「うるう秒」廃止へ「うるう時」導入決定――国際度量衡総会が変える世界の「時間の標準」とは

本記事は2026年10月16日時点の情報に基づいています。

はじめに――1秒の調整が終わる日

あなたのスマートフォンやパソコンの時刻は、いったい何と合わせているのでしょうか。実はその裏では、セシウム原子時計が刻む世界の「正確な時間」と、速度が一定でない地球の自転という2つの「時間」のズレを、人間が調整し続けてきた歴史があります。

2017年1月1日の日本時間の朝、「午前8時59分60秒」という本来ありえないはずの時刻が、実際に世界へ発信されました。「うるう秒」と呼ばれるこの1秒の追加は、1972年の導入以来27回、すべて+1秒のかたちで行われてきたのです。

そして2026年10月15日、フランスで10月13日から15日まで開かれていた第28回国際度量衡総会(CGPM)で、このうるう秒を廃止する決議が採択されました。日本の報道はこれを「うるう秒を廃止し、代わりに3600秒のずれをまとめて調整する『うるう時』を導入する決定」と伝えています。決議が正式に定めた内容は、2027年5月20日から、1秒の挿入・削除を行わない「連続的なUTC(continuous UTC)」へ移行することと、原子時計の時刻(UTC)と地球の自転の時刻(UT1)の許容できるずれの上限を、これまでの0.9秒未満から3600秒(1時間)まで引き上げることです。メートル条約締結を記念する「世界計量記念日」にあたるこの日から、うるう秒の時代が終わりへと向かいます。

「たった1秒」の調整が、なぜ世界的なシステム障害を引き起こし、国際議論を呼んできたのでしょうか。本記事では、うるう秒の仕組み、廃止が決まった理由(過去の障害と「負のうるう秒」のリスク)、そして新ルールへの移行で何が変わり、何が変わらないのかを、平易に解説していきます。日本への影響やよくある疑問にも触れます。まずは、2つの「時間」のズレから見ていきましょう。

うるう秒とは何か――原子時計と地球の自転、2つの「時間」のズレ

実は、世界には2つの「時間」が存在します。

ひとつは、セシウム原子の振動をもとに刻まれる原子時計の時間です。原子の振動はどのような環境でもほぼ一定のため、この時間はきわめて正確で、ぶれることがありません。現在の世界の標準時は、この原子時計を土台に作られています。

もうひとつは、地球の自転による時間です。私たちが慣れ親しんできた「1日」は、地球がひと回りする時間のことでした。ところが地球の自転は、実は速度が一定ではありません。日によってわずかに速くなったり遅くなったりを繰り返しているのです。

前者の原子時計を基準に定められた世界共通の標準時が「UTC(協定世界時)」、後者の地球の自転に基づく時刻が「UT1」です。そして、この2つのずれが大きくなりすぎないよう調整する役割を担ってきたのが、うるう秒です。具体的には、UTCとUT1のずれが0.9秒に達する前に、UTCのほうに1秒挿入して、両者を一致に近づけてきました。

ずれのたまり方を、身近な数字で見てみましょう。1990年頃、地球は原子時計の基準よりも、1日あたり約2ミリ秒長くかけて回っていました(国立天文台FAQ)。この状態が約500日続くと、ずれはちょうど1秒に達します。うるう秒とは、こうして少しずつ蓄積した「わずかな遅れ」を、1秒まとめて埋め合わせる調整なのです。

実施は原則として、世界時(UTC)の6月末または12月末です。日本はUTCより9時間進んでいる(UTC+9時間)ため、日本時間では午前8時59分59秒の次に「8時59分60秒」という、通常は存在しない時刻が現れる形で挿入されてきました。

うるう秒は1972年の導入以来27回実施され、そのすべてが「+1秒」の挿入でした。直近は2017年1月1日のことです。こうした調整の積み重ねの結果、UTCと国際原子時(TAI)の差は、現在-37秒に達しています(NICT公式資料による)。

以上の仕組み全体の流れは、次の図のとおりです。

flowchart LR
    A["セシウム原子時計<br>国際原子時 TAI"] -->|"UTC = TAI - 37秒"| B["UTC 協定世界時<br>原子時計基準"]
    C["地球の自転<br>UT1"] --> D{"UTCとUT1のずれが<br>0.9秒を超えるか"}
    D -->|"はい(旧ルール)"| E["うるう秒を挿入<br>1972年以来27回"]
    D -->|"いいえ"| F["調整なし"]
    E -. "2027年5月20日で廃止" .-> G["連続的なUTCへ移行<br>許容ずれは最大3600秒"]

図の内容を言葉で説明します。セシウム原子時計が刻む国際原子時(TAI)から37秒引いたものが、世界の標準時UTCです。一方で、地球の自転に基づくUT1とのずれが0.9秒を超えそうな場合、これまでの旧ルールではうるう秒を1秒挿入して調整してきました(1972年以来27回)。ずれが0.9秒未満であれば調整は不要です。そして、このうるう秒のルールは2027年5月20日で廃止され、ずれを最大3600秒(1時間)まで許容する「連続的なUTC」への移行が決まりました。

なぜ廃止されるのか――27回の挿入が引き起こしてきたもの

うるう秒が挿入されるとき、世界の時計には「23時59分60秒」という、ふだん存在しない時刻が突然現れます。日本時間では午前8時59分60秒です。多くのコンピューターは「59分の次は0分」という前提で動いており、この通常ありえない「60秒」という時刻を正しく扱えないことがあります。たった1秒の違いですが、時刻の記録を正確に保つことが何より大切な社会の仕組みでは、この想定外の1秒が思わぬ歪みを生みかねません。

うるう秒は1972年の導入以来、27回にわたって世界の時計に組み込まれてきました。しかしその負担は、社会の基盤がコンピューターに依存するようになるほど重くなりました。見直しの議論が始まったのは2000年頃。コンピューターの時刻管理やシステム運用への影響が深刻化していたためです。その後も実際の障害が報告されています。2012年7月1日の挿入の際には、Mozilla・Reddit・LinkedInなどで障害が相次ぎ、LinuxやJavaのプログラムにも不具合が広がったと複数の技術メディアが報じました。2017年1月1日の挿入の際には、大手クラウド企業のCloudflareが自社ブログで、うるう秒に起因するDNSサービス障害の技術的経緯を公表しています。

そして、最大の懸念は「負のうるう秒」です。地球の自転が速まると、これまでのように1秒を加えるのではなく、逆に1秒を削る調整が必要になります。1972年の制度開始から27回の挿入は、すべて1秒を加える「正の」ものでした。削除は一度も実施されておらず、もしそれが行われれば、時計の時刻が1秒「飛ぶ」という、誰も経験したことのない事態にシステムが向き合うことになります。

実際に、地球の自転速度の観測値は近年、速い側に振れる日が記録されていると報じられています。この傾向が続けば、負のうるう秒の実施は現実の問題になります。国際度量衡局(BIPM)が総会に提出した決議案の説明では、専門家が2035年までに負のうるう秒が必要になる確率を約30%と推定しており、経験のない「1秒の削除」は重要インフラに高いリスクをもたらし得るという評価が示されました。報道によれば、前倒しでの廃止を後押ししたのは、こうした未経験の調整をいつまでも引き受け続けられないという関係機関の判断だったといいます。

新しいルールと「うるう時」――報道の言葉と決議の中身を整理する

ここで、2026年10月15日の決定について、報道の言葉と決議の中身を区別して整理しておきましょう。日本の主要メディアは「うるう秒を廃止し『うるう時』を導入」と報じました。一方、決議そのものが定めているのは、次の2点です。

  • 2027年5月20日から、うるう秒による調整を行わない「連続的なUTC(continuous UTC)」に移行すること
  • UTCとUT1のずれの上限を、0.9秒未満から最大3600秒(1時間)まで拡大すること

報道で「うるう時(leap hour)」と呼ばれるのは、この新しい上限のもとで、ずれが1時間に達した時点で将来的に1時間単位の調整を行う、という考え方を指す呼び方です。ただし、その具体的な実施手順は今回の決議には含まれておらず、ずれの蓄積そのものが非常に遅いため、当分の間は何ら調整が発生しない「うるう秒のない世界」が続くと考えられています。英国国立物理学研究所(NPL)の専門家は、UTCとUT1の差が1時間に達するまでには少なくとも1000年かかるとの見方を示しており、日本の報道も「初めて調整が必要になるのは数百〜1000年後の見込み」と伝えています。

旧ルールとの違いは、次の表のとおりです。

項目 うるう秒(旧ルール、〜2027年) 連続的なUTC(新ルール、2027年〜)
調整のしかた ずれが0.9秒に達しそうなとき1秒を挿入 1秒の挿入・削除を行わない
許容されるずれ 0.9秒未満 最大3600秒(1時間)
実施回数 1972年以降27回(すべて+1秒) 当面は調整なし(将来の1時間単位の調整は「うるう時」と呼ばれる)
時計上の特殊な時刻 「8時59分60秒」等が発生 発生しない

なお、将来の1時間単位の調整について、毎日新聞は「1時間単位の時刻調整は欧米のサマータイムなどで広く行われているため、システムへの影響は生じにくいと考えられている」と報じています。ただしこれは報道されている見方であり、BIPMの決議が、将来の調整方式の安全性をサマータイムの実績によって保証しているわけではありません。決議は、各国で1時間単位の民間時刻の変更が運用されてきたことを背景として挙げるにとどまっています。

移行スケジュールと日本への影響――2027年5月20日から何が変わるか

ここまでの流れを、年表で整理しておきましょう。

  • 2022年:第27回国際度量衡総会(CGPM)で、うるう秒の廃止方針と「2035年までにUTCとUT1の差の上限を拡大する」ことを決議。新しい上限の具体値は次回総会に委任されました。
  • 2023年12月:国際電気通信連合(ITU)も2035年までの廃止を決議。ロシアは衛星測位システムの改修に時間が必要だと反対しましたが、「2040年まで延長可能」との条項付きで賛成に転じたと報じられました。
  • 2026年10月15日:フランスで開催中の第28回CGPM(10月13〜15日)で、うるう秒の廃止と連続的なUTCへの移行、ずれの上限3600秒(1時間)が正式決定。日本のメディアは「うるう時の導入決定」と伝えました。
  • 2027年5月20日:「23:59:60」のような1秒の挿入・削除のない、連続的なUTC(continuous UTC)への移行が発効します。この日は、1875年のメートル条約締結を記念する「世界計量記念日」です。

では、日本には何が変わるのでしょうか。結論から言えば、一般の生活はほとんど変わりません。

日本標準時(JST)は「UTC+9時間」として定義されており、この関係は今回の決定では変わりません。日本標準時の生成・維持を担う情報通信研究機構(NICT)は、うるう秒の実施日一覧の公式ページで「2026年7月1日は実施なし」「2027年1月1日も実施なし」と公示しています。NTPサーバーや標準電波JJYによる時刻供給も、これまでどおり続けられる見込みです。国立天文台や産業技術総合研究所も、観測・実績データを通じて国際的な時刻の決定に貢献してきました。

総務省については、日本を含む多くの国ではシステム改修が不要で影響は限定的という見解が報道されています。私たちの側も、スマホやPCの時刻はNTPで自動同期されるため、何か新しい対応をする必要はありません。金融や通信の現場では、「23:59:60」という通常存在しない時刻や1秒の削除を扱うリスクが、今回の移行によって構造的に解消される方向へ向かいます。天文や航法の分野では、UTCとUT1のずれの情報(DUT1)の提供がBIPMによって続けられており、必要とする分野ではこの情報を補正して使う形になります。

なお、報道によれば、今回の総会ではうるう秒のほかに「1秒」の定義見直しの方針や、月面活動に向けた「月の時刻」の基準についても審議されました。「時間の標準」をめぐる議論は、ここからも続きそうです。

よくある質問(FAQ)

うるう秒とは何ですか?

うるう秒は、原子時計を基準とする協定世界時(UTC)と、地球の自転に基づくUT1とのずれが0.9秒を超えないよう、UTCに1秒を加える調整です。1972年の導入から2017年までに27回実施され、すべて+1秒の挿入でした。日本では午前8時59分60秒という、通常には存在しない時刻として現れます。

なぜ1秒の調整でシステム障害が起きるのですか?

うるう秒の挿入により「8時59分60秒」のような通常存在しない時刻が発生するため、これを正しく扱えないプログラムが誤動作することがあるためです。2012年の挿入の際にはMozilla・Reddit・LinkedInなどで障害が相次いだと報じられ、2017年の挿入の際にはCloudflareがDNSサービスの障害について自社ブログで技術的な経緯を公表しています。

「うるう時」が実施されたら生活に影響はありますか?

今回の決議が定めたのは、1秒の挿入・削除を行わない連続的なUTCへの移行と、ずれの上限の3600秒(1時間)への拡大です。ずれが1時間に達するには少なくとも1000年かかるとの専門家の見方もあり、日本の報道も「調整が必要になるのは数百〜1000年後の見込み」と伝えています。当面は、うるう秒も代替の調整も行われない世界が続きます。

日本の時計や時刻制度は変わりますか?

変わりません。日本標準時(JST)はUTC+9時間の関係を維持し、一般の時計の表示もこれまでどおりです。NICTは公式ページで2027年1月1日のうるう秒実施なしを公示しており、NTPによる時刻配信や標準電波JJYの時刻供給もこれまでどおり続けられる見込みです。総務省については、日本への影響は限定的という見解が報道されています。

まとめ――変わらない時計、変わる「時間のルール」

1972年から50年以上にわたって世界の時計を調整してきたうるう秒の時代が、2027年5月20日に終わりへと向かいます。今回の決定の本質は、コンピューター時代に合わなくなったルールの更新です。これまで計27回の挿入が繰り返され、2012年には複数の大手サービスが、2017年にはCloudflareが障害に見舞われました。そして、経験したことのない「1秒の削除」(負のうるう秒)が2035年までに必要になる確率を専門家は約30%と推定しており、この未経験の調整を重要インフラが抱え続けるリスクを回避する判断が、廃止の前倒しを後押ししました。

私たちの時計はそのままです。変わるのは、世界の「時間の標準」の運用ルールだけです。

読者が今日から覚えておくべきは、次の3点です。

  • 2027年5月20日以降、うるう秒は原則挿入されません(一般の機器で設定変更は不要です)
  • 当面は代替の調整も行われず、連続的なUTCの時代が続きます(ずれが1時間に達するのは数百〜1000年後との見込み)
  • 原子時計と日本標準時を支える仕組みは変わらず、これからも動き続けます

うるう秒をめぐる議論が決着しても、「時間」をめぐる国際的な挑戦は続きます。「1秒」の定義を見直す方針や、月面活動で必要となる「月の時刻」基準の審議も、すでに始まっています。変わらない時計を支える、変わるルール。その行方から今後も目が離せません。


参考文献

  • 毎日新聞「「うるう秒」を廃止→「うるう時」の導入決定 調整は数百年後か」(2026年10月14日配信): https://mainichi.jp/articles/20261014/k00/00m/100/320000c
  • ITmedia NEWS「「うるう秒」27年に事実上廃止へ 自転とのずれ「1時間」まで容認 10月に国際会議で採決」(2026年8月24日): https://www.itmedia.co.jp/news/article/2608/24/2000000718/
  • BIPM(国際度量衡局)第28回CGPM 決議(continuous UTC): https://www.bipm.org/en/cgpm-2026/resolution-5
  • BIPM "Towards Continuous UTC": https://www.bipm.org/en/continuous-utc
  • 国立天文台(NAOJ)FAQ「「うるう秒」ってなに?」: https://www.nao.ac.jp/faq/a0403.html
  • 情報通信研究機構(NICT)「うるう秒実施日一覧」(2027年1月1日実施なしの公示を含む公式ページ): https://jjy.nict.go.jp/QandA/data/leapsec.html
  • Cloudflare Blog「How and why the leap second affected Cloudflare DNS」(2017年、当事者による障害の技術解説): https://blog.cloudflare.com/how-and-why-the-leap-second-affected-cloudflare-dns/
  • Reaitime News「うるう秒廃止はなぜ2027年に前倒しされることになったのか」(2026年9月22日): https://reaitimenews.com/entry/leap-second-abolition-2027-why-moved-up
  • Yahoo!ニュース トピックス(科学)「うるう秒廃止 うるう時の導入決定」: https://news.yahoo.co.jp/pickup/6598933

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