「副首都」要件案が判明――首都直下地震に備え、日本はなぜ「第2の首都」を法律で定めるのか

はじめに――「第2の首都」を定める法律が動き出した

2026年10月2日、大規模災害の際に首都の代替機能を担う「副首都」について、政府がまとめた指定要件の案が判明し、報道各社が伝えました。NHKの報道によると、要件案には「全国の総人口の1.2%以上の都市とすること」などが盛り込まれ、札幌市・名古屋市・大阪市・福岡市の4市が要件を満たすことが、政府関係者の話として明らかになりました。参考

「第2の首都」を法律で定める動きは、ここから始まったものではありません。2026年7月、「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律」、通称「副首都法」が成立しています。同法は、副首都が平時には日本の経済成長の拠点、大規模災害時には首都機能をバックアップする役割を担うと定め、道府県からの申出に基づいて国が指定する仕組みを設けました。参考 今回判明した政令案は、この法律を具体化する第一歩という位置づけです。西日本新聞の報道によれば、制度上の指定単位は道府県で、北海道・愛知県・大阪府・福岡県の4道府県が該当するとされ、10月3日からパブリックコメントが実施され、今月下旬に政令が公布される見通しです。参考

では、なぜいま「第2の首都」が必要なのでしょうか。政府の中央防災会議は2012年、首都直下地震対策を「我が国の存亡に関わるもの」と表現しました。巨大地震で首都機能が止まれば、行政・経済・国民生活への影響は計り知れません。副首都は、こうした最悪のシナリオに備える、国レベルのバックアップ計画ともいえる制度なのです。

この記事でわかること

  • 副首都とは何か――「首都移転」とはどう違う制度なのか
  • 判明した指定要件案の中身(総人口の1.2%以上など)と、札幌・名古屋・大阪・福岡の4市が要件を満たすとされる理由
  • なぜいま副首都なのか――首都直下地震のリスクと首都機能が途絶えるシナリオ
  • 制度の課題――「指定」だけで本当に機能するのか、海外の類似制度との比較

なお、指定要件は現時点で「案」の段階であり、10月下旬の政令公布によって正式に決定される予定です。本記事では断定を避け、判明した限りの情報をもとに制度の全体像を整理します。

本記事の情報源について:本記事の主要な事実は、2026年10月2日時点の報道各社(NHK・西日本新聞me・読売新聞)の報道と、大阪府・大阪市などの自治体公表資料に基づいています。指定要件の正確な法律文言は、10月下旬の政令公布時に官報・所管省庁資料で確定します。政令案の原文は本記事執筆時点では公表前であるため、本記事の要件整理は報道ベースの暫定版とお読みください。

副首都とは何か――「首都移転」とは違う、首都機能のバックアップ制度

「副首都」と聞くと、1990年代に議論された「首都移転」を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、2026年7月に成立した「副首都法」(国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律)が定める副首都は、東京に代わる新しい首都をつくる制度ではありません。大阪府の広報によると、副首都の役割は2本柱です。平時には「日本の経済成長の拠点」として機能し、非常時には「大規模災害時に首都機能をバックアップ」する。つまり首都を置き換えるのではなく、首都機能の「予備」を平時から別の地域に整備しておく、いわば国家版の事業継続計画(BCP)という考え方です。

この「バックアップ」と「移転」の違いは、1990年代の首都機能移転論と比べると明確です。1992年に「国会等の移転に関する法律」が成立し、1999年12月には国会等移転審議会が移転先候補として3地域を選定しました。しかし2003年、衆参両院の特別委員会が「絞り込めない」とする中間報告を採択し、構想は事実上凍結。2006年には担当大臣のポストが道州制担当大臣に変更され、2011年7月には国土交通省の「首都機能移転企画課」も廃止されました。「首都を移す」議論は、20年余りをかけて衰退したのです。

一方の副首都構想も、同じく20年以上の歴史を持ちます。2005年4月、国家危機管理国際都市(NEMIC)構想を推進する超党派の「危機管理都市推進議員連盟」が結成され、同年4月18日には大阪府・京都府・兵庫県の三府県知事が、東京で大規模災害が起きた場合の緊急時の「副首都」建設を近畿圏で推進する考えで合意しました。

転機は2011年の東日本大震災です。同年7月、石原慎太郎東京都知事(当時)と橋下徹大阪府知事(当時)が会談し、東京を「首都」、大阪を「副首都」とする方針で合意。橋下氏は「東京から行政機関を移転するのではなく、副首都を担える行政機構・都市機能を整備する」と説明し、「移転」ではなく「バックアップ」の考え方を鮮明にしました。2012年3月には、民主党の内閣部会・首都中枢機能バックアップWT合同会議が、拠点を「とりあえずは大阪に設置することが望ましい」とする中間報告骨子をまとめています。

国レベルの議論が停滞した後も、大阪府・大阪市・堺市は2015年12月に「副首都推進本部」を設置して検討を継続しました。2017年3月に「副首都ビジョン」を策定し、2023年3月に改定版をとりまとめ、2026年2月には「大阪の副首都構想」を提示。そして同年7月の副首都法成立を経て、10月2日に判明した指定要件の政令案へと、構想はいよいよ法制化・具体化の段階に至ったのです。

この約20年の流れを時系列で整理すると次のとおりです。

graph TD
    A["2005年 危機管理都市推進議員連盟結成/三府県知事が副首都建設で合意"] --> B["2011年 東日本大震災/石原・橋下両首長が『首都・副首都』合意"]
    B --> C["2012年 民主党 中間報告『大阪に設置が望ましい』"]
    C --> D["2015年 大阪府市 副首都推進本部設置"]
    D --> E["2017年 副首都ビジョン策定"]
    E --> F["2023年 副首都ビジョン改定版"]
    F --> G["2026年2月 大阪の副首都構想取りまとめ"]
    G --> H["2026年7月 副首都法成立"]
    H --> I["2026年10月 指定要件の政令案判明"]
    I --> J["2026年10月下旬 政令決定予定"]

図の内容を文章でも説明します。2005年の議員連盟結成と三府県知事の合意を出発点に、2011年の東日本大震災を経て石原・橋下両首長が「首都・副首都」の分担で合意し、2012年には民主党の中間報告へとつながります。その後は大阪府市が2015年に副首都推進本部を設置し、2017年の副首都ビジョン策定、2023年の改定、2026年2月の「大阪の副首都構想」と歩みを続け、2026年7月の副首都法成立、10月の政令案判明、同月下旬の政令決定(予定)に至ります。首都移転論が凍結する一方で、「バックアップ」という発想の構想だけが、震災の経験と自治体の継続的な努力を経て20年余りかけて法律になった——これが副首都という制度の来し方です。

このセクションの主な出典

  • 大阪府広報「日本に副首都をつくる法律ができました!」:https://www.pref.osaka.lg.jp/o070050/koho/kohoportal/202609/tp01.html
  • 大阪府「副首都ビジョンの推進」:https://www.pref.osaka.lg.jp/o010010/fukushutosuishin/fukusyutobijon/index.html
  • Wikipedia「副首都構想」:https://ja.wikipedia.org/wiki/副首都構想
  • Wikipedia「首都機能移転」:https://ja.wikipedia.org/wiki/首都機能移転

判明した指定要件案の内容――「人口1.2%」の意味と5つの要件

2026年10月2日、大規模災害の際に首都の代替機能を担う「副首都」について、政府がまとめた指定要件の案が判明しました(NHK報道)。これは2026年7月成立の「副首都法」(国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律)を具体化する政令案の中身で、最大の焦点は「全国の総人口の1.2%以上の都市とすること」という人口要件です。

2025年7月時点の日本の総人口は1億2,336万7,000人(総務省統計局まとめ)で、その1.2%は約148万人に相当します。このラインを上回るのは札幌・名古屋・大阪・福岡の4市と、政府関係者が明らかにしています。なお制度上の指定単位は道府県で、北海道・愛知県・大阪府・福岡県の4道府県が該当すると報じられています(西日本新聞me)。

報道で判明した5つの要件案

西日本新聞me(10月1日)の報道などをもとに要件案を整理すると、次の5つにまとめられます。読売新聞(8月26日)も、政令には関連法が定める「国の出先機関の立地」「経済・人口の集積」「必要な地方行政体制」の具体的基準が明記されると報じており、主要報道間で整合的です。ただし、以下は報道内容をもとにした暫定的な整理であり、政令公布時の正式な文言・区分とは異なる可能性がある点にご注意ください。

要件 内容(政令案・報道ベース)
①人口 全国総人口の1.2%以上(約148万人)の都市であること
②経済規模・集積 一定の経済規模・集積を有すること
③国の出先機関の立地 国の出先機関が立地していること
④東京圏との同時被災リスク 首都直下地震や富士山噴火で東京圏と同時に被災する可能性が低いこと
⑤行政体制(いずれかを選択) 政令指定都市を特別区に再編する、または政令市と道府県が連携協約を結んで必要な行政体制を構築すること

指定までの流れ

指定は、政令の要件をクリアする道府県からの申請を経て、首相が道府県単位で行う仕組みです。今後の日程は次のフローのとおり伝えられています。

flowchart TD
    A["副首都法成立(2026年7月)"] --> B["政令で指定要件を確定<br/>(10月3日からパブコメ/10月下旬公布予定)"]
    B --> C["道府県が申請"]
    C --> D["首相が道府県単位で指定"]
    D --> E["基本方針の考え方を公表(11月予定)"]
    E --> F["基本方針を閣議決定(2027年10月まで)"]

「1.2%」の設定根拠は報道では未説明

正直に記しておくと、「なぜ1.2%(約148万人)なのか」という数値の設定根拠は、今回の報道ではいずれも説明されていません。このラインは4市の人口をクリアしますが、横浜・川崎・神戸など東京圏・近隣の政令市が対象外とみられるのは、④「東京圏と同時に被災する可能性が低いこと」という要件の観点からとみられるものの、この点は推測を含む観測です。要件はあくまで政令案段階であり、10月3日開始のパブリックコメントを経て、10月下旬の政令公布までに内容が調整される可能性がある点にも留意が必要です。

出典

  • NHKニュース「『副首都』要件案判明 人口全国の1.2%以上など 札幌、名古屋、大阪、福岡の4市満たす」(2026年10月2日) https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261002de53765
  • 西日本新聞me「【独自】『副首都』要件に福岡が該当 北海道、愛知、大阪もクリア 政令案、2日にも公表へ」(Yahoo!ニュース、2026年10月1日) https://news.yahoo.co.jp/articles/75ef2472d7e424f8c9d0621312776d92c1392477
  • 読売新聞「『副首都』の指定要件定める政令、10月下旬に決定へ…国の出先機関立地などの具体的基準を明記」(2026年8月26日) https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260826-GYT1T00258/
  • 総務省統計局まとめ・人口基準(Wikipedia「日本の人口」) https://ja.wikipedia.org/wiki/日本の人口

なぜ札幌・名古屋・大阪・福岡なのか――4市比較

政府がまとめた「副首都」指定要件の案(政令案)で、要件を満たすと報じられたのは札幌・名古屋・大阪・福岡の4市です(NHK)。最初の関門は人口です。政令案は「全国の総人口の1.2%以上の都市」とすることを要件に掲げており、総人口約1億2,337万人(2025年7月時点・総務省統計局の人口推計)に照らせば基準は約148万人になります。各市の推計人口は札幌市約196万人・名古屋市約234.6万人・大阪市約281.7万人・福岡市約167.2万人。名古屋市は約86万人、札幌市も約48万人の上回り幅で、最小の福岡市でも約19万人上回り、大阪市に至っては基準の1.9倍の規模です。4市とも余裕をもってクリアしていることが分かります。人口と並び、政令には「国の出先機関の立地」「経済・人口の集積」「必要な地方行政体制」の3つの具体基準が明記される見通しです(読売新聞)。

ここで整理したいのが、報道による「4市」と「4道府県」の表記のずれです。制度上の指定単位は道府県で、政令案の要件に該当するのは北海道・愛知県・大阪府・福岡県の4道府県(西日本新聞)。札幌・名古屋・大阪・福岡の4市は、その中核となる政令指定都市です。つまり「4市がそのまま副首都になる」のではなく、「4道府県が申請を経て首相に指定され、中核の政令市が非常時の機能バックアップを担う」構図と理解するのが正確です。

地理を見ると、4道府県は北海道・中部・関西・九州の各地域ブロックをひとつずつカバーしており、バックアップ拠点を東京圏に偏らせない分散性が特徴です(※分散性は本記事の分析)。政令案は「首都直下地震や富士山噴火により東京圏と同時に被災する可能性が低いこと」も要件の柱に位置付けており、東京からの距離そのものが防災上の資産と言えます。

市(道府県) 人口(推計) 地域ブロック 主な国の出先機関・機能 備考(申請動向等)
札幌市(北海道) 約196万人 北海道 北海道ブロックの中核政令市。出先機関の個別整備は今後の基本方針待ち ―
名古屋市(愛知県) 約234.6万人 中部 中部ブロックの中核政令市(個別整備は同上) ―
大阪市(大阪府) 約281.7万人 関西 関西ブロックの中核政令市。府市が副首都ビジョンで機能集積を提案 2015年に副首都推進本部設置、2026年2月「大阪の副首都構想」をとりまとめ
福岡市(福岡県) 約167.2万人 九州 九州ブロックの中核政令市。県・市・北九州市が連携協約で行政体制構築へ 県が10月1日に副首都推進室を設置。服部知事と藤井総務相の面会を調整

申請への動きも始まっています。政令案は行政体制の要件として「政令市を特別区に再編する」か「政令市と道府県が連携協約を結んで必要な体制を構築する」ことを求めており、福岡は後者の連携協約の道を選んだ形です。福岡県は10月1日に「副首都推進室」を設置。県・福岡市・北九州市は連絡会議の初会合で「連携協約で福岡を副首都へ」の方針を確認し、服部誠太郎知事らが藤井比早之総務相と面会する方向で調整が進められています。先行するのは大阪で、大阪府・大阪市は2015年12月の副首都推進本部設置を起点に、2017年の副首都ビジョン策定、2023年の改定版、2026年2月の「大阪の副首都構想」と具体化を重ねてきました。この4道府県以外にも、宮城・群馬・広島各県などが申請を検討していると報じられており、藤井総務相は「複数(の都市)を考えている」と複数指定に含みを持たせています。

一方、人口だけを見れば横浜・川崎・神戸など150万人超の政令指定都市は他にもあり、人口要件だけでは今回の4市に絞られた理由が説明つきません。それらが今回の案では対象外とみられるのは、首都圏やその周辺では「東京圏と同時に被災する可能性が低い」という地理的な要件を満たしにくいためとみられます(※推測を含む表現です。確定は10月下旬の政令公布を待つ必要があります)。

今後の日程は、10月3日からパブリックコメントが始まり、10月下旬の政令公布を経て、11月に副首都の在り方に関する「基本的考え方」、2027年10月までに基本方針が取りまとめられる見通しです。4道府県の申請と指定の行方は、この日程と併せて注目しておきたいポイントです。

出典:NHKニュース/西日本新聞me(Yahoo!ニュース)/読売新聞。人口はWikipedia「日本の人口」(総務省統計局まとめ)および各市の推計人口(Wikipedia各市記事)による。

なぜいま副首都なのか――首都機能途絶シナリオ

政府がいま「副首都」の制度化を進める最大の理由は、首都直下地震によって首都機能が途絶するシナリオへの備えです。政府の中央防災会議は2012年7月、首都直下地震対策を「我が国の存亡に関わるもの」と表現しました(出典:Wikipedia「日本における地震対策と体制」に引用された内閣府・中央防災会議資料。以下の被害想定数値も同じく二次資料経由です)。

この危機感は数値で裏づけられています。南関東直下地震の想定最大被害は、死者約1.1万人、経済被害約112兆円、帰宅困難者約650万人とされます(いずれも内閣府・中央防災会議の被害想定を伝える二次資料による数値です。想定の前提条件・対象地域については原資料のご確認をおすすめします)。発生確率の評価も厳しく、政府の地震調査研究推進本部は、南関東でM6.7〜7.2(M7級)の地震が2007年から2036年の30年間に70%の確率で発生すると評価しています(内陸地殻内地震は含まない)。「いつ起きてもおかしくない」地震に備えて、首都に集中した機能の受け皿を事前に用意しておく――それが副首都の考え方の出発点です。

さらに恐れるべきは、被害が連鎖して拡大する構造です。

graph TD
    A[首都直下地震] --> B[交通麻痺・帰宅困難 約650万人]
    A --> C[通信障害]
    B --> D[官邸・省庁・国会の機能停止]
    C --> D
    B --> E[金融・データセンターの機能停止<br/>関東への集中が指摘される]
    C --> E
    D --> F[経済損失の拡大]
    E --> F
    D --> G[被災地支援の停滞]
    E --> G

図が示すとおり、首都直下地震が発生すると、まず交通麻痺・帰宅困難・通信障害が同時に起きます。そこから波及するのが二つの機能停止です。ひとつは官邸・省庁・国会といった政治・行政機能。もうひとつは金融と、関東への集中が指摘されているデータセンターです。政治の判断機能と経済の情報基盤が失われれば、経済損失の拡大と被災地支援の停滞へと連鎖します。

このシナリオは決して空想ではありません。2011年の東日本大震災では、震源地から遠い首都圏でも帰宅困難者と計画停電が発生し、交通をはじめ都市機能が麻痺。東京一極集中の弊害が現実のものとなりました(出典:Wikipedia「首都機能移転」)。さらにさかのぼる1995年には、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件によって都市機能麻痺の危険が認識され、首都機能の分散・移転論が活発化しています。つまり副首都構想は、1995年と2011年という二つの教訓の延長線上にあるのです。

企業が事業継続計画(BCP)を策定するように、国家として政治・行政・経済機能の継続を確保する――副首都はいわば「国家版BCP」として位置づけられています。首都機能のバックアップ先をあらかじめ法律と政令で定めておくことで、災害時の混乱を最小限に抑える。今回判明した指定要件案は、その実現に向けた具体的な一歩なのです。

出典

  • Wikipedia「日本における地震対策と体制」(内閣府・中央防災会議資料の引用): https://ja.wikipedia.org/wiki/日本における地震対策と体制
  • Wikipedia「南関東直下地震」(被害想定・発生確率の記載): https://ja.wikipedia.org/wiki/南関東直下地震
  • Wikipedia「首都機能移転」(1995年・2011年の経緯): https://ja.wikipedia.org/wiki/首都機能移転

課題と海外比較――「指定」だけで機能するのか

札幌・名古屋・大阪・福岡の4市(北海道・愛知・大阪・福岡の4道府県)が要件を満たすとされる副首都の指定要件案。ただ「指定」の判断材料が固まっただけで、制度の実効性を左右する論点は5つ残っています。

第一に、人口1.2%の根拠が不透明な点です。総人口約1億2,336万人の1.2%は約148万人ですが、なぜ1.2%なのかについての公式説明はいずれの報道にもありません。第二に、指定されただけでは機能しない点です。2026年7月成立の副首都法は役割と国の責務を定める枠法にとどまり、代替の庁舎・人員・通信網・データ基盤という実体整備の中身は、2027年10月までに閣議決定される「基本方針」に委ねられます。第三に、行政体制の選択です。政令案は「政令指定都市を特別区に再編する」か「政令市と道府県が連携協約を結ぶ」ことを求めます。特別区再編には住民投票が必要で、投票と地方選の期間が「重複しないように最大限調整する」とする国会の付帯決議への対応も、政府の連絡会議で検討されています(読売新聞)。第四に、単一より複数指定の方向です。藤井比早之総務相は9月20日のNHK番組で「複数(の都市)を考えている」と述べ、4道府県以外にも宮城・群馬・広島各県などが申請を検討しています。第五に、東京都との関係です。都は知事本局のページで「首都移転にNO!」と反対の立場を示す一方、大阪府は「一極集中リスクを分散し、日本の成長をけん引する副首都」と訴えており、成長戦略と防災という二重の目的をどう両立させるかも問われています。

海外は「場所」と法制・人員・訓練をセットで整えてきた

政府機能の継続(Continuity of Government)に取り組んできた海外と比べると、日本の副首都に足りないものが見えてきます。

国 制度・施策 概要 日本の副首都との対比
米国 大統領継承法(1947年)+designated survivor 大統領が欠けた場合の継承順位を法律で法定。教書演説など閣僚が一堂に会する場では1人を欠席させ「指定生存者」として政府機能の壊滅に備える 「誰が指揮を執るか」を法定し、平時から運用する慣行。日本は副首都法で役割を定めた段階で、指揮系統の訓練は今後の課題
ドイツ 連邦憲法裁判所の所在地法定+冷戦期の政府防空壕 権力分立の要である連邦憲法裁判所の所在地をカールスルーエと基本法・連邦憲法裁判所法で法定。冷戦期には政府・議会用の防空壕(Regierungsbunker)を整備したが、1997年に運用終了 権限の中枢を首都から意図的に分離する法制が今も有効。非常時拠点は脅威の変化で役割を終えた歴史も教訓に
チェコ K-116などの政府避難施設 プラハ・ズリーホフ丘陵下のK-116やイフラバのK-9など、核攻撃時の政府避難先を冷戦期に整備。現在も非常時本部として使用可能とされる 施設を維持し続ける持続型。日本は今後の庁舎・通信網整備の充実度が問われる

3カ国に共通する教訓は、政府継続は「場所」の確保だけでなく、法制・人員・訓練がセットになって初めて機能するという点です。副首都も指定はスタートラインにすぎず、11月に公表予定の「基本的考え方」と2027年10月の基本方針で、実体整備と訓練まで設計できるかが制度の成否を分けるでしょう。

なお、上記の海外制度の記述は主にWikipedia等の二次資料に基づく整理です。各国の法制・運用実態の詳細については原資料の確認をおすすめします。

出典

  • NHK「『副首都』要件案判明 人口全国の1.2%以上など 札幌、名古屋、大阪、福岡の4市満たす」(2026年10月2日) https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261002de53765
  • 西日本新聞me「【独自】『副首都』要件に福岡が該当 北海道、愛知、大阪もクリア」(Yahoo!ニュース) https://news.yahoo.co.jp/articles/75ef2472d7e424f8c9d0621312776d92c1392477
  • 読売新聞「『副首都』の指定要件定める政令、10月下旬に決定へ…」(2026年8月26日) https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260826-GYT1T00258/
  • Wikipedia "Continuity of government" https://en.wikipedia.org/wiki/Continuity_of_government
  • Wikipedia "Regierungsbunker" https://de.wikipedia.org/wiki/Regierungsbunker
  • Wikipedia "Bundesverfassungsgericht" https://de.wikipedia.org/wiki/Bundesverfassungsgericht
  • 東京都知事本局「首都の定義」 https://www.sp.metro.tokyo.lg.jp/seisakukikaku/chosa/syuto/3_katudou/4_teigi/a111104a.htm

よくある質問(FAQ)――副首都の疑問に全部答える

「副首都」をめぐる基本的な疑問を、7つのQ&Aで簡潔に整理します。

副首都とは何ですか?

首都を置き換える「新しい首都」ではなく、平時は日本の経済成長の拠点、非常時は大規模災害に備えて首都機能をバックアップする都市のことです。2026年7月成立の「副首都法」で制度化され、道府県からの申し出をもとに国が指定する仕組みです。1990年代に議論された「首都移転」とは異なり、東京に加えて首都機能の「予備」を確保する考え方といえます。

札幌・名古屋・大阪・福岡が選ばれた理由は?

政令案の要件「全国総人口の1.2%以上(約148万人)」などの人口・経済規模を、4市がいずれも満たすためです。札幌約196万人、名古屋約234万人、大阪約281万人、福岡約167万人と、すべて基準を上回ります。国の出先機関の立地なども要件とされ、北海道・愛知・大阪府・福岡県の4道府県が該当すると報じられています。

東京は首都ではなくなるのですか?

なりません。副首都は首都機能のバックアップであり、首都移転とは異なる制度です。1992年成立の「国会等の移転に関する法律」に基づく移転論は2003年に事実上凍結されており、今回の制度は「移転」ではなく「予備の確保」と「平時の成長拠点」の実現が目的です。

副首都に指定されると何が変わりますか?

国の出先機関の整備や規制緩和など、副首都整備の具体的な施策が「基本方針」で具体化される見込みです。ただし現時点は政令案段階であり、支援の詳細は2027年10月までに閣議決定予定の基本方針で決まります。指定だけで官邸機能や省庁が自動的に動くようになるわけではありません。

指定はいつ、どのように決まりますか?

道府県の申請を経て、首相が道府県単位で指定する流れです。10月3日からパブリックコメントが始まり、10月下旬の政令公布、11月の基本方針に関する「基本的考え方」の公表を経て、2027年10月までに基本方針を閣議決定する予定です。藤井総務相は複数都市の指定に言及しており、宮城・群馬・広島各県も申請を検討していると報じられています。

横浜市や神戸市はなぜ対象外なのですか?

確定的なことは分かっていません。政府が個別の都市名を挙げて除外した公式説明は確認されていません。人口だけなら150万人を超える政令指定都市はほかにもありますが、政令案には「首都直下地震や富士山噴火により東京圏と同時に被災する可能性が低いこと」が要件として盛り込まれると報じられているため、東京圏と同時に被災しうる横浜市・川崎市・神戸市などは対象外と「みられる」というのが、報道内容からの本記事の推測です。10月下旬の政令公布と政府の説明で確定情報を確認してください。

首都直下地震が起きたら本当に副首都で政府は動けるの?

現時点では保証されておらず、指定はあくまで第一歩です。副首都法は役割と国の責務を定める枠法であり、官邸機能・省庁・通信・データ・人員の実体整備と訓練が伴わなければ機能しません。国内のデータセンターの約7割が関東に集中するとされる現状など課題は多く、実効性は今後の基本方針と自治体の整備次第です。

出典: NHKニュース(2026年10月2日)/西日本新聞me(Yahoo!ニュース)/大阪府広報「日本に副首都をつくる法律ができました!」

まとめ――「案」から「制度」へ、注目すべき3つのポイント

大規模災害の際に首都機能をバックアップする「副首都」。その指定要件を定める政令案が判明した今回のニュースを、要点3つで整理します。

①法律から政令へ――制度づくりが具体段階に

2026年7月に「副首都法」(国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律)が成立し、今回判明した政令案には、総人口の1.2%以上(約148万人)の都市とすることなどが盛り込まれました。政令は10月下旬に決定・公布される見通しです。

②要件を満たすのは4市(4道府県)

判明した限りでは、札幌・名古屋・大阪・福岡の4市が要件を満たすとみられます。制度上の指定単位は道府県で、北海道・愛知県・大阪府・福岡県が該当すると報じられています。

③指定はスタートライン――実効性はこれから

副首都が実際に機能するかどうかは、2027年10月までに策定が予定される「基本方針」の中身と、道府県の申請・自治体による整備の進め方次第です。指定されるだけで首都機能の代替が自動的に実現するわけではありません。

読者の皆さんにお願いしたいこと

パブリックコメントが10月3日から始まります。人口1.2%という数値や行政体制の要件など、気になる論点があればぜひ意見を。また、宮城・群馬・広島各県なども申請を検討しているとされるほか、道府県の申請が指定の前提となるため、自分の住む道府県の動きを追う視点を持つと、制度の行方がより身近に見えてきます。

今後の注目・取材ポイント

  • 10月下旬:政令が公布され、指定要件が確定
  • 11月:副首都の在り方に関する「基本的考え方」の公表
  • 福岡県(10月1日に副首都推進室を設置)に加え、宮城・群馬・広島各県の申請動向

「案」が「制度」へと変わるこの数か月を、ぜひ見守ってください。

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出典

  1. NHKニュース「『副首都』要件案判明 人口全国の1.2%以上など 札幌、名古屋、大阪、福岡の4市満たす」(2026年10月2日) https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261002de53765
  2. 西日本新聞me「【独自】『副首都』要件に福岡が該当 北海道、愛知、大阪もクリア 政令案、2日にも公表へ」(Yahoo!ニュース配信) https://news.yahoo.co.jp/articles/75ef2472d7e424f8c9d0621312776d92c1392477
  3. 読売新聞「『副首都』の指定要件定める政令、10月下旬に決定へ…国の出先機関立地などの具体的基準を明記」(2026年8月26日) https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260826-GYT1T00258/
  4. 大阪府広報「日本に副首都をつくる法律ができました!」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o070050/koho/kohoportal/202609/tp01.html
  5. 大阪市「副首都ビジョンの推進」 https://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/page/0000540938.html

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