太陽光発電が原子力を初めて上回る――世界の電力ミックスはいま何を迎えたのか
はじめに――なぜ「太陽光が原子力を超えた」のか
2026年9月末、電力の歴史に一つの画期を刻む報告が発表されました。原子力産業の年次報告書「WNISR 2026」(世界の原子力産業状況報告書)の集計では、世界の太陽光発電の年間発電量が、原子力発電を初めて上回ったと報じられています。太陽光といえば「夜は発電できないのでは?」という疑問が浮かびがちです。いっぽうの原子力は、昼夜を問わず動き続ける基幹電源の代表格です。いったいなぜ、この逆転が起きたのでしょうか。
電力史のマイルストーンが、なぜ2025〜2026年に密集したのか
まず、何が起きたのかを確認しておきます。原子力産業の年次報告書「WNISR 2026」(世界の原子力産業状況報告書)によると、太陽光は2025年4月に月次の発電量で原子力を初めて上回り、続く2025年通年でも、年間発電量で初めて原子力を追い越しました(出典1: pv magazine「Solar surpasses nuclear power globally for first time」)。
しかも、これは孤立した出来事ではありません。同じ2025年、再エネ全体の発電量(シェア33.8%)が石炭(33.0%)を、現代の電力システム史上初めて上回っています(出典2: Ember「Global Electricity Review 2026」)。つまり今起きているのは「太陽光が原子力を抜いた」という一つのニュースではなく、電力システムそのものの構造転換の一端なのです。
なお、一点だけ補足しておきます。ここからの「2025年の年次逆転」は、業界紙pv magazineが報じたWNISR 2026側の集計・評価です。いっぽうEmberの「Global Electricity Review 2026」は、2025年時点で太陽光は原子力に「迫った(drew close to nuclear)」と表現し、逆転の判定は2026年と見ています。このずれは両者の原子力側発電量の集計方法の違いによるとされるため、本稿ではどちらか一方に立った断定を避け、両者の表現をそのまま併記して示します。ただ、どちらの見方でも「数年のうちに逆転は確実に起きる」という点は共通しており、Emberは「2026年に太陽光と風力の双方が原子力を追い越す」と予測しています。
本稿で答える3つの問い
「夜も発電できないのに、なぜ年間で超えられるのか」「なぜ今この時期に、これほど急に成長したのか」「そして何が、まだ変わっていないのか」――本稿では、この3つの問いに一次データをもとに答えていきます。
具体的には、Ember「Global Electricity Review 2026」やIEA-PVPSの統計を使いながら、①逆転が起きた「何が起きたか」を数値で正確に固定し、②その成長を支えた技術と中国の製造力の構造を解き明かし、③夜間・冬季・系統という太陽光の限界と、それを変えつつある蓄電池の動向を公平に見ていきます。最後には、世界とは少し違う構図を持つ日本の電源構成との対比まで踏み込みます。
夜も冬も出力が落ちる「欠点」を抱えた太陽光が、なぜ史上最速の電源になったのか。その構造を、数字とともに見ていきましょう。
何が起きたのか:数値で見る歴史的転換点
2026年9月末、世界の原子力産業状況報告書(WNISR 2026)の発表が電力史の一つの画期を報じました。世界の太陽光発電の年間発電量が、2025年に原子力を初めて上回ったというのです。まずは、一次データに基づく数値で「何が起きたのか」を正確に確認していきます。
月次逆転から年次逆転へ――2025年4月と2025年通年
この転換は、ある日突然訪れたのではなく、段階を踏んで進行しました。WNISR 2026(pv magazine報道)によると、まず2025年3月に風力が月次発電量で原子力を初めて上回り、続く4月には太陽光が月次で初めて原子力を上回りました。その勢いはその後も止まりません。2025年3月から2026年6月までの16カ月間、太陽光か風力のいずれかが毎月原子力の発電量を上回り続け、2026年3月〜5月には両者がそれぞれ単独で原子力を超える局面まで現れています。そしてWNISR 2026の集計では、2025年通年で太陽光の年間発電量が原子力を初めて上回ったとされます(Emberの集計では逆転は2026年見立て。この差については本章末尾と前章の注記のとおりです)。
太陽光2,778TWh vs 原子力2,703TWh
数値を並べると差はわずかですが、両者の伸びしろはまったく異なります。英エネルギー情報機関Emberの「Global Electricity Review 2026」によると、2025年の世界の太陽光発電量は2,778 TWhで、前年比+636 TWh(+30%)と8年ぶりの高成長を記録しました。いっぽう原子力は2,703 TWhで、伸びは+1.1%にとどまっています(WNISR 2026)。太陽光の増分636 TWhは、2025年に増加した唯一の化石燃料である天然ガスの増分の18倍に達します。また、世界の太陽光発電量の合計は、EU全体の電力需要と同等の規模に成長しました。
2025年 世界の電源別発電量(出典:Ember「Global Electricity Review 2026」/WNISR 2026)
| 電源 | 2025年発電量 | 前年比 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 太陽光 | 2,778 TWh | +30%(+636 TWh) | 風力を初めて上回り新設電源の主役に |
| 原子力 | 2,703 TWh | +1.1% | シェア8.8% |
| 風力 | ―(※参照資料に絶対値の記載なし) | +8.2% | 2025年3月に月次で原子力を初めて上回る |
| 再エネ計 | 10,730 TWh | ― | シェア33.8%、石炭(33.0%)を史上初めて上回る |
| 石炭 | 10,476 TWh | -0.6%(-63 TWh) | 史上初めてシェア3割割れ |
xychart-beta
title "世界の太陽光発電量の推移(TWh・2024年は本稿計算値)"
x-axis ["2015年", "2022年", "2024年*", "2025年"]
y-axis "発電量(TWh)" 0 --> 3000
bar [256, 1333, 2142, 2778]
line [2703, 2703, 2703, 2703]
※2024年の値(2,142 TWh)は、2025年の2,778 TWhから増分+636 TWhを差し引いた本稿計算値です。折れ線は比較用に2025年の原子力発電量2,703 TWhを水平に引いたものです。10年で10倍超、直近3年でほぼ2倍という太陽光の急成長に対し、原子力は長年にわたり横ばいであることが読み取れます。
ここで一つ、誠実に注記しておきたい点があります。「初めて上回った」年の判定は、データセットによって2025年と2026年にわかれるということです。WNISRは2025年の年次逆転を「達成済み」と評価するのに対し、Emberは2025年時点で太陽光は原子力に「迫った(drew close to nuclear)」と表現し、「太陽光と風力の双方が2026年に原子力を確実に追い越す」と見ています。この差は、原子力発電量の集計方法の違いによるものです。ただし、どちらの判定を取っても、「2025年前後に太陽光が原子力を追い越す歴史的な交差が現実に進行している」という本質は変わりません。
原子力シェア8.8%は約45年ぶりの低水準
太陽光が急拡大する裏で、原子力の相対的な地位は低下しています。WNISR 2026によると、2025年の世界の発電量に占める原子力の割合は8.8%と、約45年ぶりの低水準になりました。これは1996年のピーク(17.5%)のほぼ半分に相当します。発電量自体は+1.1%と微増しているものの、世界の電力需要自体が伸び続けているため、増産がシェアの維持に追いついていないのです。月次・年次を通じたこの逆転は、単発のニュースではなく、電力システムの構造転換の一コマといえるでしょう。
なぜ3年で2倍になったのか:技術と中国の製造力
前章で見た2,778 TWhという発電量は、偶然積み上がった数字ではありません。価格・効率・そして中国の製造力という3つの牽引役が噛み合った結果です。
約3年で2倍、10年で10倍――他の電源にない成長曲線
まず成長の速度を、素の数字で確認しましょう。Ember「Global Electricity Review 2026」によれば、世界の太陽光発電量は2022年に1,333 TWh、2025年に2,778 TWhとなり、約3年でほぼ2倍に達しました。2015年の256 TWhから数えれば、10年で10倍以上です。この成長曲線を持つ主要電源は、電力史上他に例がありません。
設備容量の側面でも拡大は加速しています。IEA-PVPSの集計では、2025年の世界の新規導入は約690 GW(前年比+15%)で、累計は2.96 TWに到達。これは理論発電量にして年間約3,845 TWh、世界の電力消費の約12%に相当する規模です(pv magazine、2026年9月28日)。いっぽうWNISR 2026の推計では、2025年の設備容量増加は+510 GW(+27%)でした(pv magazine、2026年9月29日)。集計手法に差はあるものの、「年間数百GW規模の新しい電源が、毎年2〜3割の伸びで積み増され続けている」という構図は共通しています。
中国が製造も導入も世界の6割
この成長エンジンの中心にいるのが中国です。2025年の世界の太陽光新規導入に占める中国の割合は、Ember集計(378 GW DC)で58%、IEA-PVPS集計(415 GW)で60%に達します。さらにモジュール生産の79%、製造能力の71%が中国に集中しており、「導入も製造も世界の6〜8割」という突出した地位を築いています(pv magazine、2026年9月28日/Ember GER 2026 第4章)。
発電量でも同じ傾向です。中国の太陽光発電量は2025年に+336 TWh(+40%)で1,175 TWhとなりました。この単国の年間増分は、世界全体の2023年の増分(+331 TWh)を上回り、同年の米国の増分(+85 TWh)の4倍に相当します(Ember GER 2026 第4章)。
供給過剰がもたらした価格下落と、エレクトロニクスの進化
なぜこれほどの速さで普及したのでしょうか。第一の要因は、中国の製造規模がもたらす価格低下です。IEA-PVPSによれば、2025年の世界のモジュール生産量は722 GWだったのに対し、導入量は690 GW、製造能力にいたっては年間1,531 GWと導入の2倍超に達しています。IEA-PVPSはこの状況を「供給過剰・低稼働率・価格圧力・収益性低下」と表現しました(pv magazine、2026年9月28日)。メーカーにとっては過酷な環境ですが、この供給過剰は、購入者側から見た価格下落=導入拡大を下支えした重要な背景の一つと考えられます。
第二の要因が、セル技術の進化です。PERCからTOPCon、さらにはペロブスカイト系へと、セル技術の世代交代が進んでいるとされます。効率をめぐる詳しいデータは、Fraunhofer ISEが年次で公表する「Photovoltaics Report」に整理されています(本稿では効率の具体的な数値は記載しません)。
第三の要因は、蓄電池です。Emberによれば蓄電池コストは2024年に-20%、2025年には-45%と急落し、パワエレ・系統技術(electrotech)のスケーリングとともに、太陽光の成長を下支えしています(Ember GER 2026)。
太陽光コスト低下の3つの牽引役
| 牽引役 | 概要 | 出典 |
|---|---|---|
| 規模の経済(中国製造) | 導入の58〜60%、モジュール生産の79%、製造能力の71%が中国。供給過剰が価格圧力を継続 | IEA-PVPS/Ember |
| 効率向上(セル技術) | PERC→TOPCon→ペロブスカイトと世代交代が進む(効率の具体値は割愛) | Fraunhofer ISE PV Report |
| 蓄電池コスト急落 | 2024年-20%、2025年-45% | Ember |
この3つは独立した要因ではなく、互いを強め合う循環として整理できます(下図は本稿の解釈による模式図です)。
flowchart LR
A["中国製造の規模<br>生産の79%・製造能力の71%"] --> B["価格下落<br>(供給過剰)"]
B --> C["導入拡大<br>2025年 690GW"]
C --> D["蓄電コスト低下<br>2025年 -45%"]
D --> E["夜間も使える太陽光"]
E --> F["さらに導入拡大"]
F --> A
こうして積み上がった太陽光は、次章で見る「設備容量では6倍なのに、発電量がやっと並ぶ」という特異な構造を持ちながら、世界の電力ミックスの主役の座へと進んでいくことになります。
電源ミックス比較:太陽光・原子力・風力・化石燃料
「発電量が並んだ」といっても、電源ごとの性格はまったく異なります。2025年の世界の主要電源を、発電量・成長率・設備容量・稼働率・炭素強度の軸で並べて比較してみましょう。
設備容量6倍なのに、発電量がやっと並ぶ――capacity factorの罠
2025年末の太陽光の累計設備容量2,383 GWは、原子力の399.5 GWの約6倍に達します(WNISR 2026/pv magazine報道)。ところが発電量は2,778 TWh vs 2,703 TWhの僅差です。この非対称の正体が、capacity factor(稼働率)です。太陽光は夜間・冬季・悪天候には発電できず、平均稼働率(capacity factor)は約13%(本稿計算:実績発電量2,778 TWh÷累計容量2,383 GW×8,760時間。IEA-PVPSの理論発電量ベースでは約15%)。いっぽう原子力は同じ実績発電量ベースで約82%(本稿計算:2,703 TWh÷運転容量374.7 GW×8,760時間)を維持し、太陽光の年間平均の稼働は1日3時間強に相当します(本稿計算)。
世界の主要電源 比較表(2025年)
| 電源 | 2025年発電量(TWh) | 直近年比 | 設備容量(GW) | capacity factor目安 | 炭素強度区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 太陽光 | 2,778 | +30%(+636 TWh) | 約2,383 ※1 | 約13% ※2 | 低(運転時ゼロ) |
| 原子力 | 2,703 | +1.1% | 399.5 | 約82% ※2 | 低(運転時ゼロ) |
| 風力 | ― ※3 | +8.2% ※4 | ― | ― | 低(運転時ゼロ) |
| 水力 | ― ※3 | ― | ― | ― | 低(運転時ゼロ) |
| 石炭 | 10,476 | -0.6%(-63 TWh) | ― | ― | 高 |
| ガス | ―(※参照資料に絶対値の記載なし) | 微増 | ― | ― | 中 |
| 再エネ合計 | 10,730 | ― | ― | ― | 低〜ゼロ |
※1 WNISR集計。IEA-PVPSは集計方法の差から累計約2.96 TWとし、理論発電量を年間約3,845 TWh=世界の電力消費の約12%相当と推計(pv magazineのIEA-PVPS報道)。 ※2 本稿計算(実績年間発電量÷設備容量×8,760時間。太陽光はIEA-PVPSの理論発電量ベースでは約15%)。 ※3 今回参照した一次資料に絶対値の記載がなく省略。 ※4 Ember公式サイトによる。 炭素強度区分は定性的な表現です(ライフサイクルCO2の実数値は本稿の参照データに含まれないため記載せず)。出典: Ember「Global Electricity Review 2026」ほか、本文中のリンク先。
つまり「容量で6倍でも発電量がやっと並ぶ」という構図は、夜も冬も動き続けられる原子力と、昼にしか発電できない太陽光の構造差をそのまま映しています。したがって「年間発電量の逆転」を「いつでも使える電力の逆転」と読み替えることはできません。この区別が、次章で扱う蓄電・系統の課題への入口になります。
再エネ33.8%が石炭33.0%を超えた100年ぶりの年
2025年は、太陽光対原子力だけでなく、より大きな逆転も同時に起きました。Ember「Global Electricity Review 2026」によると、再エネは10,730 TWh(シェア33.8%)に達し、石炭(10,476 TWh・33.0%)を現代の電力システム史上初めて上回りました。石炭のシェアが3分の1を割ったのも史上初めてです。低炭素電源の増加(+887 TWh)が世界の電力需要の増加(+849 TWh)を初めてすべて賄い、化石燃料発電計は-38 TWh(-0.2%)と2020年以来の減少となりました。クリーン電力(再エネ+原子力)のシェアは43%に達し(Ember公式サイト)、世界平均の炭素強度も458 gCO2e/kWh(-2.7%)と改善しています。
pie showData
title 2025年 世界の電力ミックス(発電量シェア・%)
"再エネ" : 33.8
"石炭" : 33.0
"ガス・石油その他(計算値)" : 24.0
"原子力" : 8.8
※「ガス・石油その他」は、化石燃料計のシェア約57%から石炭33.0%を除いた計算値(概算)。出典: Ember「Global Electricity Review 2026」
それでも、世界の電力の約57%は依然として化石燃料が占めます。2025年の複数の「初めて」は勝敗の決着ではなく、蓄電と系統を舞台にした次の局面の始まりなのです。
太陽光の課題と限界:夜間・冬季・系統・蓄電
年間発電量で原子力を初めて上回ったのは、あくまで「1年間の積算」で見た結果です。歴史的な節目であると同時に、夜・冬・系統という三つの壁が初めて正面から見えてきた節目でもあります。ここでは太陽光の限界を、祝賀抜きで公平に確認します。
発電できない夜と、出力が落ちる冬
太陽光は夜に発電できず、冬や悪天候では出力が大きく落ちます。実績の年間発電量2,778 TWh(Ember)を累計設備容量2,383 GW(WNISR 2026)の年間稼働時間で割って本稿で計算すると、太陽光のcapacity factor(設備容量あたりの平均稼働率)は約13%。夜間ゼロ、冬季低下という変動まですべて含んだ平均値で、IEA-PVPSの理論発電量ベース(約3,845 TWh/2.96 TW)でも約15%と大差ありません。いっぽう原子力は同じ実績発電量ベースで約82%(本稿計算:発電量2,703 TWhを運転容量374.7 GWの年間稼働時間で割った値)です。
この差が、「設備容量では太陽光が原子力の約6倍(2,383 GW対399.5 GW)なのに、発電量はやっと並んだ」という構図の正体です(WNISR 2026報道(pv magazine、2026年9月29日))。年間の積算では勝っても、時間帯ごとの供給力という意味では、太陽光はまだ安定電源の代替になっていません。
カーティングとマイナス価格――系統が追いつかない
晴れた昼に太陽光が一斉に発電すると、需要が追いつかず電気が余ります。IEA-PVPSは、太陽光の浸透率が高い市場ではカーティング(出力抑制)・マイナス価格・取引価格の低下・系統接続の制約が顕在化しており、蓄電・需要応答・系統強化・予測改善・市場アクセスの改善が不可欠だと明言しています(IEA-PVPS報道(pv magazine、2026年9月28日))。WNISRも「変動性再エネの増大と低・マイナス価格の時間帯」への系統対応を課題として指摘しました。
昼の余剰で需要曲線が大きく凹み、夕方に急上昇するこの形状は「ダックカーブ」と呼ばれます。この歪みをどうならすかが、次の成長の分水嶺です。
flowchart LR
A["昼:太陽光が余剰"] --> B{"蓄電池"}
B -->|"充電"| C["夕方〜夜:放電で需要を賄う"]
A -->|"充電しきれない余剰"| D["カーティング/マイナス価格"]
C --> E["ダックカーブの平たん化"]
蓄電池が変え始めた『昼の太陽光』
打ち手となる蓄電池は、急速に安くなっています。EmberのGlobal Electricity Review 2026によると、蓄電池コストは2024年に20%下落し、2025年には45%も下がりました。2025年には系統用蓄電104 GW/257 GWhが新たに接続され、世界の累積蓄電容量の78%超が直近3年間に設置されています(WNISR 2026)。欧州・カナダ・米国の年間導入量も、2020年の2.9 GWhから2025年には約79 GWhへ、5年で25倍以上に拡大しました(IEA-PVPS)。
効果はすでに数字に出ています。2025年に世界で新設された太陽光のうち14%分については、昼の電力を別の時間帯へ移せる蓄電がすでに存在します。先行するチリとオーストラリアでは、この比率が50%を超えています(Ember)。
ただし誠実に読めば、それは残る86%がまだ時間シフトできないことも意味します。Ember自身が「いつでも使える太陽光(anytime solar)」への転換は始まったばかりだと述べるように(Batteries have unlocked the era of anytime solar(Ember))、冬季や連日の悪天候への根本的な解決策はまだありません。蓄電池が貯められるのは数時間単位の「時間」であり、季節をまたぐ貯蔵は別の技術課題です。
| 弱点 | 現行の対策 | 残る課題 |
|---|---|---|
| 変動性(天候・時間帯) | 蓄電による時間シフト、需要応答、予測改善 | シフト可能なのは新設太陽光の14%のみ |
| 夜間(出力ゼロ) | 蓄電池の放電、他電源との併用 | 長時間・大容量の蓄電はまだ高コスト |
| 冬季・連日悪天候 | 系統間連系、多様な電源ミックス | 季節間貯蔵の実用解は未確立 |
| 系統逼迫 | 系統強化、市場アクセス改善 | カーティング・マイナス価格が高浸透市場で顕在化 |
「年間発電量で原子力を抜いた」という事実と、「夜と冬はまだ使えない」という事実。その両方を正しく見るとき、太陽光の次の決戦フィールドが蓄電と系統にあるという見取り図が立ち上がります。
原子力の現在地と日本の電源構成
前節までに見たとおり、太陽光には夜と冬という構造的な弱点がまだ残ります。では、年間発電量で追い抜かれた側の原子力は、いまどんな状況にあるのでしょうか。結論を先に言えば、「急縮小している」わけでも「躍進している」わけでもなく、成長の実感は中国とロシアに集中し、それ以外の地域では緩やかに縮んでいるのが実態に近いようです。ここでは世界の原子力の現在地を確認したうえで、日本の電源構成を世界と並べてみます。
稼働411基・建設中73基――成長は中国とロシアに集中
世界の原子力産業の状況を報じるWNISR 2026によると、2026年7月1日時点で原子炉は31カ国・411基が稼働し、建設中は73基(うち中国37基)と1987年以来の多さです(pv magazineの報道)。夜間も冬季も一定の出力を供給できる低炭素電源は世界的に希少であり、原子力の役割が消えたわけでは決してありません。
ただし、着工の多さと完成の速さは別物です。2023〜25年に接続された16基で定時に完成した炉はゼロ、平均建設期間は10.9年に達します。2025年は4基の稼働開始に対して7基が閉鎖と2021年以来の純減となり、中国を除くと2006〜25年の累計で55基減少。発電量は2,703 TWh(+1.1%)で、中国の+7.6%が牽引した一方、中国以外は-0.2%と2006年水準を下回り、シェア8.8%は約45年ぶりの低水準です。建設も資金も勢いがあるのは中国とロシア周辺に限られ、太陽光の「3年でほぼ2倍」という速度との対比は歴然と言えます。
日本では太陽光9.8% vs 原子力9.1%
視点を日本に移しましょう。Ember「Global Electricity Review 2026」によると、2025年の日本の電源構成は化石燃料67%(天然ガス33%+石炭32%)、太陽光9.8%、原子力9.1%、風力1.3%です(Ember GER 2026 第4章)。つまり世界と同じく、日本でも僅差で太陽光が原子力を上回っています。太陽光シェアは2015年の3.4%から10年で約3倍となり、日本は世界第4位の太陽光発電国です。
| 電源 | 世界平均 | 中国 | 日本 |
|---|---|---|---|
| 化石燃料 | 57% | 58% | 67% |
| 太陽光 | 8.7% | 11.1% | 9.8% |
| 原子力 | 8.8% | ―※1 | 9.1% |
| 風力 | 8.5% | 10.9%※2 | 1.3% |
※1 中国の原子力シェアは本稿の参照データに含まれず。※2 「太陽光+風力=22%」から太陽光分を差し引いた本稿計算値。 出典: Ember「Global Electricity Review 2026」(2025年実績)
pie
title 日本の電源構成(2025年)
"化石燃料" : 67.0
"太陽光" : 9.8
"原子力" : 9.1
"風力" : 1.3
"水力・バイオ等(残差計算値)" : 12.8
表が示すとおり、日本の特徴は化石燃料の高さと、太陽光への偏りにあります。電力1kWhあたりの炭素強度は477 gCO2e/kWhと15年ぶりの低水準になったものの世界平均458をやや上回り、風力シェア1.3%はアジア平均7.8%から大きく見劣りします。脱炭素の「もう一台のエンジン」となりうる風力が弱く、太陽光に比重が寄っていることが、世界平均との主な違いです。
2040年に原子力20%を目指す第7次エネルギー基本計画
日本の原子力シェアは、福島第一原発事故前の2010年には25%を占めていましたが、2012〜16年には2%弱まで低下し、その後の再稼働で2025年に9.1%まで回復しました。この流れを受けて、政府の第7次エネルギー基本計画は2040年に原子力シェア20%を目標として掲げています(資源エネルギー庁・第7次エネルギー基本計画関連資料)。
仮にこの目標が達成されても、2010年の水準へようやく戻るという大きさの話であり、世界の太陽光が3年でほぼ2倍になった速度とは対照的です。建設期間の長さとコストの制約は世界共通の課題で、世界の電力地図が塗り替えられるいま、日本のミックスがどう組み替えられていくのかは、再稼働の進捗と政策の行方次第と言えそうです。
よくある質問(FAQ)
太陽光は夜発電できないのに、なぜ年間発電量で原子力を超えられるのですか?
答えは「設備容量の差を、1年間の積算で埋め合わせできるから」です。2025年時点で太陽光の世界設備容量は2,383 GWと、原子力の399.5 GWの約6倍に達しています(WNISR 2026)。太陽光は夜間は発電できず、平均稼働率(capacity factor)も約13%にとどまります(本稿計算・実績発電量ベース)。それでも設備が圧倒的に多いため、昼間の発電を1年で合計すると2,778 TWhとなり、原子力の2,703 TWhを上回りました。ただし時間帯・季節ごとの供給力は別物で、夜間を今も原子力などが支えている点は押さえておく必要があります。
この「逆転」は一時的ですか? それとももう戻らないのでしょうか?
成長率の差から見ると、構造的な転換と整理するのが妥当です。2025年の太陽光発電は前年比+30%(+636 TWh)だったのに対し、原子力は+1.1%にとどまりました(Ember/WNISR 2026)。実際、2025年3月以降は太陽光か風力のどちらかが毎月原子力を上回り、2026年3〜5月には両者が単独で上回ったと報じられています。Emberは「2026年には太陽光と風力の双方が確実に原子力を追い越す」と予測しています。なお「初めて上回った」年の判定は、原子力発電量の集計方法の違いから、データセットごとに2025年〜2026年に分かれます。
原子力はもう「要らない」ということですか?
答えは単純ではありません。WNISR 2026によれば、2026年7月時点で世界411基が稼働し、建設中は73基(うち中国37基)と1987年以来の多さです。夜間・冬季にも安定して出力できる低炭素電源は希少で、SMR(小型モジュール炉)の開発も続けられています。一方で、直近に接続された炉では定時完成がゼロで平均建設期間10.9年と時間がかかるなど、建設の大半が中国・ロシア産業の関与に偏る中、原子力の今後の役割は国と技術次第で大きく分かれると見られます。
日本では太陽光と原子力、どちらの割合が大きいのですか?
2025年の日本の電源構成では、太陽光9.8%に対し原子力9.1%と、世界と同じく僅差で太陽光が上回っています(Ember「Global Electricity Review 2026」)。太陽光シェアは2015年の3.4%から10年で約3倍に拡大し、日本は世界第4位の太陽光発電国です。いっぽう政策面では、第7次エネルギー基本計画が2040年に原子力シェア20%を目標としています(資源エネルギー庁)。今後のミックスは政策の行方次第ですが、風力が1.3%とアジア平均(7.8%)を大きく下回っている点が日本固有の課題です。
太陽光が増えすぎると、停電や電気代は大丈夫ですか?
課題はすでに顕在化しています。IEA-PVPSは、太陽光の浸透率が高い市場では出力抑制(カーティング)やマイナス価格、系統接続制約が起きていると指摘します。対策の中心は蓄電池で、2025年には蓄電池コストが45%低下し、世界で104 GW/257 GWhの系統用蓄電が新たに接続されました(Ember/WNISR 2026)。チリやオーストラリアでは、新設太陽光の50%超を時間シフトできる蓄電が整備されています。ただし蓄電だけが冬季や悪天候への根本的な解決になるわけではなく、系統強化や需要応答との組み合わせが不可欠とされています。
このFAQの主な出典: WNISR 2026(pv magazine報道)/Ember「Global Electricity Review 2026」/IEA-PVPS「Trends in Photovoltaic Applications 2026」(pv magazine報道)/資源エネルギー庁 第7次エネルギー基本計画関連資料
まとめ――次に読むべきアクション
「いつでも太陽光」への最後の壁
2025年、世界の太陽光発電量は2,778 TWh(前年比+30%)に達し、2,703 TWhだった原子力を年間発電量で初めて上回りました(pv magazine/WNISR 2026、Ember)。同じ年に再エネ全体(33.8%)が石炭(33.0%)を初めて超えたことも重なり、これは単発のニュースではなく、電力システムの構造転換の入口です。
ただし、逆転が証明したのは「年間の積算なら並べられる」という段階までです。設備容量では太陽光が原子力の約6倍あるのに、平均稼働率は約13%対約82%(本稿計算・いずれも実績発電量ベース)。夜と冬、天候、そして系統の限界という壁はそのまま残っています。決戦フィールドはこれから、発電量の積み上げから蓄電池(コストは2025年に−45%)と系統強化へと移ります。日本でも太陽光9.8%対原子力9.1%と僅差で同じ転換のただなかにあり、アジア平均を大きく下回る風力1.3%をどう補うかが固有の課題です。電力需給は気候の振れにも左右されます。今冬の日本への影響が注目されるエルニーニョの解説記事も、あわせてご覧ください。
この記事を読んだ人が次にできること
- Emberのデータツールで自国の電源構成を見る: Ember「Global Electricity Review 2026」内のElectricity Data Explorerで、日本を含む各国の発電量とシェアの推移を無料で確認できます。
- 一次レポートを追う: Emberのレポートは日本語版も公開されています。太陽光導入の詳細はIEA-PVPS「Trends in Photovoltaic Applications 2026」、原子力側の実態はWNISR 2026で確認できます。
- 需要側の動きも押さえる: 電力需要を押し上げる側の象徴として、NTTのAIデータセンター500MW計画を解説した過去記事もあります。供給の転換と需要の膨張が交差する場所に、次の電力問題があります。
参考文献・出典
- pv magazine「Solar surpasses nuclear power globally for first time」(2026-09-29)— pv-magazine.com
- Ember「Global Electricity Review 2026」 — ember-energy.org
- pv magazine「Global solar additions hit 690 GW in 2025」(2026-09-28、IEA-PVPS報道) — pv-magazine.com
- Ember「Global Electricity Review 2026 / Chapter 4: Major Countries and Regions」 — ember-energy.org
- Ember「Batteries have unlocked the era of anytime solar」 — ember-energy.org
- 資源エネルギー庁 第7次エネルギー基本計画関連資料 — enecho.meti.go.jp
- IEA-PVPS「Trends in Photovoltaic Applications 2026」 — iea-pvps.org
- WNISR 2026(世界の原子力産業状況報告書) — worldnuclearreport.org
- Fraunhofer ISE「Photovoltaics Report」 — ise.fraunhofer.de
※本稿の数値は上記一次情報に基づく。capacity factor(太陽光約13%・原子力約82%)は本稿計算(実績年間発電量÷設備容量×8,760時間。太陽光はIEA-PVPSの理論発電量ベースでは約15%)。Wikipediaは一次資料として使用していない。