TSMCのCoWoS歩留まり98%超——AI半導体の制約はHBMとABF載板へ

2026年8月11日のOCP APAC Summitで、TSMCは5.5倍レチクルCoWoSが複数のAI製品で歩留まり98%超に達したと明らかにした。しかし高い歩留まりは出荷台数を意味しない。AI半導体の供給制約は、パッケージ工程の内側からHBM・ABF載板・システム級検証という外側へ移りつつある。

AI半導体が足りない理由を、多くの人は「最先端の微細加工が難しいから」だと考えている。だが2026年8月11日、台北で開かれたOCP APAC Summitで、TSMCの先進封装技術・サービス担当副社長である何軍(Jun He)氏が語った内容は、その理解を更新するものだった。GPUとメモリを一枚の巨大な基板にまとめるCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)は、5.5倍レチクルという過去最大級のサイズで、複数のAI顧客製品において安定して98%を超える歩留まりに達している。一部製品では99%に届いたという。

つまり「詰め込む技術」の側は、もう詰まっていない。それでもAIアクセラレータは足りない。何軍氏が同じ講演で挙げた制約要因は、メモリ、ABF載板、材料のばらつき、そしてシステム級の信頼性だった。AI半導体のボトルネックは、CoWoS工程の内側から、その周囲の部材と検証工程へ移動しつつある。

背景:CoWoSとは何をしている技術なのか

現代のAIアクセラレータは、一つのシリコンダイでは成立しない。演算を担うGPUダイと、そこへデータを流し込むHBM(高帯域メモリ)のスタックを、極めて短い配線で結ばなければ性能が出ないからだ。CoWoSは、この演算ダイとHBMを「インターポーザ」と呼ばれる中間基板の上に横並びに配置し、超高密度で接続する2.5Dパッケージング技術である。NVIDIAのH100やBlackwell世代のGPUは、この技術なしには製品として成立しない。

CoWoSには方式がいくつかある。従来のCoWoS-Sは大きなシリコンインターポーザをそのまま使う。対してCoWoS-Lは、再配線層(RDL)に局所シリコンインターコネクト(LSI)を埋め込み、微細配線が本当に必要な場所にだけシリコンを配置する構造をとる。シリコンは高価で大面積化しにくいため、必要な箇所を局所化することで大型化とコストの両立を図ったわけだ。今回98%超を記録したのは、この系統の技術になる。

サイズの話も具体的にしておきたい。レチクルとは露光装置が一度に転写できる最大領域を指し、TSMCは1レチクルを約830平方ミリメートルとしている。5.5倍ならインターポーザ相当の面積は単純計算で約4,565平方ミリメートル。外装を含むパッケージ寸法ではないが、先端ロジックの単一ダイをはるかに超える領域に、演算ダイとHBMを並べていることになる。TSMCの年次報告書によれば3.5倍レチクルのCoWoS-Lが量産に入ったのは2024年で、そこから2年で5.5倍まで広げ、しかも複数製品で98%超を維持した点に今回の進歩がある。

98%という数字の読み方

ただし、この数字には注意して接する必要がある。

経済日報の会場報道によると、複数製品に共通する基準は「安定して98%超」であり、99%は一部製品の到達値だ。さらにTSMCは、歩留まりの分母が何なのか、どの工程までを測った数字なのかを公表していない。したがって、これを「完成したAIシステム全体の良品率」と読み替えることはできない。

それでも意味はある。5.5倍という過去最大級のサイズで、単一製品ではなく複数のAI顧客製品にわたって98%超を維持しているという範囲の広さは、量産の成熟度を測る材料になるからだ。ロードマップ上、TSMCは2028年に14倍レチクル品の量産を予定しており、そこには大型演算ダイ約10個とHBM 20個が載る。2029年にはさらに14倍超へ拡大し、40倍相当のウェハー級システム「SoW-X」も計画されている。5.5倍品での高歩留まりは、その先へ進むための必要条件にあたる。

制約はどこへ移ったのか

CoWoS工程が98%超で安定しても、出荷台数はそれだけでは決まらない。良品の演算ダイ、必要数のHBM、大型のABF載板が同じ時期に揃わなければ、組み立ては始まらないからだ。

メモリ側の逼迫はHBMに限られない。Micronは2026年6月の決算説明で、DRAMとNANDの需給が2027年を過ぎても引き締まった状態が続くと見込んでいる。同社はHBMを含むDRAM・NANDを複数年にわたって顧客へ割り当てる供給契約を結んでおり、主要顧客が数世代先のメモリを早期に押さえている。この構造こそ、CoWoSの増産分が自動的にAIチップの増産へ変わらない理由である。当サイトでも以前、Apple決算に映ったDRAM高騰や、国内スマートフォン出荷の半減という形でこの余波を扱った。

ABF載板側では、面積と層数が需要を押し上げている。ABF(味の素ビルドアップフィルム)は、演算ダイとHBMを載せたインターポーザとサーバー基板を結ぶ有機載板の、微細配線層に使われる絶縁材料だ。味の素は世界シェア約95%を握るとされ、2026年6月の事業説明では、高性能半導体の大型化・多層化に伴ってパッケージ1個あたりのABF使用量が増えると説明している。同社は2030年に向けて群馬工場などで段階的に能力を増やし、2030年以降の需要に備えた第3拠点も計画中だ。

載板を製造するイビデンの計画を見ると、時間差がさらにはっきりする。同社は大型・多層載板向けのSAP(セミアディティブ法)処理需要が業界の供給能力を上回ると予測し、2024年を1とする能力指数を2026年に1.8、2028年に2.5へ引き上げる方針を示した。岐阜県の河間工場と大野事業場へ計5,000億円を投じるが、新設備の量産開始は2027年度から順次である。需要は今すでに立ち上がっているのに、大きな増産効果が出るまでには少なくとも年度をまたぐ。

「複数社から買えばいい」が効かない理由

供給不足への自然な対応は、同じ部材を複数のメーカーから調達することだ。ところが大型CoWoSでは、供給元を増やすほど製造条件が複雑になるという逆説が働く。

何軍氏によれば、ABF載板はメーカーごとに熱的・機械的特性が異なり、その差がCoWoSの工程窓——良品を安定して作れる熱条件・機械条件の許容範囲——を狭める。最終組み立て時に接続面を同じ高さに保つ共平面性も悪化しやすい。原因はパッケージの大きさにある。シリコンやRDLと、有機載板やプリント基板とでは、加熱・冷却に対する伸び縮みの割合が違う。面積が広がるほど熱膨張率の差による応力と反りが増え、蓋や熱界面材料(TIM)、受動部品の配置にまで影響が及ぶ。調達上は代替可能に見える載板でも、既存の温度条件や治具へそのまま流せるとは限らないわけだ。

会場で紹介された事例が、この問題の質をよく表している。同じチップを異なるシステムへ組み込んだところ、部品単体の試験では現れなかったダイ端部の損傷が生じ、TSMCと顧客はプリント基板や受動部品の配置、製造工程を調整することになった。逆に、部品段階で見つかった応力が基板への実装後には消えてしまう場合もあったという。実機の拘束条件と冷却、プリント基板やシステム構造の影響まで含めなければ、故障が再現できない領域に入っている。

そのためTSMCは、システム技術協調最適化(STCO)を量産前の段階へ持ち込む方針を示した。大型AIシステムの故障率を許容範囲に収めるには、個々の封装部材に車載品を上回る品質が必要になるとの説明もあった。多源化の効果は、調達先の社数ではなく、量産条件を共有できる認定済み部材の量で決まる、というのが現場の結論である。

影響と今後:18カ月前倒しの開発と、揃わない三つの条件

TSMCは量産の6四半期前、つまり約18カ月前にシステムの境界条件を公表し、顧客や業界から意見を集める方針を打ち出した。技術チーム、製造チーム、顧客が順番に作業していく従来型の開発では、年次で更新されるAI製品に間に合わないからだ。材料メーカー、装置メーカー、システムインテグレーターが同時に試作と検証を進め、温度や荷重に加えて反りや冷却といった実機条件を製造工程へフィードバックする——そういう体制へ移行しつつある。

生産能力の見通しについては、市場予測がかなり割れている点も押さえておきたい。TSMCのCoWoS月産能力を2026年末に14万枚、2027年に22万枚とする予測がある一方、JPモルガンは2026年末11.5万枚、2027年末17.5万枚、2028年末22万枚とより保守的に見る。Mizuhoは2027年に月20万枚という数字を出している。共通しているのは、どの予測でも2027年までは需給が逼迫したままという点だ。ある試算では、月産20万枚まで拡大しても全世界の需要ギャップを埋めきれない可能性が指摘されている。

今後注目すべきは、最大歩留まりが99%に届くかどうかではない。複数製品で98%超を維持できる範囲がどこまで広がるか、2027年度から立ち上がる載板増産が認定を伴って進むか、そしてメモリの複数年契約が次世代HBMの必要量を満たすか。この三つが揃って初めて、巨大化したCoWoSはロードマップ上の面積から、実際に出荷できるAI計算資源へ変わる。

よくある質問

CoWoSの歩留まりが98%を超えたのに、なぜAIチップは足りないままなのですか

歩留まりは「投入した部材をパッケージとして仕上げられる割合」であり、出荷台数は「良品の演算ダイ・必要数のHBM・大型ABF載板が同じ時期に揃うか」で決まるためです。CoWoS工程が安定してもHBMや載板が届かなければ組み立ては始まりません。TSMC自身がメモリとABF載板の不足を制約要因として挙げています。

ABF載板とは何で、なぜ不足しているのですか

ABF(味の素ビルドアップフィルム)は、演算ダイとHBMを載せたインターポーザとサーバー基板を結ぶ有機載板の、微細配線層に使われる絶縁材料です。味の素が世界シェア約95%を握るとされています。AI向けパッケージが大型化・多層化するほど1個あたりの使用量が増える一方、載板メーカーの新設備は2027年度から順次立ち上がる計画で、需要の立ち上がりに供給が追いついていません。

載板を複数のメーカーから調達すれば供給不足は解決しませんか

単純には解決しません。ABF載板はメーカーごとに熱的・機械的特性が異なり、その差が良品を安定して作れる条件の範囲(工程窓)を狭めるとTSMCは説明しています。パッケージが大型化するほど熱膨張率の差による応力と反りが増えるため、代替載板を採用するには実際の基板と冷却構造を含めた検証が必要になります。

14倍レチクルのCoWoSはいつ登場する予定ですか

TSMCのロードマップでは2028年に量産予定で、大型演算ダイ約10個とHBM 20個を一つに統合する計画です。2029年にはさらに14倍超へ拡大し、40倍相当のウェハー級システム「SoW-X」も予定されています。今回の5.5倍品での高歩留まりは、その先へ進むための必要条件にあたります。

98%という歩留まりの数字はどこまで信頼できますか

TSMCは歩留まりの分母や、どの工程までを測った数字なのかを公表していません。したがって完成したAIシステム全体の良品率と読み替えることはできません。また経済日報の会場報道によれば、複数製品に共通する基準は「安定して98%超」であり、99%は一部製品の到達値です。量産の成熟度を示す材料としては有効ですが、範囲を確認して受け取る必要があります。

まとめ

AI半導体の供給制約は、この数年で「最先端の微細加工ができるか」から「巨大なパッケージを歩留まりよく組めるか」へ移り、そして今、「周囲の部材と実システムの検証が間に合うか」へ移った。TSMCが5.5倍レチクルCoWoSで98%超の歩留まりを示したことは、二つ目の関門を越えた証拠である。だが同じ講演で語られたメモリ、ABF載板、多源化の難しさ、システム級信頼性は、三つ目の関門がすでに目の前にあることを示している。

ボトルネックが工程の内側から外側へ動いたということは、問題を解ける主体も変わったということだ。TSMC一社の技術改善では片づかず、メモリメーカー、材料メーカー、載板メーカー、システムインテグレーターが同じ時間軸で動く必要がある。量産18カ月前からの境界条件公開という提案は、その現実に対する率直な応答だと言える。次に見るべき数字は、99%という最大値ではなく、2027年度からの載板増産が認定を伴って立ち上がるかどうかだ。

参考ソース

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