に注目すべきはそこだろう。

よくある質問

今回の規制はいつから始まりますか

2026年9月3日時点ではまだ決まっていません。大阪市は市議会の9月定例会に条例改正案を提案し、可決されれば10月中の公布・施行をめざしています。議決前の「案」の段階であり、すでに施行されたわけではない点に注意が必要です。

すでに営業している木造アパートの民泊は営業できなくなりますか

構造要件は、改正後に新たに許可を申請する施設と、増床をともなう構造変更を行う施設に適用されます。したがって既存の許可施設がただちに営業停止になるわけではありません。ただし従事者の常駐義務は既存の全許可施設に適用されるため、無人運営をしている施設は運営体制の見直しを迫られます。

「遮音性の高い建物」が要件になるということですか

条文案が原則として求めているのは鉄筋コンクリート造または鉄骨鉄筋コンクリート造という構造そのものです。遮音性能の証明は、検査機関などがRC・SRC同等以上と認めた場合に適用される例外ルートとして位置づけられています。原則は構造指定、例外が性能証明という順序です。

特区民泊とは何が違うのですか

特区民泊は国家戦略特区法にもとづく認定制度で、大阪市では2026年5月29日に新規申請の受付が終了し、6月30日に認定事務も終了しました。今回の規制対象は旅館業法にもとづく許可(旅館・ホテル営業および簡易宿所営業)です。市は特区民泊の入口を閉じたことで事業者が旅館業に流れることを見越し、そちらの入口も狭めようとしています。

なぜ今、規制が強化されるのですか

大阪市の集計では、特区民泊の施設数が令和6年度の6,038件から令和7年度の8,360件へ増える一方、騒音やごみの苦情は190件から338件へと施設の伸びを上回るペースで増加しました。騒音苦情の約87%が木造・鉄骨の建物で発生していることが、構造で線を引く根拠とされています。

まとめ

大阪市の今回の動きは、特区民泊の受付終了に続く規制の第二段であり、旅館業許可への横滑りを塞ぐことを狙っている。報道が強調する構造要件だけでなく、既存施設にも及ぶ常駐義務と、近隣周知の対象拡大を含む3点セットとして理解する必要がある。

争点は「民泊を規制すべきか」ではなく、「まだ起きていない移行を根拠に、素材で線を引くという手法が妥当か」という点に絞られつつある。住民の生活環境という守るべき利益は明確だが、規制の実質がガイドラインに委ねられ、駆け込み申請組との不公平が残る構図もまた事実だ。9月議会の審議と、その後に示される運用基準が、この条例の実際の姿を決めることになる。

参考ソース

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